JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 50,540 回

CD/DVD DisksNo. 252

#1600 『Otherworld Ensemble / Northern Fire』

Text by  剛田武 Takeshi Goda

Edgetone Records  CD/DL  EDT4201

Heikki Koskinen : tenor recorder, e-tp, fl, kantele
Teppo Hauta-aho : b, perc, pigs
Rent Romus : as, fl, bells, mandolin banjo
Mikko Innanen : as, ss, fl, perc, pigs
Veli Kujala : quartertone accordion

1. A fire to freedom
2. Vaahtopäät (Foamheads)
3. Henkeä elämää (Spirit Life)
4. Wind Spell
5. Kun siat voivat lentää (When pigs fly)
6. Aatto (vigil)
7. Revontulet (aurora borealis)
8. Ghost of Johnny Dodds
9. Otherside
10. A removal of obstacles
11. Iberia
12. It’s never too late to release the bonds

Recorded at Kaapelitehdas, Helsinki, Finland, May 29, 2017
Mixed & mastered at Music Vision by Heikki Koskinen
Photos by Rent Romus
Cover Art by Collette McCaslin

http://edgetonerecords.com/

 

レント・ロムスとフィンランドの血の繋がりが産んだ、もうひとつの自由な世界のアンサンブル。

「アザーワールド(もうひとつの世界)とは我々みんなの心の中にある場所です。道を歩いている時に浮かぶ、知らない人や場所へのデジャ・ヴ(既視感)と愛着が、その奥に未知のメロディーとなって現れます。」

これは2015年にレント・ロムスがLife’s Blood Ensemble名義でリリースしたアルバム『The Otherworld Cycle (visions of the Kalevala, land of my Grandmothers)』について語った言葉である。自分の先祖のルーツであるフィンランドの国民的叙事詩「カレワラ」、カレリアのフォークミュージックやスーミ人のヨイク等を研究するうちに、ロムスの心の中の「アザーワールド」に生まれた未知のメロディーを集めた作品だった。

2017年5月、ロムスはこのアルバムで共演したフィンランド人トランペット奏者ヘイッキ・“マイク”・コスキネンとふたりでフィンランドを訪れ、1941年生まれのベテラン・ベース奏者テッポ・ハウタ=アホと、NY即興シーンとの交流が深い前衛サックス奏者ミッコ・イナーネン と共に「アザーワールド・アンサンブル」としてツアーを行った。

このツアーからは、2017年5月21日ヘルシンキのカルチャー・センターでのライヴ音源が2018年10月に『Otherworld Ensemble / Live at Malmitalo』としてロムス主宰のEdgetoneレコードからリリースされた。3管+ベースのドラムレス・カルテット編成で、素朴なフィンランド民族音楽と前衛ジャズが同化した自由な演奏を繰り広げている。

アザーワールド・アンサブル第2弾となる本作は、前作の8日後の2017年5月29日におなじくヘルシンキのコンサート会場Kaapelitehdas(“ケーブル工場”の意味)でのライヴ録音。基本カルテットに、ゲストとしてフィンランド人アコーデオン奏者ヴェリ・クヤラを迎えた即興演奏である。

笛やパーカッション、カンテレやマンドリンやpigs(豚?何処で使われているか探していただきたい)を取り入れた多楽器主義の演奏は、クヤラの奏でるクオータートーン(四分音)アコーディオンの、時々日本の雅楽を思わせる無調のメロディーにより攪乱され拡散される。開放感あふれるゆったりとした大河のようなサウンドの流れが、何百年も昔から口頭伝承で伝えられてきた『カレワラ』に刻まれた月日の星霜を思わせる。五人五色の自由な音色の重なりは、あたかもフィンランドの針葉樹の森に棲む鳥たちと樹木が風を媒介に通じあうラヴ・アフェアのようだ。アンビエント的とも言える空気の希薄さが『ノーザン・ファイア(北国の炎)』というタイトルを閃かせる。

“ウェストコースト即興シーンの顔役”を離れて自らのルーツであるフィンランド音楽とのプライベートな交流を追求するこのプロジェクトは、レギュラー・グループのLife’s Blood EnsembleやLords of Outlandとは別のレント・ロムスの魅力を伝えてくれる。(2019年3月30日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください