#289 『ジョエル・レアンドレ~佐藤允彦/ Voyages』
text by 横井一江 Kazue Yokoi
BAJ Records BJSP-0001
ジョエル・レアンドレ (b)
佐藤允彦 (p)
1. Voyages - 1
2. Voyages – 2
3. Voyages – 3
4. Voyages – 4
5. Voyages – 5
6. Voyages – 6
7. Voyages – 7
8. Voyages – 8
録音: 2005年8月17日@EGG FARM(埼玉県)
何かを予感させるようなベースのアルコ・ソロ。そこに楔を差すようにピアノが切り込む。それは次々と間隔を狭め、やがてボーイングに乗るように、絡むように、距離を測るように、ピアノとのインタープレイが繰り広げられる。本作はそんなトラックから始まる。
佐藤允彦は日本のジャズ界では言わずと知れた存在であるが、即興演奏の場でも世界のトップクラスのインプロヴァイザーと共演し、記憶に残る演奏を残してきたその草分けであり、屈指の即興演奏家だ。ジャズからフリージャズ、そして即興演奏という流れのなかで、ヨーロッパのミュージシャンは自らの言葉で音楽を奏でるようになった。フリージャズの熱い空気の名残が残っていた頃の身体論的展開を見せたフリー・インプロヴィゼイションも時代と共に変化し、さまざまな音楽フィールドから即興演奏の場に入っている音楽家がいる。そんなヨーロッパの即興音楽界で活躍しているベース奏者がジョエル・レアンドレだ。齋藤徹の招きで初来日して以来、日本でも数回ツアーを行っている。
アルコとピッチカートを使い分け変幻自在に泳ぐレアンドレ、特殊奏法は使っていないにもかかわらず多彩なサウンドを繰り出す佐藤、即興演奏としては各トラックは短いが、それぞれが別の表情を持つ。フリーで開かれているということは、ある意味とても不自由である。いつのまにか、暗黙の了解というべき一種の決めごとが出来、クリシエに陥りやすくなった。しかし、所詮決めごとは後付けのあってなきもの。マインドが“自由”であれば、優れた演奏家なら沢山の引き出しからサウンドを自由に引き出し、豊かな表現が可能。この二人はまさにそういう演奏家であり、高次元で繰り広げられるインタープレイはイマジナティヴだ。自由なスピリットは音楽に新鮮な空気を呼び込む。即興演奏ならではの創造の瞬間がここにある。
佐藤允彦、ジョエル・レアンドレ、Joëlle Léandre