#1645 『Sound of the Mountain with Tetuzi Akiyama and Toshimaru Nakamura / amplified clarinet and trumpet, guitars, nimb』
Text and photo by Akira Saito 齊藤聡
Mystery & Wonder mw008
Tetuzi Akiyama 秋山徹次 (g)
Toshimaru Nakamura 中村としまる (no-input mixing board)
Sound of the Mountain:
Elizabeth Millar (amplified cl)
Craig Pedersen (amplified tp)
1. amplified clarinet and trumpet, guitars, nimb
2. amplified clarinet and trumpet, guitars, nimb
Recorded by Yoshiaki Kondo at Gok Sound, Tokyo, October 8,2017.
Mixed and designed by Mystery & Wonder. Mastered by Taylor Deupree at 12k Mastering.
All music by the artists.
Buy online at: www.mwrecs.com
Stream an excerpt: https://soundcloud.com/mwrecs
「Sound of the Mountain」ことエリザベス・ミラーとクレイグ・ペデルセンは、モントリオールを拠点とするユニットである。即興演奏家にとって旅とは活動の自然な延長であるように思えるのだが、本盤も、日本への旅における出会いの記録である。
かれらは確かに伝統的な楽器を扱う。クレイグはトランペットを、エリザベスはクラリネットを。だが、かれらのサウンドは、楽器が通常の時空間で通常の方法によって鳴らされて創出されるものではない。エリザベスがクラリネットのキーを叩く音は増幅され、木の物質感を露わにする。対照的に、クレイグのトランペットにおいてはピストンが動き、当たり、金属の物質感が踊る。その動きさえピストンが突然分解され大胆に取り外されて想定をやすやすと超えてしまう。そしてかれらの息もまた、管の共鳴のためにではなく、人が感知できる機能を拡張するために奉仕する。
すなわち、このサウンドは単なる音の増幅ではない。知覚領域においてマクロとミクロの権力関係が破壊されて均され、それによって、はじめてその権力関係に気付かされることになる。そして権力によって隠されていた音が知覚領域に浮上し、奇妙なマチエールを描き出す。かれらのサウンドをはじめて聴いたときから幻視していたのはマックス・エルンストのフロッタージュだが、それは故なきことではない。
本盤は、かれらが、中村としまる、秋山徹次という曲者と出会って、「たまたま」このようになった成果であり、またフリー・インプロヴィゼーションでは同義かもしれないが、過程である。(実際に、本盤録音の翌年に観たときの印象とはやや異なっている。)
上下を往還し潰してみせるクレイグとエリザベスのサウンドを、中村は、嵐の船の乗客のように前後左右にためらいなく揺り動かす。その慣性は驚くほど大きいが、中村はつねに平然として両手でエレクトロニクスを操作する。そして物語性を拒否しているにも関わらず、悲劇のように、秋山のギターが亀裂を入れる。
上下と前後左右の運動、それによる摩擦と突破、予想できない事件。極めて独自性の高いサウンドである。(文中敬称略)