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7月23日公開 映画『最後にして最初の人類』

text : 安藤誠 Makoto Ando

Photo ©️2020 Zik Zak Filmworks / Johann Johannsson

クラシック的な世界観にエレクトロニカの手法を融合した「ポスト・クラシカル」の旗手として、シーンに独自の足跡を残してきた作曲家ヨハン・ヨハンソン。ビョークやシガー・ロスと同じくアイスランド出身であり、ポスト・ロックの系譜を受け継ぐ一人でもある彼が、48歳という若さで亡くなったのは2018年2月のことだった。そのヨハンソンが最後に取り組んだ長編映画であり、遺作となったのが本作『最後にして最初の人類』だ。

「2001年宇宙の旅」のアーサー・C・クラークにも影響を与えたといわれるSF小説の古典的名作、オラフ・ステープルドン著『最後にして最初の人類』を原作として、映画の全編にわたって「20億年先の人類」(アカデミー賞女優のティルダ・スウィントンによるモノローグ)による壮大かつ奇想に満ちた叙事詩が語られる本作。その声と静かに呼応しながら、旧ユーゴスラビアに遺る巨大な戦争記念碑「スポメニック」のモノクロ映像がパノラミックに展開し、破滅へと向かう「最後の人類」の諦念と怖れを音像化したかのようなヨハンソンの音楽が流れる。朗読、スポメニック(終始、静止画と見紛うような動画で映し出される)、サウンドトラック。端的に言えば、この映画の構成要素はそれだけだ。

商業映画の限界までミニマリズムを極めたともいえそうなこの作品は、しかしそれ故に、観るものの内側に、どんな映画体験でも得られなかった感情を湧き上がらせる。上映時間71分の中に、神話的な時の流れを封じ込めた奇跡的な作品だ。映画、演劇、ドラマ、コンテンポラリー・ダンスなど様々なジャンルを横断しながらヨハンソンが最後に辿り着いた境地を、シネマのサウンドでぜひ体感してもらいたい。

https://www.youtube.com/watch?v=biTkD2txoQQ

7月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他順次公開。

『最後にして最初の人類』(原題:Last and First Men)
第70回ベルリン国際映画祭正式出品作品
監督:ヨハン・ヨハンソン、ナレーション:ティルダ・スウィントン、原作:オラフ・ステープルドン著「最後にして最初の人類」、プロデューサー:ヨハン・ヨハンソン、ソール・シグルヨンソン、シュトゥルラ・ブラント・グロヴレン、撮影:シュトゥルラ・ブラント・グロヴレン、音楽:ヨハン・ヨハンソン、ヤイール・エラザール・グロットマン
2020年/アイスランド/英語 /70分/ ヨーロッパビスタ/5.1 ch/ 配給:シンカ

安藤誠

あんどう・まこと 街を回遊しながらダンスと音楽の即興セッションを楽しむイベント『LAND FES』ディレクター。

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