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ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報No. 232

連載第24回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

text by ジーン・ランダース(Jeanne Landers)and ジョルダナー・エリザベス(Jordannah Elizabeth)

translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

I. シルヴィー・クルボアジェ&メアリー・ハルヴァーソン『Crop Circles』

シルヴィー・クルボアジェ Sylvie Courvoisierとメアリー・ハルヴァーソン Mary Halvorsonとのクロップ・サークルズ Crop Circlesは、バランスのとれた演奏でありながら、音楽の自由を大切にしているデュオだ。ブルックリンを拠点とするハルヴァーソンは、やはりブルックリンで活動しているスイス生まれのピアニスト・クルボアジェと共演し、このコラボレーション盤でギターを演奏している。2人は相互に尊重し、主導権を渡しあい、相手のサウンドを補っている。それも、いとも簡単に。作品を通じて、片方のみが空間を支配することはなく、10曲のすべてにおいて電気的な「押し引き」がある。それぞれの曲の雰囲気はかなり異なっているが、2人の間で起きる「ダンス」には、2人に共通する芸術スタイルがある。両アーティストがバレエのダンサーのようになめらかで容易に動く様子を聴くと、このことは明らかだ。2人が演奏する音楽と動くタイミングは、サウンドでもあると同時に、視覚的な体験でもある。

「Downward Dog」と「Bitter Apple」を除いて、それぞれの曲は聴き手をゆったりさせるものだ。一貫して繊細なタッチであり、2人は、羽ばたくような鍵盤と優しく震える弦を提示する。ハルヴァーソンは、「Absent Across Skies」と「Your Way」において、注意深くそこからの突破を図る。彼女はシタール(4曲目)やハープ(6曲目)のような音をギターで作り、楽器の可能性を聴き手に再考させてくれる。ピアノの存在はこれとは対照的だ。クルボアジェはアルバム全体において速度と手数をもって演奏する。鍵盤の音はすぐにそれとわかるのだが、彼女がいつ何をするのかわからない。「Absent Across Skies」では、彼女のペースで弦を呼び込み、曲想を短く方向づける。この何度もの策動によって、聴き手はハルヴァーソンの動きを予感し、弦が揺らぐ音を聴き始める。これは「Aftershock」についても言うことができる。目を閉じると、馴染み深い子守唄の形が形作られていく。さらに没入してゆき(1分が過ぎたころ)、クルボアジェはより熱を込め、アグレッシブなソロをみせる。ペースは次第に低くなり、続いてハルヴァーソンが弾き、曲を終える。これがハルヴァーソンのエネルギーを補充し、そして、ハルヴァーソンは静かに、クルボアジェは好調に演奏する。ひとつのサウンドに焦点を当てるべきと気付いたり、弦とピアノとが同じ強度で動くべきと気付いたりしたとき、2人は美しい不協和をみせる。こういった瞬間が散発的に展開されていることを、ずっと聴いていると気が付くのである。

『Crop Circles』は視覚的なバレエだ。アルバムは流れるように動き、ときに跳躍したり空中に飛び散ったりする。それはすぐに正確で大きな動きに溶け込んでいく。このことは「Double Vision」において明らかだ。滑らかな表面に描かれる図形、あるポイントまで伸びる脚、次のステップに向かっての収縮といった姿を幻視できる。ハルヴァーソンがぴたりと追走するなかで、クルボアジェのピアノが曲を形成する。終わりの1分半では繰り返しによってクライマックスに持ってゆき、最終的に崩し、聴き手に沈黙を感じさせる。これはまた、「Water Scissors」にも見られる。流れる水のようなものが、岩(あるいは、クルボアジェの鍵盤)に流れ込み、押し込む。断続的ではあるのだが、音の流れにはなお安寧と快適の要素がある。アルバム全体を通じて、2人は身体と楽器とで満たした場に聴き手を導き、一種の「タグ」を演奏し、跳躍したり滑ったりする。そして聴き手は、自らの身体との相互作用を覚えるであろう。彼らが作り出したリズムを聴き、ときに軽やかにパタパタと変化する素早いステップ(各曲がエネルギーレベルを変える)を見て、『Crop Circles』の振り付けにおけるコラボレーションを感じ取るのである。鮮烈に動き続ける2人を幻視するうちに、だ。クルボアジェとハルヴァーソンは、アルバムの全体を通じてこれを持続する。

text by ジーン・ランダース Jeanne Landers

II. アリス・コルトレーン『Spirituality Classics 1: The Ecstatic Music of Alice Coltrane Turiyasangitananda』

私が個人的な生活や執筆活動において取り組んでいることのひとつは、「予期せぬこと」だ。私の性格上、また仕事の中でも、推測することが常だが、そうせずに、聴くことだけでなく自分自身で「事実」を確認することが重要だと信じている。アリス・コルトレーン Alice Coltrane Turiyasangitanandaの発掘音源のコンピレーション盤『Spirituality Classics 1: The Ecstatic Music of Alice Coltrane Turiyasangitananda』(デヴィッド・バーン David ByrneのLuaka Bop Records)は、過去の作品とはまったく異なって聴こえた。だが、そう断言する前に立ち戻り、Sportify(※音楽ストリーミングサービス)における彼女の音楽のカタログを聴いた。

私は各アルバムの最初の数分間を聴き、彼女の17作品を確かめた(カルロス・サンタナ Carlos Santanaとのコラボレーション盤『Illuminations』を含む)。ざっくり言えば、今回の作品に似ている盤は、『Radha-Krsna Nama Sankirtana』だけだ。合唱を含む作品である。

『World Spirituality Classics 1: The Ecstatic Music of Alice Coltrane Turiyasangitananda』の2曲目「Om Shanti」におけるシルキーな歌声を聴いて、これはアリス自身のものだろうかと思った。そのようにも思えたのだが、ちょっと混乱もした。しかし、蜂蜜に漬けたようなアルトの声は、彼女の顔や態度と同じように聴こえた。筆者は若いためアリスの演奏を観る機会がなかったのだが、彼女の存在、音楽、スタイルは、ある時期、筆者とともにあった。Luaka Bopレーベルのウェブサイトに掲載されたバックグラウンドを読んで、疑問は解消された。これは、アリスの声を収録した最初の録音だ。魅力的だ。

このアルバムが彼女の作品中でかなり異色で際立っている理由がいくつかある。主楽器としてアップライト・ベース、ハープ、ピアノが出てこない。強烈で、ループが使われており、エレクトロ・アコースティックである。そしてサイケデリックで重層的だ。アリスはスタジオに座り、彼女自身の声を何度も多重録音したのだろうと想像できる。それは冒頭曲「Om Rama」から得た印象であり、そこでは、女性の声のコーラスから、ドアーズ The Doorsのような電子オルガンの序章、そして男性のゴスペルソロとなり曲が終わる。これまで聴いたことがないものだったが、混乱はしなかった。この音楽においては、アリスは自由になり、エキサイトし、遊び心を持ち、構造に取り込まれていないように聴こえる。他の音源との断絶ではない。私たちが聴いたことがない彼女の側面ということなのだ。

私はこのアルバムを、サイケデリックでグローバルなゴスペル・アルバムと呼ぼう。ここでは、レコードレーベルが厳しくてやらなかったようなことを、すべてやっている。これらの曲は、自分自身の声を使い、自分自身の領域内で録音されたということなのかもしれない。ベイカー・ビングスビー Baker Bigsbyは、1982年から1995年の間に録音された4本のカセットテープから、マスタリングを監修した。彼女が保護者として育てたスーリヤ・ボトファスニア Surya Botofasinaと話をしたところ、レーベルが正しい意図で本盤を出すつもりなのか彼が確認し、そして、アリスの子供たちが発表の許可を与えたのだという。

3曲目「Rama Rama」は、シタールと、サイレンのようなオルガンの短い演奏からはじまる。アリスの声は人を受け容れるように穏やかで、ヴァルネラビリティや精神性を放つ非凡な音楽的実験とバランスしている。このレコードを聴く者は、おそらく少しなりとも、超越的な変化を経験するだろう。筆者は、それがこのアルバムのポイントだと思う。

たとえ一般的に音楽として深遠で聴きやすいものであっても、それが聴く者にどう感じさせるかがすべてだ。身体全体が鳴っていると感じる瞬間がある。マントラとアリスの声が聴く者を惑わせ、この世界における懸念を忘れさせるような瞬間がある。彼女の近くにいた人と話すことでわかる。アリスのスピリチュアルな意思と目的は、ヒンドゥーを広めつつ、音楽を通じて、自分のスピリチュアルな影響や、人生と態度に前向きな変化をもたらす能力を取り入れる点にあったことが。

8曲目「Keshava Murahara」において、ささやくようなシタールとオルガンを伴い、彼女は、安らかに、柔らかさや理解とともに、祈りを歌う。このアルバムは、アリスの声と、個人的な祈りに関するものである。聴き手が彼女を知っていると思っていたとしても、あるいは逆に、たとえ人生よりも長い魂があることを十分には理解していなかったとしても、いま、聴き手は彼女を理解できるだろう。アリスは祈りの女性だ。このアルバムは神との対話だと知ることになろう。

text by ジョルダナー・エリザベス Jordannah Elizabeth

アメリカの作家、音楽・芸術評論家、編集者、音楽家。市民権とフェミニストについてのライターでもあり、アメリカにおける民族やジェンダーについてのコメントを発信している。著書に『Don’t Lose Track Vol 1: 40 Articles, Essays and Q&As』(英国Zero Books)。

以上が、最新のニューヨーク・シーンである。

Edited by シスコ・ブラッドリー
(Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/


【翻訳】齊藤聡 Akira Saito

環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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