#1494 『石田幹雄 / 時景』
text by 定淳志 Atsushi Joe
石田幹雄 / 時景
Gaia Records (GAIA-1007)
石田幹雄 (p)
- 輝彩
- 蛍友
- 平遠の赤霞
- 七申八寅
- 模(かたぎ)
- ハリウスⅡ
- 心影
- 雲間の光
- 雪風
- 悠遠のはざま
- 回り合わせ
- A.P.C.H
- 夜
2017年2月8日録音
石田幹雄のソロピアノアルバムがようやく出た。今からちょうど10年前、当時札幌を拠点に活動していた石田が関東に居を移す直前に行ったソロピアノライブは、その後の10年間も含めて、わたしが観た彼のライブの中で最も印象に残ったもののひとつである。だからいつしか、彼のソロピアノアルバムを待望していた。それがついに出たのである。全13曲はいずれも石田のオリジナル。ありきたりな表現で恐縮だが、どれも珠玉というほかない、美しく可憐で瑞々しくシンプルで温かく思索的で気高く耽美的で儚く聴くものの人生にそっと寄り添うような佳曲ばかりだ。
彼のピアノについて、かつてわたしはこう書いた。いささか長くなってしまうが引用する。
自身の全存在をかけて楽器と対峙して全精力を投入、(中略)最愛の存在を優しく愛でるかのごとく撫でさすり、うめき声を上げつつ、目はあらぬ虚空を見据え、その表情は恍惚感に満ち茫然自失無我夢中、思わずモザイクで覆いたくなってしまうようなもので、その間鍵盤からは聴くものの胸を焦がさずにいられない熱のこもった音・音・音が吹き上げてくる。(中略)バラード表現にも才気は発揮される。むしろこちらが真骨頂かもしれない。(中略)そのテーマを奏でる際には、すでに作曲された曲にもかかわらず、まるで初めてメロディーが誕生するときのように矯めつ眇めつしながら、力を限界まで絞りきるようにして一音一音を探りあてていく。そのヒリヒリした生の切迫感は、聴くものの胸を貫き、狂おしく締めつける。(田中啓文『聞いたら危険!ジャズ入門』211~213頁)
本作における彼の演奏はその「真骨頂」そのものだ。もちろんアルバムだけを聴いて美しさに酔いしれるのもいいのだが、もしあなたが石田幹雄のライブを観たことがなければ、ぜひ一度(といわず何度でも)彼の生の姿を体験してほしい。彼がどれほど苦しげに音を絞り出しているか、一つの音を生み出すためにどれほど全身全霊を傾けているか、その目で確かめてほしい。そのうえで本作品を聴けば、またちがった味わいがあるはずだ。
購入希望者は、石田幹雄のライブ会場で直接か、メールでの通販も受け付けている。
メールアドレスは彼のホームページ(http://www.geocities.jp/s000152e/)を参照のこと。
(文中敬称略)