#1329 『Etienne Charles / San Jose Suite』
text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦
Culture Shock Music Inc. B01EEWPKOA
Etienne Charles (tp.per)
Brian Hogans (as)
Alex Wintz (g)
Victor Gould (p,kb,org)
Ben Williams (b)
John Davis (ds)
Dr. Harry Edwards (spoken word,10,11,12)
- Boruca
- Limon
- Cahuita
- Hyarima – 14 October 1637
- Revolt
- Juego De Los Diablitos
- Muwekma
- Song For Minh
- Gold Rush 2.0
- Speed City Intro
- Speed City
- Speed City (Reprise)
Recorded by Dave Darlington at MSR Studios, Studio A, NYC on August 31 and September 31, 2015.
Produced by Etienne Charles, Associate Producer : Jacques Schwarz-Bart, Maria Nunes & Dave Love.
カリブ海に浮かぶ島国、トリニダード・トバコ出身の気鋭のトランペッター、エティエンヌ・チャールスが、故郷の街セント・ジョセフ(スペイン統治時代の旧名はサンノゼ)、コスタリカのサンノゼ(ホセ)、そして北カリフォルニアのサンノゼをテーマに、虐げられた先住民と、奴隷として連れてこられたアフリカ系移民をテーマに描いた壮大な組曲。The Generosity of The Doris Duke Charitable Foundationが運営する、A Chamber Music America New Jazz Workの賞金で制作された。トリニダード・トバコ、コスタリカの先住民とのセッションからインスピレーションを受け、カリフォルニアのサンノゼにおける先住民の歴史、またサンノゼ州立大学における1960年代の公民権運動や、現代のシリコン・ヴァレーにおける貧富の格差拡大を、チャールスは入念なリサーチを重ねて音楽で言及する。2015年の8月のカリフォルニアのサンノゼ・サマー・ジャズ・フェストで初演され、大絶賛を浴びた。オープニングの“Boruca”、“Juego De Los Diablitos”はコスタリカの先住民族ブローカ族の、故人を明るくも切なく偲ぶ宗教儀式をジャズ・フォーマットで描く。“Limon”は、コスタリカに連れてこられて鉄道建設や農作業に従事し、苦境を味わった西インド諸島の人々の悲劇を語る。トリニダード・トバコ発祥のカリプソが、コスタリカに渡り変化を遂げた過程を“Cahuita”は表している。リズム・テクスチャーは変化しても、音楽的歓喜は変わらない。“Hyarima – 14 October 1637”は、トリニダード・トバコの先住民族へのオマージュを土着のワルツ・リズムで捧げ、”Revolt”では1837年のトリニダード・トバコのアフリカ系住民の反乱を、スリリングなリズムで表現した。舞台はカリフォルニアのサンノゼへと移る。北カリフォルニアの先住民族“Muwekma”をタイトルに冠して侵略者に追われる彼らの悲劇を、アップテンポなソロの応酬で象徴。忍び寄る現在の経済的侵略の不穏な空気を、短い“Song For Minh”で醸し出し、アンディ・ウィンツのギターがシームレスに”Gold Rush 2.0”へと導入する。シリコン・ヴァレイのテクノロジー・ブームの好景気の物価の高騰から、サンフランシスコのベイ・エリアでは貧困層が拡大する二律背反を、19世紀半ばのゴールドラッシュと重ねて描いている。アルバムのエンディングは、1968年のサンノゼを、ファンク・リズムの”Speed City”3部作で描いている。サンノゼ州立大における人種差別撤廃運動と、それに連動して1968年のメキシコ・オリンピックに向けた、”人権を求めるオリンピック・プロジェクト”を、当時は同大学の陸上競技選手だった、現カリフォルニア大バークレー校の社会学者ハリー・エドワーズ名誉教授が組織した。この団体のメンバーだった同大学陸上競技部のトミー・スミスとジョン・カルロスは、メキシコ・オリンピックで金メダルと銅メダルに輝く。その受賞式典で、二人はアフリカ系アメリカ人の差別を訴えるパフォーマンスをして、オリンピック憲章に触れると物議を醸した事件を描いている。タイトなリズムにのって、ハリー・エドワーズ自身がスポークン・ワードで、激しく訴えかける。2016年の現在もまだ続く、アメリカの人種差別への強烈なメッセージだ。
6月29日のジャズ・アット・リンカーン・センターのリリース・ギグは、レコーディング・メンバーがほぼ揃った。ベースは、ベン・ウィリアムスに変わり、ジョナサン・ミシェルが務めた。エティエンヌ・チャールスとブリアン・ホーガンス (as) の、2管のアンサンブルとソロの応酬がスリリングだ。チャールスは、パーカッションでもリズムに厚みを加える。ヴィクター・グールド(p,kb) とアレックス・ウィンツ(g) は、効果的なコンピングを聴かせ、ソロでは一気にチャージする。ジョン・デイヴィス (ds) とジョナサン・ミシェル (b) のリズムは、カリプソ、ラテン、ストレートアヘッド、ファンクとあらゆるリズムを、しなやか躍動させた。それぞれの曲に込められたメッセージ、コンセプトを知らなくても、サウンド・テクスチャーのヴァリエーションで愉しめるが、その背景を知るとさらに深さが感じられる音楽だ。エティエンヌ・チャールスは、アーティストとしての新たなステージに到達した。
関連リンク Etienne Charles http://www.etiennecharles.com/