#1217 『Han-earl Park, Catherine Sikora, Nick Didkovsky, Josh Sinton/Anomic Aphasia』
text by 剛田武 Takshi Goda
Slam Production SLAMCD 559
Han-earl Park (g)
Cathrine Sikora (ts, ss)
Nick Didkovsky (g / tracks 1 & 5)
Josh Sinton (bs, b-cl / tracks 2-4)
1. Monopod
2. Pleonasm (Metis 9)
3. Flying Rods (Metis 9)
4. Hydraphon
5. StopCock
Tracks 1 and 5: music by Eris 136199 (Nick Didkovsky, Han-earl Park and Catherine Sikora). Tracks 2-4: music by Han-earl Park, Catherine Sikora and Josh Sinton. Tracks 2-3: tactical macros (‘Metis 9’) devised and specified by Han-earl Park.
Tracks 1 and 5 recorded live at Douglass Street Music Collective, Brooklyn on June 5, 2013. Recording engineered by Scott Friedlander.
Tracks 2-4 recorded live at Harvestworks, New York City on October 29, 2013. Recording engineered by Kevin Ramsay.
Mixed by Han-earl Park.
Design and artwork by Han-earl Park.
名称が失われる即興音楽の極致を求めたドキュメント
歴史的に国際都市ニューヨークには様々な異文化が流入し、文化の坩堝の中から新しい芸術表現が生まれてきた。現在のNY即興シーンでも、別項でレビューしたミッコ・イナネンのように他国から訪れて、NY在住の音楽家と交歓し、新鮮な音楽表現を産み落とす例は多数ある。
ヨーロッパを拠点に活動するギタリストのパク・ハンアル Han-earl Parkも同様に、2年間NYに滞在し、様々なアーティストと交歓した。その成果としてふたつのユニットの演奏を収録したのが『アノミック・アフェイジア Anomic Aphasia』とタイトルされた本作である。
収録されたユニットは以下の通り:
Eris 136199 :Tracks 1 & 5
ニック・ディドゥコフスキー Nick Didkovsky (g)
パク・ハンアル Han-earl Park (g)
キャサリン・シコラ Catherine Sikora (ts,ss)
Metis 9 :Tracks 2-4
パク (g)
シコラ (ts, ss)
ジョシュ・シントン Josh Sinton (bs, b-cl)
2xギター+サックスの演奏が、2xサックス+ギターの演奏をサンドイッチする構成。ジャケット写真に写るのはギターのピックとサックスのリード。アルバム・タイトルは「失名詞症(失語症のひとつ。ものの名称を言ったり認識できない症状のこと)」の意味。便宜的にトラック・タイトルは付されているものの、言葉のない楽器同士の対話である即興演奏に名前をつける事は出来ない訳で、ギターとサックスの音響が重なり合う物音の交歓を総称するのにこれほど適したタイトルはないだろう。
友人たちに「ハン」(ハン・ベニンクと同じ発音)と呼ばれているというパクの在籍するグループには他にも数字絡みの名前が多い(Mathulde 253、io 0.0.1 beta++、Numbersなど)。数学を突き詰めると具体的な数値の存在しない哲学思想に近づくというから、名詞化できない即興の極致を求めるハンたちの活動理念の表出かもしれない。
2013年末にアイルランドに帰国し、現在はヨーロッパ中心に演奏活動を続けるハンだが、このアルバムにスナップされたNYシーンとの恊働が、今後も失われる事なく継続することは間違いない。
(剛田武/2015年5月31日初出)
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