JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

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Monthly EditorialFrom the Editor’s Desk 稲岡邦彌No. 315

From the Editor’s Desk #19「JazzTokyo 創刊20周年」

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

2023年4月1日に通巻300号を祝し、「ECM:私の1枚」を特集、内外の140名の方々からご寄稿いただいた。創刊20周年を記念した今月号では「私のジャズ事始」を特集、50名のコントリビュータ、ゲストに「ジャズとのなれそめ」について語っていただいた。
すでに何度か記したことだが、本誌は2004年早々、ジャズ評論家の悠雅彦氏と筆者の語らいから産声を上げた。インディ系ミュージシャンの声を反映したもので、ストレンジ・フルーツ社のサポートを得て、6月に創刊、悠雅彦氏が主幹、筆者が編集長に就任した。その後、クラシック評論家の丘山万里子氏を副編集長に迎え本格的にクラシック記事の拡充を図ったものの筆者の力量不足により永続させることができなかった。痛恨の極みである。
その後、2016年4月にフォト・ジャーナリストの横井一江さんが副編集長に就任、編集に手腕を発揮、同じ頃ボストン在住のプログラマー本宿宏明さん(ミュージシャンとしてのステージ・ネームはヒロ・ホンシュク)を得てプログラミングを始めバッグヤード関係を一任、今に続く編集部の態勢が整うことになった。
本誌の骨格を成す連載にはまず編集部が総出で執筆、故悠雅彦主幹の巻頭エッセイ「悠々自適」のあとを受け筆者がトピカルな話題を中心に「From the Editor’s Desk」を担当、横井副編集長が月替わりで「Einen Moment Bitte!」(ちょっとお時間拝借!)を執筆、すでに連載は45回に達し、それ以前から担当しているフォト・エッセイ「Reflection of Music」は97回に及びJazzTokyoのキラー・コンテンツのひとつになっている。キラー・コンテンツといえばヒロ・ホンシュクの「楽曲解説」は102回。毎回話題のアーチストやアルバムについて採譜を交えながら懇切丁寧に聴きどころを詳述している。これはリスナーだけでなく音大生やミュージシャンにとっても資するところ大なのではないだろうか。ジャズの歴史をファッションという視点から捉え直した竹村洋子の「Jazz à la mode」が71回と回を重ねているが、竹村にはもうひとつコロナ禍で連載が81回で滞っている「カンザスシティの人と音楽」もある。小野健彦の「Live after Live」は連載58回だが、毎回取り上げられるコンサートやライヴは6.7本あり、通算では412本に達している。左半身が不自由な小野はライヴハウスの階段の登り降りに人手を借りることもあり、片手でスマホを操作してのスナップ、リポート作成の献身には頭が下がる。何よりインディやクラブをサポートするというJazzTokyo創刊のスピリットを身をもって体現してくれている貴重な存在のひとりである。同じ意味で、早くも21回に達した齊藤聡の「インプロヴァイザーの立脚地」も現場主義を貫く齊藤ならではの人選と取材のアングルが見どころである。連載27回目を迎えた風巻隆のエッセイ「風を歩く」は8、90年代の内外の即興シーンの諸相を伝えて今後の展開が待ち遠しい。
連載に限らず、毎号コントリビュータから寄せられるCD/DVDレヴュー(2333本)、Live/Concertリポート(1314本)などがJazzTokyoの根幹を成す血肉であることは言うまでもない。また、特集に際して寄せられる多くのゲスト・コントリビュータの寄稿に勇気づけられること度々である。
創刊メンバーの悠雅彦名誉主幹の巻頭エッセイ「悠々自適」(97回)、体調振るわず休載となった及川公生の「聴きどころチェック」(903本)、志半ばで病に倒れた望月由美のフォト・エッセイ「音の見える風景」(61回)などはいずれも貴重なアーカイヴとして遺されている。
創刊から20年経って周囲を見渡してみると雨後の筍のように続々創刊された音楽系のオンライン・マガジンは果たして何誌存続しているのだろうか。お互いに切磋琢磨しながらオンライン上の音楽ジャーナリズムの伸展を共に目指したはずだったが。紙媒体ではあるが、「JazzTokyo」を凌駕するという意気込みで命名された「JazzJapan」はオーナー/編集長の急死で「Jaz.in」がとって代わった。検索で必ず上位に来るお茶の水の「JazzTokyo」は、われらが「JazzTokyo」に倣ったものである。開業時、当時のディスクユニオン菊田専務から「一業種一社なので  “JazzTokyo” を名乗らせてもらいます」と仁義を通された。
最適化を求めてプロバイダーを何度か変えていた頃、臨時に委託した業者がデータの移植に失敗、データの一部を消失させてしまったことは大いなる心残りであり、コントリビュータの無念を共有している。夢は、アーカイヴの書籍化である。仮に「JTジャズ新書」としようか。デジタル時代にあっても書籍への固定化はオンラインの速報性に次ぐ憧れである。

*JazzTokyo創刊号 TopPage

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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