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CD/DVD DisksR.I.P. ソニー・シモンズNo. 277

#2077『Sonny Simmons / Music from Spheres』
『ソニー・シモンズ/天球からの音楽』

text by Akiyoshi Onnyk Kinno 金野Onnik吉晃

「ソニー・シモンズ讃歌。“Music from the spheres / Sonny Simmons” のレビューとして」

ESPという希有なレーベルのリリースした作品群はどれもこれも面白いのだが、その理由は、どうしても時代に責任を負わせたくなってしまう。すなわち、一言で「それはフリージャズのときだった」と。
ようやくジャズから脱し、まだ臍の緒を切れず、胞衣を引きずって、それでもジャズの鬼子として、声を上げた。その恐るべき子供達は、どこに行こうとしたのか。彼等の王国は見つかるのか。いやそれは目的地ではない。むしろそれは旅と言っていいだろう。ジャズからのエクソダス。フリーとは苛酷の意である。
ノマド達は何をあてにすれば良いのか。どんなに周囲が変わっても天はひとつだ。眩しくて見つめる事の出来ない太陽も、そして表面に不可思議な陰影をもち日々変化して行く月も、その他あまたある星々も、彼等の行くべき道を教えてくれたのではないか。
天なる存在、天体が規則的に動くのはそれらが天球に貼付いているからだ。天は半球状(hemisphere)のドームではなく、大地の上からは見えない反対側まで連続して地球を囲繞する球=sphereなのだ。
セロニアス・モンクは、決してフリージャズの旅人ではなかった。が、ミドルネームにそのSphereという名をもつが故、道を踏み迷う事なく歩を進めた。

そしてESPに二枚のアルバムを残すソニー・シモンズは、二作目をMusic from the spheresと名付けた。ここでmusicは複数ではなく、sphereが複数になっている。つまり彼は複数の天球、または圏からのメッセージたる「ひとつの音楽」を求めている。
地球を取り囲む天球は幾つかの層になっており、その層はそれぞれの天体を運行させている。そして地球からの距離がそのまま音高となって全体でオクターヴを成し、留まる事のない天体達の運動がある。これこそ天界のハーモニー、ピタゴラスの思想だ。
天界の音楽という意識に魅了された音楽家は少なく無い。それどころか楽理発展の大きな動機だった。
有名なのは16世紀のケプラー、17世紀のロバート・フラッド、そして20世紀のシュタイナー等々枚挙に暇が無い。これは音律論であると同時に天動説と地動説の論争であり、占星術と錬金術の反映でもあった(ジョスリン・ゴドウィン著「星界の音楽」参照)。60年代のアメリカでは、ミニマルミュージックの創始者の一人、トニー・コンラッドもそうだった。
そしてシモンズもまたその系列に加わるだろうか。天からの音楽は、伴侶たるバーバラ・ドナルドとの共鳴の中に聞こえる。シモンズのアルトとバーバラのトランペット、二人の音が絡み合うと、そこには一体感がある。

一曲目、もしResolutionと単数ならば、それは「解決、決意」と思えるが。ここでは複数形だ。それは「決議」となる。シモンズは誰と何を決議したのだろう。曲調は荘厳なテーマに始まり、次第にクィンテット全体が一体となる。
二曲目はBalladia。三曲目は彼等の息子Zarakの名が冠された「交響楽」だ。後に彼もパーカッショニストとして音楽の道を行く。
この二曲は相似的である。ビート感を失わないピアノ、ベース、ドラムは、そこだけ聴けばハードバップ的でさえある。マイケル・コーエン、ジュニー・ブース、ジェイムズ・ジトロの面目躍如。アルトとペットのソロが「フリージャズの空間」を切り拓く。
しかし、それも最後の曲の前には子守唄だったのかもしれない。Dolphy’s Daysは強烈だ。ドルフィー逝って既に2年。シモンズの中に、彼の遺した息吹がまだある。いやますます燃え盛っているだろう。ドルフィーは決してフリージャズへの完全突入を図らなかった。あくまで彼はクロマティックなフリーインプロヴィゼーションの可能性を覆い尽くすかのようなソロを聴かせたが。シモンズはそれには飽き足らず、よりフリーキーなサウンドの探求とスピードを求めている。

最初のソロ、この曲だけ参加のバート・ウィルソンのテナーが吠える。雄渾だ。そしてバーバラが続く。当時、白人女性のトランペットでこれだけの人がいただろうか。彼女は高齢になるまで演奏や指導の音楽活動を続けた。そしてシモンズのアルトは他の追随を許さぬような速度で咆哮する。コーエンのピアノはセシル・テイラーもバートン・グリーンも凌駕せんばかりだ。そして当時まだ二十歳になるかならないブースは臆している感もある。曲全体を通してジトロのドラミングは強度を保ち続ける。
シモンズを取り巻く天球は、彼のコンボのメンバーだ。そして彼等の運動が一体=アンサンブルとなって、天界のハーモニーを響かせている。

え、なんだかんだと牽強付会したところで、つまりはフリージャズだろうって。そうだ、これこそ「真性のフリージャズ、ニュー・シング、新しきもの」だ。


金野 "onnyk" 吉晃

Yoshiaki "onnyk" Kinno 1957年、盛岡生まれ、現在も同地に居住。即興演奏家、自主レーベルAllelopathy 主宰。盛岡でのライブ録音をCD化して発表。 1976年頃から、演奏を開始。「第五列」の名称で国内外に散在するアマチュア演奏家たちと郵便を通じてネットワークを形成する。 1982年、エヴァン・パーカーとの共演を皮切りに国内外の多数の演奏家と、盛岡でライブ企画を続ける。Allelopathyの他、Bishop records(東京)、Public Eyesore (USA) 等、英国、欧州の自主レーベルからもアルバム(vinyl, CD, CDR, cassetteで)をリリース。 共演者に、エヴァン・パーカー、バリー・ガイ、竹田賢一、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、豊住芳三郎他。

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