#1424『Carate Urio Orchestra / Garlic & Jazz』
KLEIN records
Joachim Badenhorst (cl, sax, key, voice)
Sam Kulik (tb, g, voice)
Nico Roig (g, voice)
Brice Soniano (b, voice)
Sean Carpio (ds, g, voice)
Frantz Loriot (viola, voice)
Pascal Niggenkemper (b, voice)
Side A: 1. Mosselman / The Salt Of Deformation
Side B: 1. Portsmouth, 1783
2. On Est Un
recorded by Ted Masseur at Nona, Mechelen, mixed and mastered by Christophe Albertijn
Charlotte Koopman of Otark made the artwork
Hand made stamps by Jailbeit and Rawakin
Silkscreened by Affreux
Edition of 650 vinyls wrapped in brown banana paper
produced by Klein, Otark, Het Bos, and Astropi, April 2017
カラテ・ウリオ・オーケストラ(CUO)は、ベルギー・アントワープ出身の多楽器奏者ヨアヒム・バーデンホルストを中心として結成されたグループだ。本盤のメンバーは、バーデンホルスト(木管)、サム・クリク(トロンボーン)、ニコ・ロイグ(ギター)、フランツ・ロリオ(ヴィオラ)、ブルース・ソニアノとパスカル・ニゲンケンペル(ベース)、ショーン・カーピオ(ドラムス)の7人である。また、全員が歌やヴォイスを発する。
CUOは、これまでに、本盤を含め4枚の作品を発表している。最初の『Sparrow Mountain』(Klein、2013年録音)と3枚目の『Ljubljana』(clean feed、2015年録音)においてはトランペットのエイリクール・オッリ・オラフソンが参加しており、上方に抜けるような感情の色を付け加えている。2枚目の『Lover』(Klein、2015年録音)および同日録音の本盤では、金管がオラフソンではなくトロンボーンのサム・クリクとなり、サウンドのニュアンスは、オープンな石畳の広場から路地の雑踏へと変わっている。しかし、それは、たまたまそうであった変化に過ぎない。つまり、楽器という機能ではなく、人で選んでいるわけである。また、グループの人数も固定されてはいない。
バーデンホルストは、さまざまな小さいユニットで共演してきた友人たちとのグループ結成を志向した。その結果、欧米各地のそれぞれ異なる背景を持つメンバーが集まり、異なる声と実験精神(バーデンホルスト曰く、異なるテクスチャーとスタイルによる「laboratorium」)が積み重ねられ、かれらが創り出す音楽もコスモポリタン的な色彩を強く持つものとなった。それはまさに雑踏での出逢いであり、アンビエントなサウンドが限りない魅力を放っている。
A面の「Mosselman / The Salt Of Deformation」は、ざわざわとした騒音からはじまる。ふと静けさが訪れたかと思えるのもつかの間。バーデンホルストが水の源流となって発する音の連なりに誘われるようにして、やがてサム・クリクのトロンボーンが入り、ギターの弦が軋む金属音、藪や空中から生起したようなヴォイス、フランツ・ロリオによるヴィオラの錐揉むような官能的な音が次々に加わってきて、サウンドは同じ場を循環するようでいて重層的なものとなっていく。後半になり、ショーン・カーピオのパルスが、喧騒を起点とする奔流のサウンドを震わせる。なお、「Mosselman」とはムール貝を採る人のことであり、それをモチーフとしたオランダとベルギー北部フランダース地方の童歌が換骨奪胎されている(現地で食べるバケツ一杯のムール貝はとても旨い)。水のイメージを幻視したこともあながち間違いではない。まるで異なる原曲と聴き比べてみるのも面白いだろう。
>> Kinderliedjes van vroeger – Mosselman
B面の「Portsmouth, 1783」では、クリクが、苦しい運命に巻き込まれた者の独白を低音で囁く。英国ポーツマスの歩兵隊の若者である。ニコ・ロイグのギターは、放心したようなかれに優しく添い歩くようだ。一転し、バーデンホルストの吹く旋律が、何か別の展開を想像させる。
続く「On Est Un」はブライス・ソニアノの声から静かにはじまるのだが、タイトル通り、全員が連帯するかのように集まり、次第に音が分厚くなり、バーデンホルストのストレートなサックスも相まって、人を勇気づけるサウンドを創り出す。その連帯は、やはり、コスモポリタニズムと多様性に彩られている。
カラテ・ウリオとはイタリア北部の小さな村の名前である。バーデンホルストは、同国コマチーナ湖に浮かぶコモ島で休暇を取っているときに、グループを結成することを決めた。そのとき近くの山に足を延ばして道に迷っているうちに、眼下にカラテ・ウリオの村が現れたのだという。偶然を愉しむグループを象徴するようなエピソードである。なお、その休暇中に作曲された作品が『Sparrow Mountain』に収録されており、また、ドローンによって夢の中の風景が再現されたような美しい曲「Comacina dreaming」として結実している。
本盤は650枚限定のLPレコードだ。シルクスクリーンによるスマートなジャケットが、さらにバナナの箱の下に敷かれていた茶色のクラフト紙で包まれている。かれらは音楽と料理を組み合わせたイヴェントを開いてきたのだが、そのときに料理を担当したシャーロット・クープマンが本盤のアートワークも手掛けたからである。偶然を愉しみ、コミュニティのつながりを尊重し、手作業を大事にすること。それはCUOの音楽と同じである。
(文中敬称略)