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BooksNo. 243

#091 『アート・クロッシング 第2号:豊住芳三郎』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

書名:『アート・クロッシング 第2号:豊住芳三郎』
筆者:豊住芳三郎 白石かずこ 副島輝人高橋悠治 間章 佐藤允彦 原尞 他
編集:末冨健夫 河合孝治 ChapChap Records
版元:TPAF
初版:2018年4月17日
判型:Paperback  / 208頁
定価:¥2363

タスキコピー
豊住芳三郎は1960年代から今日まで、世界屈指のフリージャズ/フリー・インプロヴィゼイションのドラマー(二胡奏者でもある)として世界中を日夜飛び回って演奏を続けています。1960年代の日本のフリージャズ黎明期には、そのパイオニアとして高柳昌行、吉沢元治、佐藤允彦、山下洋輔、高木元輝らと行動を共にし、70年代では阿部薫とのユニット、自己のユニット等での活躍。80年代以降は、Wadada Leo Smith、John Zorn、Misha Mengelberg、Han Bennink、Evan Parker、BarrePhillips、Pual Rutherford、Derek Bailey、Sunny Murray等々の招聘・ツアーを数多く行い、それまでレコード等でしか接することのできなかった世界のインプロヴァイザーを我々に紹介してくれた功績はとても大きいと言えます。
そのような豊住芳三郎を多角的に光を当てようとするのが本書です。親しい者(ある意味、戦友達)からの手紙やエッセイも含めて、現在まで、そしてこれからの豊住芳三郎を読み解いていただけたら幸いです。


ついに陽の目を見た通称『豊住芳三郎読本』!
まずは、編集を担当した防府のChapChgap Records主宰者・末冨健夫とプログラムを担当した河合孝治の熱意と努力に労いの拍手を贈りたい。彼らはこれが生業ではない。生業を持ちながらいわばミッション(使命)としてその作業に従事している。現在はすでに第3号「高木元輝読本」の編集に着手しているはずである。創刊号(第1号)は『池田一&Waters』であった。それと並行して、彼らは2016年に『Free Music 1960~80』(通称赤本)、2017年に『Free Music 1960~80「ディスクガイド篇」』(通称青本)を上梓している(これらについては、Library #89で紹介させていただいた)。つまり。本書は彼らが手がける4冊目なのだ。この出版氷河期になぜ2年間で4冊もの著作を観光できたのか?詳細はLibrary #89を参照いただくとして、要するにオンデマンドの電子書籍だからだ。今回は、CDリリースと記念ライヴを含めた豊住芳三郎関連でクラウド・ファンディングにもチャレンジした。成果は期待値以下だったが、それでも有志の協力を得られたことが彼らのモチヴェーションの大きな糧になっているはずである。
僕は豊住さんとほぼ同年輩、70年代には何度か一緒に仕事をさせていただいたがこれほど足の赴くまま、気の向くまま
自由に生きてきた人を知らない。僕もかなり気の向くままに活きてきたひとりだと思うが、無論、彼の足元にも及ばない。気の向くまま、足の向くまま生きるといってもそれを受け入れてくれる人たち、理解者がいなければなし得ないことだが、それを可能にしたのはひとえに彼のパーソナリティによる。もちろん、音楽というボーダーレスな言語があってのことだが。
豊住さんはたしか東京芸大を卒業しているはずだが、それも確かではない。彼にとっては(多分)どうでもよいことだから直接聞いたことはない。それより、最初に仕事をしたのはミッキー・カーチスのバンド「サムライ」だったということの方が重要だ。ことの詳細は本書に詳しい。ミッキーは一時、トリオレコードの契約プロデューサーを務めていて、在任中ロンドンまで出かけてユリ・ゲラーのレコードを作ってきた。録音中いきなりマイクが落っこちてきた、などと制作会議で報告していたのを記憶している。シカゴAACMのレコードを聴いて大いに触発され、いきなりAACMを訪ね草鞋を脱ぐ話が出てくる。僕も豊住さんと相前後して本誌の悠雅彦主幹とAACM創立10周年記念フェスにでかけているので、このパートはとくに親近感を覚えた。海童道祖とのパートも圧巻のひとつ。共演の機会を逸したとはいえとびきりユニークな体験をしている。
この読本の特徴は、本人の語る自伝めいたパートの他に、故人を含め多くの友人知人からの寄稿(再録を含め)、メッセージだろう。それこそ豊住さんならではの証。追悼特集に寄せられるような賛辞を生前に献呈される人もそう多くはないだろう。詩人の白石かずこ、作曲家の高橋悠治、かつてフリージャズのピアニストだった芥川賞作家の原尞など多士才々。これらはもちろん本人が依頼したものではなくすべて編集者の計らいである。
一度読み始めたら中断することが難しかった。
惜しむらくは入力ミスがいくつか散見されること。しかし、オンデマンドの場合、データを修正すれば、新規の注文に対しては改訂版を供給できるので、努力を怠らなければ完成度を高めていけるというメリットがあるのだ。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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