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Monthly EditorialFrom the Editor’s Desk 稲岡邦彌No. 328

#24 グスターボ・ドゥダメル
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ヴァルトビューネ河口湖2025

text & photos: Kenny Inaoka 稲岡邦彌

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ヴァルトビューネ河口湖 2025
指揮:グスターボ・ドゥダメル
2025年7月6日 (日)開演:15時

1部:
・ガブリエラ・オルティス:Kauyumari(カモシカ)
・デューク・エリントン:”Martin Luther King” from Three black kings(『スリー・ブラック・キングス』より「マーティン・ルーサー・キング」)
・アルトゥーロ・マルケス:Danzón No.2(ダンソン第2番)
・エヴェンシオ・カステリャーノス:Santa Cruz de Pacairigua(パカイリグアの聖なる十字架)
2部:
・ロベルト・シエラ:Alegría(アレグリア)
・アルトゥーロ・マルケス:Danzón No.8(ダンソン第8番)
・レナード・バーンスタイン:『ウエスト・サイド・ストーリー』より「シンフォニック・ダンス」<プロローグ><サムホエア><スケルツォ><マンボ><チャチャ〜マリア><クール><ランブル><フィナーレ>
アンコール:
・ポール・ドゥセンヌ編曲:トリッチ・トラッチ・ポルカ
・ポール・リンケ:ベルリンの風


エル・システマからヴァルトビューネへ

©2015 Kiyotane Hayashi

グスターボ・ドゥダメルは、1981年ベネズエラの生まれ。ミラノ・スカラ座 (2006)、ベルリン歌劇場 (2008)、ロザンジェルス・フィル (2009)、ベルリン・フィル (2010) 、ウィーン・フィル (2017) 、パリ国立歌劇場管弦楽団 (2021) と着実に歩を進め、2026年にはニューヨーク・フィルの音楽・芸術監督就任が予定され、頂を極めることになる。

一方では、自らが5歳の時から参加しているベネズエラ発の国際的音楽教育プログラム:エル・システマ〜ユース・オーケストラの活動にも熱心に取り組み、2024年にはドゥダメルの激動の半生を追ったドキュメンタリー映画『ビバ・マエストロ 指揮者グスターボ・ドゥダメルの挑戦!』が日本でも公開され幅広い共感を呼んだ(エル・システマの詳細については、林喜代種氏 (1943~2023) の アーカイヴ Photo Column Vol.105 を参照されたい)。
JazzTokyoでは、前主幹の悠雅彦氏を始め前クラシック部門長の丘山万里子氏などが早くからドゥダメルの活動に着目、関連記事を掲載してきたが、2015年3月にはロサンジェルス・フィルと来日したドゥダメルを音楽写真家の林喜代種氏が取材、カバーストーリーで取り上げている


裃(かみしも)を脱いだベルリン・フィル

今回の企画は、会場となる河口湖ステラシアターの30周年を記念したもので、ベルリン・フィルがその要望に応え1984年の第1回以来初めてとなる海外公演を実現させた。指揮者のドゥダメルは2008年に経験済み。ヴァルトビューネ初の海外公演であり指揮者ドゥダメルの人気と相まって¥45,000~¥100,000というチケットは早々にソールドアウト。涼風を期待してブルゾンを用意して出かけたが海抜800mの現地は蒸し暑く観客の扇子が止まらない。日射を避けるために閉じられたままの3000人収容の会場にオケのメンバーはノー・ネクタイで臨む。プログラムはエリントンとバーンスタインを除き中南米出身の作曲家の作品で占められ、ステージ上手後ろに用意されたドラムセットが目を引く。ボストン・ポップスとまではいかなくとも、裃(かみしも)を脱いだベルリン・フィル、といったところだろうか。指揮台に譜面はなく、ドゥダメルは全7曲を完全暗譜。ドラムスや打楽器が多用される楽曲を一点の曇りもなく快活に振り切った。白眉はバーンスタイン作曲『ウエストサイド・ストーリー』からの8曲からなる組曲「シンフォニック・ダンス」で、目まぐるしく変わるテンポとリズムにのせてベルリン・フィルを巧みに操った。いかめしい面相のベルリン・フィルのメンバーの口から一度ならず「マンボ!」と合いの手が入るさまは、レニーが生きていたら思わず「してやったり!」と快哉の声を上げたことだろう。
アンコールはヴァルトビューネお決まりの2曲で、締めの「ベルリンの風」は事前に配布された譜面に沿ってダドゥメルが観客を指揮、観客はスマホのフラッシュライトや、ホイッスル、手拍子でそれに応えた。アンコールと共に天蓋が徐々に開き、青空が見えだしたがいまだ陽射しは強烈で手をかざして遮るほど。ベルリンの2万席には及ばないまでも野外劇場で聴くノー・ネクタイのベルリン・フィルは今夏の最大のイベントではあった。なお、この日、コンサート・マスターは若き梶本大進が務めた。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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