連載第36回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
エンジェル・バット・ダヴィドとの対話(フェミニストのジャズ・レビュー)

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Text by ジェ・ライター(Je Writer)
Cover photo by アレハンドロ・アヤラ(Alejandro Ayala)
Translated by 齊藤聡(Akira Saito)

シカゴを拠点とする作曲家・クラリネット奏者・ピアニストのエンジェル・バット・ダヴィド Angel Bat Dawidが、自身の新譜『The Oracle』(International Anthem、2019年2月8日リリース)について話してくれた。ダヴィドの持つ音楽のスピリチュアルな蓄積は、聴く者を、水深の旅を通じて、古い祖先とのつながりや、巧い多楽器奏者による即興の曲作りへと連れてゆく。

ダヴィドは親切で熱心な人だ。彼女のもっとも良い個性は、幸せであること、自分自身であることに「とても真剣」になることだと思える。これはダヴィドの独特なDIY(Do It Yourself)的な方法なのだが、『The Oracle』は携帯電話のアプリによってマルチトラックで録音・オーバーダブ・編集までなされたものである。このことが、優れて神秘的な曲作りの想像力を棄てることなく、音楽制作をデジタル時代のものにしている。

エンジェルは、アルバムに収録された曲の出発点、旅から得るインスピレーション、アーティストと環境との関係、そして世界を自分自身の芸術的な音楽のキャンバスに描き込む能力について話してくれた。

――― あなたのアルバム『The Oracle』は美しいです。ニーナ・シモン Nina Simoneやアリス・コルトレーン Alice Coltraneらの影もみえました。誰かからの音楽的な影響はあったのでしょうか。

確かに自分にとっては、アリス・コルトレーンとニーナ・シモンは特別です。アルバート・アイラー Albert Ayler、ジョン・コルトレーン John Coltrane、それからAACMの面々、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ Art Ensemble of Chicago。インスパイアされたアーティストを挙げていけばきりがありません。レコードもたくさん持っています。そこから学びましたし、それが私の大学でした。アリス・コルトレーンのレコードを何枚も聴くことは、私のアートの実践のようなものでした。レコード店で働いていたことがあって、そこで聴きながら一緒に演奏したりしていました。私の作曲は、アーチー・シェップ Archie Sheppなど凄い人たちのたくさんの音楽を聴いた後にできました。もう夢中でした。

――― あなたは録音もオーバーダブもミキシングもすべてご自身で行っていますね。曲選びから制作までどのくらいの時間をかけましたか。

多くの曲が山積みでした。International Anthemレーベルのスコッティ・マクニース Scottie McNieceがやってきて、「アルバムを作りたいか」と聞いてくれましたから、「OK。いくつも曲があります」と答えました。全部自分でやったのは、ギグをいつやっても新しい曲作りができるからです。どんなアンサンブルであれ、音楽を読める人とそうでない人がいます。それですべてのパーツを録音して、誰もが聴けるようにして、それで本当に素早いリハーサルをやりました。多くの曲はそんなふうにしてできました。

私はParticipatory Music Coalition(参加音楽連合)という音楽の組織に入っています。みんな四六時中ジャムをやっています。本当にAACMにインスパイアされたからです。私たちはバンドになるのではなく、コレクティヴ(集団)になりたいのです。そのために、私たちはすべてのパーツを録音し、そんなふうにして私はいくつもの曲を作ったのです。スコッティ・マクニースが私のところに新しいプロジェクトをと言ってきたとき、「ああそれに向いたいくつかの新しい素材を作ったところだ」と考えました。それが「Impepho」や「We Are Starzz」といった曲で、その2-3週間前にWinter Jazz Festでのギグを録音していたのでした。これが私のやり方です。私はいつもギグのために新しい作曲をしたいのです。それで「We Are Starzz」を私のアンサンブルでやりたいと思って、アルバムに収録するには遅すぎるかなとスコッティに聞いたところ、良いということになりました。「Impepho」とタイトル曲が今回新しく作った曲です。

「London」はロンドンで書いた曲です。友達みんなやアート・アンサンブル・オブ・シカゴが私の誕生日を祝って演奏してくれるというので、作曲しなければなりませんでした。International Anthemレーベルが企画して、私も楽しんで演奏するよう依頼されました。ちょうど宿泊していたビーアンドビーにはピアノがあったのです。ロンドン発の真にクールなシーンがあります。本当にインスパイアされました。

いろんなことやタイミングが混ざりあっていて、感じたままに曲を選んだのです。

――― アルバムの曲はそれぞれ異なる場所で作られたことを示そうとしているのでしょうか。

「Impepho」とは香水です。この6月に南アフリカに行って、音楽シーンに入って、人生が変わるような体験をしました。いつなんどき演奏を頼まれるかわからないので、私はいつもクラリネットを持ち歩いています。頼まれなかったとしても、樹の下なんかで演奏したりもします。私の音楽にこのときのことが確実に影響しています。「Cape Town」はケープタウンでのジャムセッションをもとにした曲です。ロンドンからの気紛れの旅でした。急に行くことを決めて、計画もありませんでした。つながっておいた方がいい人について友人に聞き、アッシャー・シミソ・ガメゼ Asher Simiso Gamedzeにジャムをしようと頼みました。このクレイジーなジャムセッションをアルバムに入れたのは、もっと世界でジャムセッションが行われてほしいと思ってのことです。音楽のエキスパートである必要はありません。スプーンふたつあれば何かできるし、ハミングだってできるでしょう?私は人びとを集めてジャムをしたいのです。アッシャーと私がそうしなかったら、アルバムには入っていませんでした。

――― アルバムを『The Oracle』と名付けたのはなぜでしょうか。

私のインスタグラム名は「Angel the Oracle」なんですよ。というのも、何年か前に、友人が映画『マトリックス』に登場するオラクルを覚えているかと聞いてきたのです。私はオラクルのことが好きでした。黒人女性で、彼女のキッチンですべての答えが得られるのです。シンプルですけれど、すごくディープでもあります。

――― 『The Oracle』は物語を語っているのでしょうか?もしそうなら、何を伝えようとしているのでしょう?

アルバム全体がメッセージです。私はすべてのものに祈りを捧げています。すべての物語が大事です。そしてそのDIY的なものがまた大事です。オカネを節約してスタジオに行く必要はありません。何か音楽を持っているなら、いまそれをやればよいのです。私も、いろいろ使えるマルチトラックの録音アプリを見つけたので携帯にダウンロードして、それで録音をはじめたのです。

――― 黒人女性のジャズミュージシャンであることによる体験を教えてください。そのことが人生において特定の関係を生み出しているでしょうか。

大きくて大事な質問ですね。女性であること、黒人女性のミュージシャンであることは、挑戦なのですよ。このようにあるべきだとされていたり、実際にはそうでなかったり。どこかでなにかをするとき、私は歌手だと想定されています。この黒人女性が多楽器奏者であったり、ジャズをよく知っていたりといったことは想像もされていないのです。多くの人たちが私を払いのけます。

私のパーソナリティーは熱狂的であること。ときどき思うのです。多くの女性が違うタイプのパーソナリティを自分自身に装着せざるを得ず、それを人びとが真に受けてしまっているのではないかって。陽気な人に対しては、何か裂け目があるとか思わないでしょう。私は真面目に話していますよ。私はハッピーであることに真剣なのです。そのためにはたくさん微笑まなければならない。そのことに私はとても真剣です。

アバター

シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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