#1149 『Frank Lowe Quartet / OUT LOUD』
text by 剛田武 Takeshi Goda
(LP)Triple Point Records TPR 209 (2014)
Frank Lowe (ts,ss,fl,vo,perc,hca,etc.)
Joseph Bowie (tb,congas)
William Parker (b)
Steve Reid (ds)
Ahmed Abdullah(tp)on D1
Side A
1. untitled 1 [11:13]
2. Vivid Description [8:04]
Side B
1. Listen [2:33]
2. untitled 2 [12:25]
3. Logical Extensions [0:41]
Side C
1. Whew! [23:18]
Side D
1. untitled 3 [23:53]
2. closing announcement [1:00]
all compositions by Frank Lowe
LP I (Side A & B)
Recorded at Survival Studio
77 Greene Street, NYC
May 1, 1974
recording engineer-Rashied Ali
LP II (Side C & D)
Recorded at Studio Rivbea
24 Bond Street, NYC
exact date unknown, probably 1974
recording engineer-Scott Trusty
フリー・ジャズの闘士が残した渾身の未発表音源集。
メンフィスに生まれ、サンフランシスコで音楽を学んだテナー・サックス奏者フランク・ロウは、60年代半ばに「ニュー・シング」の嵐吹き荒れるニューヨークに飛び込んだ。アリス・コルトレーンのアルバムに参加し、ジョン・コルトレーン・バンドの最後のドラマー、ラシッド・アリとのデュオ作をリリースしたりしたので、ポスト・コルトレーン派の道を行く可能性もあったのかもしれない。しかし、王道を行かず、激烈なフリー・ジャズ戦線に飛び込んだ背景には、66-68年に太陽神、サン・ラと共に活動した体験があるのかもしれない。それがシカゴのアフリカ系アメリカ人音楽家による自助組織「AACM」から生まれたアート・アンサンブル・オブ・シカゴのメンバーであるジョセフ・ジャーマンとレス ター・ボウイ、レスターの弟ジョセフ・ボウイら、従来のジャズから逸脱する個性派ミュージシャンとの共闘に繋がったに違いない。
73年にジョセフ・ジャーマンを交えた『Black Beings』(ESP)でリーダー作デビューしたロウは、74年にニューヨークで新たなカルテットを結成した。メンバーは新進気鋭のベーシストで、チャールズ・タイラー、セシル・テイラーなどとプレイしていたウィリアム・パーカー、モータウンのセッション・ドラマーだったスティーヴ・リード(ds)、そしてジョセフ・ボウイ(tb)だった。ジョセフ・ボウイは当時セント・ルイスのBAG「The Black Artists Group」(チャールズ・ボボ・ショウが設立した、シカゴのAACMに匹敵する非営利の音楽団体。ジュリアス・ヘンフィル、オリヴァー・レイク、ハミット・ブルーイット、ルーサー・トーマスなどロフト・ジャズの立役者が多数参加)のメンバーだった。このユニークなカルテットの貴重な録音が存在することは、フランク・ロウにごく近い関係者の間だけで知られていた。レコーディングから40年経って、この知られざるカルテットの全貌が明らかにされた。
処女作『Black Beings』はESPレーベルらしいざらついた音で、泣き叫ぶように激しいフリークトーンに満ちたドキュメントだったが、ジョセフ・ボウイが参加した2nd『Fresh』(75)と3rd『The Flam』 (76)では、叫喚地獄から抜け出そうとする思索的なフレージングが目立つようになった。その間を埋める本作に於いては、しゃくり上げるようなフリーキーなプレイと、フルートやハーモニカ、さらに声を使ってのエスニック・サウンドの実験的試みを交えながら、ボウイのトロンボーンと共鳴して、アフリカン・アメリカンの誇りを歌い上げる説得力のあるブロウを響かせる。
1974年5月にラシッド・アリのスタジオSurvival Studioで録音されたLP I(Side A,B)は、パーカーのランニング・ベースが先導するタイトルのないハード・バップ・ナンバー(A1)でスタートする。冒頭で「テイク1」の声が聞こえるので、セッション全体の最初のテイクなのかもしれない。ここで聴かれるロウのテナーは、コルトレーン風の速いパッセージをメインに、時折怒涛のフリークトーンに変貌するESP時代を継承するプレイ。比較的ストレートアヘッドなボウイのトロンボーンとの相性は悪くない。A2「Vivid Description」は短いテーマから、四者入り乱れてのカオスなプレイが吹き荒れる「ジャズの十月革命」の香りが濃いナンバー。B1「Listen」は一転してロウのバラフォン(アフリカの木琴)やホイッスル、そして声によるエスニックな小品。そのアフリカ風味はタイトルのないB2に続く。一定のメロディーをリピートするベースの上に、ランダムなパーカッションとヴォイス、トロンボーンとソプラノ・サックスが交錯する世界は、あらゆる事象に霊魂があるとするアミニズム思想を感じさせ、灼熱の密林から幻想の世界へ迷い込むようなサイケデリックな音響である。ミニマルな酩酊感は、ロウの後の作品では余り見られない、このカルテットだけの特徴と言えよう。試行錯誤中のテーマの短い繰り返しB3で、Survival Studioセッションは幕を閉じる。
LP II(Side C,D)はStudio Rivbeaでのセッション。録音日付は不明だが、演奏を聴く限りでは、Survival Studioセッションよりも後の録音と判断してよかろう。試行錯誤を交えた5月のレコーディングに比べ、メンバー間の呼吸が格段にスムーズになっている。Side C「Whew!」は、リズム・セクションのトライバルなビートに乗ってテナーとトロンボーンが自由に泳ぎ回る、後の作品『Fresh』や『The Flam』に通じる演奏。流麗なブルーノート・スケールと号泣フリークトーンの間を行き来するロウのプレイはとにかくスリリング。ソプラノ・サックスと弓弾きベースが摩擦するように軋む後半も聴きどころ。同じく23分に亘る無題のD1は、LP IのB2を発展させたアミニズム感溢れる演奏。リズムはより複雑に絡み合い、ジャングルで正体不明の動物の鳴き声が呼び合うように繰り広げられるインタープレイは、時に熱を帯び、時に沈黙に回帰し、精神世界への旅路を誘発する。このトラックのみアーメッド・アブダラがトランペットで参加している。最後に拍手とロウによるメンバー紹介と翌日の夜10時に同じステージに立つとのアナウンスがあり、これがライヴ録音であることが明らかになる。
特典として74年Studio Rivbeaにおける40分のライヴ映像へのリンクコードが封入されている。当時としては良質な画質で、ロウがサックス以外にもハーモニカやパーカッションやヴォイスを用いて意欲的に新たなサウンドに取り組む様子が窺える。
フランク・ロウは1943年生まれ。同世代にファラオ・サンダース(1940年生)、ロスコー・ミッチェル(1940)、アーサー・ブライス(1940)、レスター・ボウイ(1941)、ペーター・ブロッツマン(1941)、アンソニー・ブラクストン(1944)、エヴァン・パーカー(1944)などがいる。いわばフリー・ジャズ熱血世代と呼べるが、フランク・ロウの知名度・評価が他に比べいまひとつ低い事実は否定出来ない。限定リリースとはいえ、本作に収められた進歩的な感性と意欲的な実験精神が明らかにされた今こそ、2003年に没するまでジャズ史の裏街道を歩んだこの不屈のアヴァンギャリストへの評価をアップデートする必要があるだろう。(2014年10月17日記:剛田武)
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