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Jazz and Far Beyond

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CD/DVD DisksNo. 240

#1506 『辛島文雄/My Life in Jazz』

text by Yumi Mochizuki 望月由美

ピットインレーベル Mシリーズ PILM-0007  ¥2,500+tax
発売・販売元:株式会社ピットインミュージック
配給:株式会社ディスクユニオン

辛島文雄(p)
井上陽介(b)
高橋信之介(ds)

1. Detour Ahead(J.Frigo)
2. Old Devil Moon(B.Rane)
3. So In Love(C.Porter)
4. Elsa(E.Zindars)
5. Blue Monk(T.Monk)
6. You Don’t Know What Love Is(G.De Paul)
7. Darn That Dream(J.V.Heusen)
8. I Should Care(S.Cahn/A.Stordah/P.Weston)
9. Nardis(M.Davis)

プロデューサー:辛島文雄
共同プロデューサー:品川之朗(ピットインミュージック)
エグゼクティヴ・プロデューサー:佐藤良武
エンジニア:菊地明紀(ピットインミュージック)
録音:2016年3月11日 スタジオTLiveにて録音
写真:品川之朗(ピットインミュージック)鈴木寛路(新宿ピットイン)

 

ジャズと向き合って50年、一貫して誠実にアグレッシヴに突き進んできた辛島文雄(p 1948 3.9~2017.2.24 68歳)の、おそらく生涯ではじめてと思われるほど肩の力の抜けた穏やかな心根が浮かび上がる。

2015年の夏、自らすい臓ガンであることを公にし、放射線療法などつらい抗ガン治療を乗り越え、病と闘いながらジャズと向き合ってきた辛島はその翌年の2016年2月から3月にかけて日野皓正(tp)や渡辺香津美(g)をはじめ、これまで関わりの深かったミュージシャンを招いて『マイ・フェイヴァリット・シングス 辛島文雄』(ピットインレーベル2016)を録音し長いジャズ生活をふり返り回想したが、このレコーディングが終わった瞬間、次はピアノ・トリオをやろうということを辛島は思い立ったという。

編成は辛島の原点、ピアノ・トリオ。
辛島と井上陽介(b)、高橋信之介(ds)の3人は勝手知ったる旧知の仲なので事前に構想を練ったり、リハーサルもなし、いきなり本番に臨みその場の気分で曲も決めたという。

演奏曲は当然のことながら辛島が学生時代から聴きこんだというビル・エヴァンス(p 1929~1980 51歳)のレパートリーが中心であるが、単なるエヴァンスの再現ではなく新たな再生であり、達観した辛島ジャズの原点が詰まっている。

(1)<デトゥアー・アヘッド>はビル・エヴァンスのヴィレッジ・ヴァンガード・セッション『ワルツ・フォー・デビー』(Riverside 1961)での演奏曲。
高橋信之介(ds)のブラシ・ワークがヴィレッジ・ヴァンガードのポール・モチアン(ds)を彷彿とさせる。

(3)<ソー・イン・ラヴ>はエヴァンスのレパートリーではなく、ピアノではハンプトン・ホーズ(p 1928~1977)の『Hampton Hawes Vol.1:The Trio』(Contemporary 1955)がよく知られている。
しっとりとしたバラード演奏が定番のこの曲をかなりのアップ・テンポで爽快にスイングする。

(4)<エルザ>はエヴァンスの『Explorations』(Riverside 1961)が思いつく。
テーマを弾く辛島の嬉しそうな顔が目に浮かぶ。
やはり、辛島にはエヴァンスがよく似合う。

(5)<ブルー・モンク>はモンクの曲ではあるが、同時にエヴァンスが 『Conversations With Myself』 (Verve 1963)でピアノの3重奏を試みた曲、やはりモンク的と云うよりはエヴァンス的なブルー・モンク。
高橋信之介(ds)との目まぐるしい掛け合いからテーマに戻るころには独特のドライヴがかかった辛島の世界が広がる。

(6)<ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ>はロリンズやコルトレーンなど多くの巨人が名演を残しているスタンダードであるがエヴァンスはトニー・ベネット(vo)とのデュオ 『Together Again』(IMPROV 1976)で演奏を残している。
軽いノリで飛ばすところが辛島らしい。

(7)<ダーン・ザット・ドリーム>はエヴァンスとジム・ホール(g 1930~2013 83歳)のデュオ『Undercurrennt』(United Artists 1962)であまりにも有名な曲。
多分エヴァンスだったらトリオではこう弾くだろうと思わせるようなキリッとひきしまった端正なタッチで辛島が弾ききりスタイリストぶりを示す。

(8)<アイ・シュッド・ケア>は 『How my heart sings!』(Riverside 1962)や『At Town Hall』(Verve 1966)でエヴァンスが弾いている曲。
無伴奏のイントロからぐんぐんスイングし辛島本来の明るいドライヴ感が伝わってくる。
トリオを引っ張る推進力こそが辛島の真髄である。

(9)<ナーディス>はエヴァンスが 『Explorations』(Riverside 1961)で録音して以来折りにふれて演奏しているエヴァンスの定番中の定番レパートリーであるが、ここでの辛島トリオの演奏は 『エクスプロレイションズ』よりは68年モントルーの 『Bill Evans At The Montreux Jazz Festival』(Verve 1968)の構成に近い演奏。
ここでの辛島はエヴァンスが乗り移ったかのような強力なドライヴで、トリオを鼓舞する。
ピアノによるテーマの提示に続いて井上陽介(b)がエディ・ゴメス(b)のように速いフィンガリングでソロをとり、辛島が後を継いで猛烈にスイングする。
そして高橋信之介(ds)がモントルーのジャック・ディジョネット(ds)のソロを下地としたロング・ソロを展開、黄金時代のモダン・ジャズのだいご味を聴かせる。

本アルバム『辛島文雄/My Life in Jazz』(ピットインレーベル 2016)は前作『辛島文雄/マイ・フェイヴァリット・シングス』(ピットインレーベル 2016)のわずか10日後に録音されたもので、まさに辛島文雄のスタジオでのファイナル・レコーディングである。
ここには死と真正面から向き合った人にしか達しえない迷いのない悟りの境地が響いている。
聴き終えてデジパック仕様のジャケットを開き、ジャケットのCDトレイにCDを戻そうとすると、CDトレイにはピアノの上に置かれた辛島が愛用していたオレンジ色のポークパイ・ハットの写真がうめこまれている。
CDを収めると辛島のポークパイ・ハットがCDで覆い隠される、グッドバイ・ポークパイ・ハット…合掌。

望月由美

望月由美 Yumi Mochizuki FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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