#1472 『Devouring the Guilt / Devouring the Guilt』
text by 定淳志 Atsushi Joe
Amalgam Music(AMA012)
Devouring the Guilt:
Gerrit Hatcher – Tenor saxophone
Eli Namay – Upright and electric bass
Bill Harris – Drums
- Fresh Water Scrod
- Pineapple Sorbet
recorded April. 2017
米国第3の都市シカゴには、ジャズ草創期以来の豊かな伝統と土壌が今も息づいている。ちょうど100年前の1917年にストリーヴィルが閉鎖され、ニューオリンズの多くのジャズミュージシャンがミシシッピを北上し、シカゴに流れ移った。20年代にはキング・オリバー、ジェリー・ロール・モートンらがシカゴジャズの礎を築き、やがてルイ・アームストロングがシカゴに移り、ベニー・グッドマンら白人プレーヤーも活躍した。大恐慌以降、ジャズの中心はニューヨークへ移動していくが、シカゴジャズは独自の発展を遂げることになる。とりわけ所謂シカゴ前衛派、65年に設立された AACM が有名だが、その10年以上前にも、宇宙人の交信を受けたハーマン・ブラントが太陽神として目覚めているし、前衛系に限らずとも、リー・コニッツ、ジョニー・グリフィン、アンドリュー・ヒルといった偉大なスタイリストたちがシカゴ出身であったりする。すなわち、それぞれ個別の特異性と見えるものこそが、実は1人1人が独自性を追求するシカゴジャズならではの伝統といえないこともなさそうだ。が、さっきネットで読みかじった程度の知識ばかり書いていても仕方がない。
現在もケン・ヴァンダーマークやマーズ・ウィリアムズをはじめ、シカゴを拠点とする多くのミュージシャンたちが精力的な活動をしており、デイブ・レンピスやニック・マッツァレラなどさらに若い世代もどんどん台頭してきている(わたしはどうしてもフリー系、しかもサックスばかりになってしまうけれど)。というわけで、ようやく本作品の主人公であるゲリット・ハッチャーの登場だ。個人ホームページはおろか、詳しいバイオグラフィーも見つけられないのだが、どうやら今年26歳、というから90年代生まれ、新進気鋭のフリー系テナーサックス奏者のようである。なおレーベルの Amalgam Music は、本作品でドラムを叩くビル・ハリスが2015年に興したもので、シカゴフリージャズシーンの新たな動きを記録・紹介しており、本作品に先立つ8月には、たぶんハッチャーのデビュー作にあたる無伴奏ソロのアルバム(カセット)もリリースされている。
本作品は所謂コードレスサックストリオ編成。シカゴで隠れた名演が生まれる Empty Bottle における17年4月のライブ録音。ハッチャーは、前記デビュー作で曲を捧げた2人の先人であるフランク・ライトとフランク・ロウ、と誰かを足して3で割ったような、パワフルで繊細な現代的感覚のフリージャズを独特のコク深い音色で聴かせてくれている。ベース、ドラムも精妙にサックスを鼓舞する。演奏はジャケットのアイスクリームのように甘くはない、が、とびきり旨いのだ。
free jazz、frank lowe、Gerrit Hatcher、Eli Namay、Bill Harris、Frank Wright