情報の灯台と関係と
『The New York City Jazz Record』という月刊誌がある。2002年に創刊され、これまでに第163号までが出されている。ミュージシャンへのインタビューや特集記事、CDのレビュー、クロスワード・パズルなど、盛り沢山の内容。特筆すべきは、巻末に数頁にわたり小さい字でびっしりと書かれた、その月のニューヨークにおけるライヴ・スケジュールだ。私はニューヨークを訪れる際には必ずチェックするし、カタルーニャから来たというジャーナリストも同じことを口にしていた。
このマガジンは、ニューヨークのライヴハウスや映画館で無料配布しており、また、やはり無料でダウンロードもできる。紙質も印刷もさほど上等ではないのだが、それが長続きしているミソかもしれない。レコード会社やライヴハウスからの広告収入だけでは、運営は楽ではないだろうからだ。
この9月、Cornelia Street Cafeにおいて、このマガジンに寄稿しているライターとたまたま隣あって座り、休憩時間にジャズ話に花が咲いたのだが、テキサスからさらなるジャズとの接点を求めてニューヨークに出てきたという彼の知識は、高木元輝、阿部薫、大友良英など日本のフリージャズにも及んでいた。熱と情報のベクトルは、双方向であればもっと愉しい。最近の日本のミュージシャンをあまり知らないんだよと呟く彼に、11月にThe Stoneで行われる吉田野乃子のレジデンシーをぜひ観に行くべきだと薦めておいた。
東京にも、『ト調』という、東京近辺のライヴ情報を収集・公開しているすばらしいサイトがある。以前に、南青山のBody & Soulにおいて、テルアヴィヴ出身だという人に「このようなライヴ情報をどこで探したらよいのか」と尋ねられたので、『ト調』のことを教えた。活用してくれたらいいなと思う。
もちろん、情報の海にあって位置と方向を見定めるための手がかりは、これらの灯台だけではない。多くの漂流する個人の熱い受発信とゆるやかな関係が、いつでも新たな海流を作り出しているはずである。
The New York City Jazz Record
http://nycjazzrecord.com/