#2147 『小杉武久+高木元輝/薫的遊無有〜infinite Emanation』
『Takehisa Kosugi+Mototeru Takagi / infinite Emanation』
text by Koji Kawai 河合孝治
ちゃぷちゃぷレコード CPCD-008
Takehisa Kosugi/小杉武久 (vln,voice,electronics)
Mototeru Takagi/高木元輝 (ss,ts)
1. Emanation No.1 (21:32)
2. Emanation No.2 (40:55)
All composed by Takehisa Kosugi/小杉武久&Mototeru Takagi/高木元輝
Concert produced by 戸田廣 & 長野陽二郎
Recorded live by 戸田廣 at 薫的神社 高知市 1985年1月19日
Mastered by 末冨健夫
Album produced by 末冨健夫 (Chap Chap Records) & 河合孝治 (TPAF)
*非連続の連続という無常なる時空間の原動化。本アルバムはそのような音楽史上驚くべき出来事に挑んだ二人のプレーヤーによる痕跡である。
小杉武久と高木元輝の共演は1980年から1999年の間で判明しているだけでも42回はある。パリやニューヨークの他、「ギャラリー・カフェ 伝」、「スペース・フー」、「すとれんじふるうつ」、「キッド・アイラック・ホール」等の小ホールやカフェに混ざって、1985年1月19日、高知市の薫的神社で行われたデュオ・コンサートがこのアルバムである。
主催者の長野陽二郎氏によると、「コンサートにはIncantantive Music というタイトルが付けられましたが、1978 年12 月に間章が逝去して、その後極端にフリーミュージックのテンション、リアリティが下降していたように思います。それはこの界隈のミュージシャン、聞き手双方にも間違い無くあったと思います。そうした状況下ではありましたが、共同主催者の戸田さんと相談して、小杉武久さんと高木元輝さんのライブを企画しました。このコンサートの意味を今思うと、何度も高知に来てもらっていたジャズからのフリーミュージシャンと本来的なリアル・フリーミュージシャンが今コラボレーションしているという興奮があったことを思い出しています。」と当時を振り返っている。
1980年代といえば、「前衛の終焉」、「ポスト・モダン」の到来という言説をよく耳にした時代である。しかし、そんな保守的状況を吹き飛ばすかのように、とてもアクティブなパフォーマンスがここでは展開されている。小杉と高木両名の詳しい足跡についてここでは述べないが、即興、特にフリーインプロビゼーションに関する先駆者であり、改革者であることは疑いのない事実であり、誰もが認めるところである。一般的なジャズのインプロビゼーションならあらかじめ全体の構造が規定され、共有されているが、このアルバムにおける小杉と高木のフリーインプロビゼーションは互いに触発されながら作動のままその都度自己言及的に境界を生成してゆく。小杉は、エレクトロニクス、ヴァイオリン、ヴォイスを使ったかなりアグレッシヴな演奏でエレクトロニクスは大きなバイクの爆音のよう。そこに高木がサックスで切り込んで来る。時にはエレクトロニクスかサックスか分からなくなるような過激な瞬間も聴ける凄みを感じさせる。いずれにしろ「非連続の連続」という厳しいまでの「無常なる時空間の原動化」、これが神社で演奏されたとは驚きと言う他はない。
東京杉並区生まれ。サウンドアーチスト&コンセプター。
ISEA電子芸術国際会議、ISCM世界音楽の日々2010、サンタフェ国際電子音楽祭、ETH-Digital Art Weeks 2008(スイス)、チリ・サンディアゴ・国際電子音楽祭 “Ai-maako2006″、Opus-medium project などで、主としてセンサーを使用したパフォーマンスや作品発表。またピアノの即興演奏、哲学や仏教の研究も行う。
最近では、「空観無為(永井清治、河合孝治、小森俊明、織田理史)」での演奏活動の他、ちゃぷちゃぷレコードの末冨健夫、アースアーチストの池田一との共同よるアルバムプロデュースやアート誌(アート・クロッシング)の編集などを行っている。