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CD/DVD DisksNo. 327

#2388『村越 葵/アウト・オブ・ザ・ブルー』

text by Keiichi Konishi 小西啓一

Kamnabi Records KNRS-1003  ¥3,300(税込)8月6日発売予定

Aoi Murakoshi村越葵(Alto Saxophone)
Jun Tomoda 友田ジュン (Keys)
Yoshihiro Kaneko 金子義浩 (Bass)
Genki Hashimoto 橋本現輝 (Drums)
Etsuji Ogawa 小川悦司 (Guitar) (M:5,6 &8)

01 Solar (Miles Davis)
02 Out of the Blue (Aoi Murakoshi)
03 You Are Too Beautiful (Richard Rodgers)
04 Downtime (Robert Andre Glasper)
05 Magnolia (Aoi Murakoshi)
06 Liquid Streets (Roy Hargrove)
07 Hill (Aoi Murakoshi)
08 I Thought It Was You (Herbie Hancock/Mervin Ragin)

Recorded at STUDIO Dede, Tokyo on May 15 & 16, 2025
Additional Recording at Trilogic Studio, Tokyo on May 17 & 18, 2025
Engineered by Akihito Yoshikawa & Ryuto Suzuki
Additional Engineering by Etsuji Ogawa
Mixed and Mastered by Akihito Yoshikawa
Produced and arranged by Etsuji Ogawa (Trilogic Production)
Director : Yoshinori Nishio (diskunion)


札幌のジャズ・シーンからは、寺久保エレナ、石若駿を筆頭に、治田七海,馬場智章、佐瀬悠輔など、次代を担う多才にして有望な資質が次々に巣立っている。そのほとんどが米国修行を終え帰国後に大活躍だったり、現在も在米で活躍…あるいは修行中の身だったり…といった感じだが、そんな面々に次ぐ最注目の女流サックス奏者がいる。昨年札幌の高校卒業と同時にデビュー・アルバムを発表、その後全額学費免除という特待生としてバークリー音楽大学に留学した(現在2年生)、村越 葵。その彼女の期待の2作目が、これも J-ジャズの諸様相をくっきりと浮き立たせる上げ潮レーベル“ディスクユニオン/DIW”に新設された、”Kamnabi Records”第3弾として登場することになった。彼女は語る、”バークリーでの最初の1年間の学びを形にすることが出来、多くの方に愉しんでもらえたら幸いです。“
 村越 葵、この有望新星の名前を耳にしながらも、ぼく自身は勉強不足のせいもあって、未だその話題のデビュー作、青柳誠などのベテラン陣と仲の良い若手達、新旧2つのユニットとの共演作を聴いてはいない。なので彼女の “この1年間の学び” の成長振りを確められないのだが、2作目にしてメジャー・デビューともいえるこの『アウト・オブ・ザ・ブルー』によって、評判通りのその才能をはっきりと確信できた。その才については、バークリーの師の一人でもある、テリー・リー・キャリントン(ds)の推挙でパナマで開催された“ジャズ・フェス”にも出演…、などといった事実からもお分かり頂けるだろうが、そうでなくてもこのアルバムに接しさえすれば、伸びやかで覇気にも満ち、快調にフレーズを疾駆させていく、そのアグレッシブで真摯な有り様、感服することしきりである。何よりその佇まいの潔さと、艷やかな音色で放つ若々しい香気にも惹かれる。若いだけに瞬発力や推進力にも優れており、逆にその年令にも似ず、長尺バラード・プレー(3.)でも、仲々に熟れた処を開示する。
 このアルバムはマイルスの有名オリジナルでスタートされ、今回描き下ろしたという、タイトル・チューンなど(オリジナルは3曲)も含め全8曲を収録。バークリー音大修行中の期待の俊才らしく、ロバート・グラスパー(4.)やロイ・ハーグローブ(6.)など、シーンをリードする“旬”なミュージシャンのオリジナルを取り上げているのも面白く、それを自身のものとして咀嚼し、十分に奏で上げて行く辺りも、さすがと言える。中でも興味深いのは、バークリー音大で師事する一人、マーキス・ヒル(tp)のフレーズにインスパイアーされ、今回書き上げたというタイトルもズバリの”ヒル“だろう。少しアブストラクトな色合いも加えた、独特な陰影あるプレーが異彩を放ち、何よりジャズの”今“と”伝統“が無理なくミックスされており、その曲創りとプレー振りには、長年ジャズに接してきたぼく等でも、感服する処も多しだ。これには彼女の良点をよく知る、音楽プロデューサー&ギタリストの小川悦司(彼女の1作目も担当、サックス注目株の米沢美玖を送り出した人)の”功“もあるだろう。アルバム全体には、彼女のショウケースとでも呼べそうな一面もあり、様々なタイプのナンバーが収められているが、散漫な印象もほとんど無く、なんとも爽快な仕上がり具合である。また彼女と演奏を共にする、友田ジュン(p)以下の若手の面々も、溌溂として振り切れた演奏振りで仲々にグッドだ。
 彼女はこの8月にもまた、目黒”ブルース・アレイ”や札幌、大阪など全国で演奏ツアーを行う様だが、それも期待大である。新たなジャズ界の資質、頼もしい限りである!

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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