#1440『TON-KLAMI / Prophecy of Nue』
今月のCross Review #2: #1440『TON-KLAMI / Prophecy of Nue』
text by Akira Saito 齊藤聡
NoBusiness Records NBCD 102
Midori Takada 高田みどり (marimba, perc)
Kang Tae Hwan 姜泰煥 (as)
Masahiko Satoh 佐藤允彦 (p)
1. Prophecy of Nue
2. Manifestation
3. Incantation
Recorded live on the 27th May, 1995 at Design Plaza Hofu, Yamaguchi, Japan by Takeo Suetomi / Concert produced by Takeo Suetomi
Mastered by Arūnas Zujus at MAMAstudios
Photos by Akihiro Matsumoto, Takeo Suetomi and Yuko Tanaka
Liner notes by Takeo Suetomi and Koji Kawai
Design by Oskaras Anosovas
Produced by Danas Mikailionis and Takeo Suetomi (Chap Chap Records)
Release coordinator – Kenny Inaoka (Jazz Tokyo)
Co-producer – Valerij Anosov
ここにトン・クラミによる3枚のディスクがある。
『In Moers』(Ninety-One)は、1991年のメールス・ジャズ・フェスティヴァルにおけるライヴ録音である。棘で覆われているような、ささくれたような音色で、循環呼吸を駆使し、胡坐をかいてアルトを吹く姜泰煥に、メールスの観客は驚愕したに違いない。また多くのリスナーは、1993 年にCDとしてリリースされた録音により、この得体の知れぬサウンドを受けとめようとしたであろう。
次に世に出たトン・クラミのアルバムが、1994年にスタジオ録音され、翌年にリリースされた『Paramggod』(Ninety-One)である。ネッド・ローゼンバーグ(アルトサックス、バスクラリネット)がゲストとして参加し、この4人がさまざまな組み合わせでの演奏を試す作品でもあった。94年には故・副島輝人による『現代ジャズの潮流』(丸善出版)において、姜とローゼンバーグとがエヴァン・パーカーと並び循環呼吸奏法を表現に多用するプレイヤーとして紹介され、その意味でも注目を集めるものとなった。
そして、本盤が3枚目のディスクである。1995年に山口県のホールで演奏されたライヴ録音の一部であり、この実現には、同年まで山口県防府市でカフェ・アモレスを経営していた末冨健夫氏の尽力があった。演奏から22年を経てようやく陽の目を見たわけである。
演奏は高田みどりの空を切り裂くような薄く鋭いパーカッション、そしてそれを受けとめる佐藤允彦のピアノから始まる。姜のアルトは、どのような技法を使っているのだろう。嗚咽するような甲高い音、濁流のようにすべてを呑みこむ音、長い息吹と蜂のような微分音、こういったものを惜しげもなく淡々とシームレスに展開する。
これに対し、佐藤はあくまで理知的なピアノで応じ、サウンドに介入する。奔流に煽られることもなく抑制し続けること自体が、過激なアクションだと思えてならない。高田のパーカッションやマリンバも佐藤同様に理知的なのだが、ときに、トリックスターのように暴れてみせる。
この3人が次々に変化してゆくさまは目が眩むようであり、圧倒的だ。苛烈なエネルギーを放出した『In Moers』よりも多彩であり、ショーケース的な『Paramggod』よりも一期一会の迫力に満ちている。なお、本盤と同じ1995年に、姜、佐藤、富樫雅彦によって新宿ピットインで録音された『Asian Spirits』(AD.forte)は、同じ編成でありながら、また異なるトリオの姿を見せるものだった。そして、本盤と聴き比べることによって、富樫と高田の打楽器奏者としての違いだけによるものではない、トン・クラミの独自さがはっきりと浮かび上がってくる。
トン・クラミは、昨2016年にも来日を果たし、素晴らしい演奏を披露した。筆者が観た東京都民教会(2016年11月5日)でのライヴでは、姜のアルトが無数の音の束を発し、佐藤、高田とともに化学反応を起こしてくれた。本盤には、現在の熟成されたものと甲乙つけがたい演奏を聴くことができる。
(文中敬称略)