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CD/DVD DisksNo. 317

#2342 『平田晃一/Introducing Koichi Hirata~Live at alfie』

text by Masahiro Takahashi 高橋正廣

Live At Alfie   ¥3,000(税込)

平田晃一 (Guitar)
石田衛 (Piano)
吉田豊 (Bass)
柳沼佑育 (Drums)

<01>   A Weaver of Dreams (Victor Young)
<02>   This Could Be the Start of Something Big (Steve Allen)
<03>   The Shadow of Your Smile (Johnny Mandel)
<04>   These Are Soulful Days (Calvin Massey)
<05>   Frame For The Blues (Slide Hampton)
<06>   Fungii Mama (Blue Mitchell)
<07>   My One and Only Love (Robert Mellin/Guy Wood)

[Rec:2024-2-10] Live At JAZZ HOUSE ALFIE

Produced by Yoko Hino 日野容子


世に才色兼備なる四文字熟語がある。辞書を繙けば「優れた才能を持ち、また容姿も美しい人のこと。 女性に対する誉めことばとして一般に用いられる。 ”才”は、才能・学識。 ”色”は、容姿の美しさ・美貌。」ということだそうだが、これをジャズ・ギタリストに置き換えるとしたら、ギターの”音色の美しさ”と”メロディアスなソロであり唄心”にあると断言したい。筆者にとってそんな才色兼備のジャズ・ギタリストの最高峰と言えばKenny Burrellであり、Jimmy Rainey、Jim Hallというラインに落ち着く。やや乱暴な言い方をすれば、今回編集部からの依頼で初めて耳にした平田晃一のギターはまさしくその系譜に繋がるものだと確信した。一概にジャズ・ギターの音色といってもTal Farlow、Wes Montgomeryといった野太い弦音を持った男性的な系統や金属的な響きの強いGrant Greenのようなタイプもあり、Herb Ellis、Joe Passといった音色よりテクニック優先といったタイプまで様々。そしてもう一つ忘れてはならない要素がジャズ・ギター特有のドライヴ感だ。上記に挙げたプレーヤー達はみな一様に優れたドライヴ感を有していたからこそ一流ギタリストとなった。

平田晃一は2002年7月26日、北海道札幌市生まれ。小学生からギターを始め、12歳でジャズに傾倒。高校時代から札幌でライブ活動を始め、大学進学で上京する。現在は東京大学に通いながら、都内のライブハウスを中心に演奏活動をしている。インタビューによると「小学校2年の時にビートルズの影響でギターを始め、ブルース、R&Bを手始めにその後Larry Carltonの演奏に触れたことでジャズへと接近。John Coltraneの『Blue Trane』を聴いて本格的にジャズに嵌ってしまった」という。ギターは独学という平田にとっては演奏するスタンダード曲の解釈もまた独学というから畏れ入る。平田はインタビューの中でスタンダードについて問われると「自分にとってのスタンダードはメロディ」と断言する一方、「メロディの美しさからインスパイアされる気分や感情を表現したい」と正にスタンダードはこう演奏しろという先達の教えそのものの心情を語っている。

JAZZ HOUSE ALFIE ライブシリーズ第八弾 平田のデビュー作品となった当アルバムは日頃から演奏を共にしているという、リーダー作も3枚あるベテラン石田衛(1978年東京都生れ)、ライヴ活動の傍らジャズ教育にも取り組む吉田豊(1975年山口県生れ)、ハードバップ・スタイルを墨守する柳沼佑育(1992年福島県生れ)という先輩格の3人が平田をバックアップしている。

<01>   A Weaver of Dreams 平田が敬愛するKenny Burrellが『Introducing Kenny Burrell』で演奏したVictor Young作曲のこの曲を平田も同じタイトルの『Introducing~』に因んであえて選曲したのだろう。その心意気や良し、だ。平田の演奏を聴く前にBurrellの演奏を聴いてみたが、その青白いギターの音色とオーソドックスなスタンダード解釈のしっとりとした情感表現は既にBurrellが熟達のミュージシャンであることを確信させた。翻って平田。ルバートで思い入れたっぷりにテーマを弾きはじめ、ALFIEの空気を浄化してゆく。インテンポに移りミディアム・スローでシングルコードの音色の美しさそのままにシンプルな平田のソロはこれが22歳の青年であることを忘れてしまう唄心を発揮している。派手さはないが堅実な石田のピアノ、重厚さで迫る吉田のベース、それぞれのソロも存在感たっぷりで、後半ではファンクネスを効かせた演奏ぶりで聴衆を見事に乗せてゆく。

<0 2>   This Could Be the Start of Something Big Steve Allenの作詞・作曲になるこの曲、軽快なスイングを支えているのは柳沼の個性的なドラミングにあることは疑いのないところ。ドラムにも音色があることはRoy Haynesを引合いに出すまでもないが、柳沼のそれは例えればBilly Higgins的かもしれない。テンポよく進む中、平田の唄心の溢れたソロフレーズは、尽きることのない泉そのもの。平明でありながら魅力的なソロを取るのは石田もまた同様。ファンキーでノリの良さが光るピアノだ。加えて柳沼の、良い意味での鈍重さ、プリミティヴなエネルギーを持ったドラミングも一度聴いたら忘れられない印象を残す。

<03>   The Shadow of Your Smile 映画「いそしぎ」のテーマでアカデミー歌曲賞を獲ったJohnny Mandelの名作。メロドラマらしいテーマを平田はさり気なく淡々と弾いてゆく。そこから石田のピアノへとトスされると、次第に高揚感を増してゆく石田のソロが俄然光る。それを受け継ぐ平田のソロパートでは原曲のイメージを崩さずに演奏しているストレートな表現が好ましい。

<04>   These Are Soulful Days Candidにリーダー作のある渋いトランペット奏者Calvin Massey作。Lee Morganも『lee – way』の中で演奏している。Morganの演奏ではスムーズでレガートなメロディの魅力がMorgan特有のエッジの効いた煌びやかな吹奏により存分に発揮されていてホーン向きの楽曲かと思ったが、平田の若々しい挑戦はここでも輝く。ホーンライクな奏法を意識しつつ溜めを利かせた運指が見事に曲のエッセンスを掬い取っていて、この曲に新しい命を吹き込んでいて素晴らしい。更に力感溢れる石田のピアノ、逞しく胴鳴りを響かせる吉田のベースと、このグループ会心のパフォーマンスだ。

<05>   Frame For The Blues トロンボーンの名手Slide Hampton作のブルース・ナンバー。どっぷりとブルース・フィーリングに浸らせてくれる石田のピアノのイントロ、大きくフィーチャーされる吉田のウッドベースの鳴りの良さはベース好きには堪らない魅力で正に王道のブルースが溢れ出ている。ブルース弾きとしての平田がここでその本領を発揮して、マイナー・グルーヴの魅力たっぷりのソロを弾きまくる。Kenny Burrell辺りをよく研究しているのが良く分る。2024年の日本でこれだけ本格的なブルースが愉しめるのは奇跡的かもしれない。

<06>   Fungii Mama 重いブルース・ナンバーの次はトランペットのBlue Mitchell作のカリプソ・チューン。カリブ海の陽光を感じさせるダンサブルなナンバーで平田はまた別の軽快な一面を見せてくれる。石田、吉田と続くソロ・リレーもそれぞれの個性を発揮しているが最も重要な鍵を握っているのは柳沼のヴァイタルな存在感を示すドラミングだろう。

<07>   My One and Only Love  アルバムの掉尾を飾るのは(詩)Robert Mellin (曲)Guy Woodによる超有名バラッド。数多の名演奏が残されているこの曲をラストに置くのは平田の自信の表れだろうか。平田のデリカシー溢れるハーモニー感覚と柔和な音色はJim Hallを彷彿させる。平田の演奏は中盤から体内から沁み出したソウルを抑えきれないように次第に熱を帯びてきてスリリング。最後はエンディング・テーマの静けさへと還ってゆく流れも実にナチュラル。

2024年の今日、Jジャズ界はまた一人新しい才能を見出した。平田晃一は現役東大生だというからジャズ・ミュージシャンとしては異色とも言えるかもしれない。文武両道、いや才色兼備というべきか。好漢、このまま王道のジャズ・ギタリストとしての道を歩んで欲しいものだ。筆者にとって次回作が待たれるJジャズ・ミュージシャンがまた一人増えた。

高橋正廣

高橋正廣 Masahiro Takahashi 仙台市出身。1975年東北大学卒業後、トリオ株式会社(現JVCケンウッド)に入社。高校時代にひょんなことから「守安祥太郎 memorial」を入手したことを機にJazzの虜に。以来半世紀以上、アイドルE.Dolphyを始めにジャンルを問わず聴き続けている。現在は10の句会に参加する他、カルチャー・スクールの俳句講師を務めるなど俳句三昧の傍ら、ブログ「泥笛のJazzモノローグ http://blog.livedoor.jp/dolphy_0629/ 」を連日更新することを日課とする日々。

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