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CD/DVD Disks~No. 201

#778『Kimura sings Vol.1 Moon Call/Kimura Atsuki sings Nat King Cole』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦弥

Edoya/Boundee EDCE1008 3,000円(税込)

木村充揮 (vo)
田中信正 (p)
元岡一英 (p)
井野信義 (b)
小山彰太 (ds)
梅津和時 (reeds)
太田恵資 (vln)
高木潤一 (g)
田村夏樹 (tp)
渋谷 毅 (p)
& more

1. Smile (Violin version)
2. Unforgettable
3. Mona Lisa
4. Don’t get around much anymore
5. L-O-V-E
6. Stardust
7. Caravan
8. On the street where you live
9. It’ s only a paper moon
10. Smile (Strings version)

プロデューサー:梅津和時 & 中西充次
録音:2010年9月~2011年1月

「憂歌団」のヴォーカリスト(だった?)木村充揮の新作である。「憂歌団」はトリオレコードの「ショーボート」レーベルから1975年にデビューした大阪発のブルース・バンドで、洋楽に籍を置いていた中江昌彦(現在は、翻訳家として活躍中)が手がけていたので僕もリアルタイムでずっと彼らを聴き続けていた。これも中江が手がけるシカゴDelmarkのブルース・シリーズが注目を浴び、スリーピー・ジョン・エステスのアルバムがチャート・イン、ブルース・フェスティバルが開かれ、1976年の2回目の来日公演ではスリーピーと「憂歌団」がジョイント・ツアーを行うなど日本のブルース史上もっとも大きな盛り上がりを見せた。

久しぶりに耳にする木村の“ハスキー・ヴォイス”(キャッチ・コピーでは“天使のダミ声”。要するに、ルイ・アームストロングの声を想像していただければ当たらずといえども遠からず)は健在だった。この矛盾する表現は直接耳で確認していただくしかないが、あのハスキー・ヴォイスに“艶”さえ出ているのに驚く。それは英詩で歌われるバラードで顕著だ。<スマイル>と<アンフォゲッタブル>。乙に澄ました木村に、2曲目ではインプロでお馴染みの田村夏樹(tp)と梅津和時(cl)が端正なソロで絡む。何といってもテーマはナット・キング・コールである。その偉大なナットに襟を正していたかのような木村が豹変するのが<モナ・リサ>。ラテンのリズムと日本語の訳詞(三宅伸治)を得て木村が裃(かみしも)を脱ぐ。その後、日本語で歌う<ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニイモア>や<L-O-V-E><キャラバン><君住む街角>(ピアノ伴奏は渋谷毅!)<ペーパームーン>はまさに木村の独壇場。変幻自在の梅津のアレンジを得て見事なパフォーマンスとエンタテインメント性を満喫させる。ほとんど全編を通じてバンドを支えるアンカー役の井野信義(b)の存在も貴重。ナット・キング・コールの世界を予測させながらいつのまにか完全に木村充揮の世界に取り込まれていた楽しいひとときだった。

なお、ナット・キング・コールの世界を取り上げたアルバムには同時期にリリースされた平賀マリカの新作『モナ・リサ~トリビュート・トゥ・ナット・キング・コール』もある。
今月リリース予定の木村充揮sings第2集は「ビリー・ホリデイ」(4月7日生まれ)特集。
(初出:2011年4月5日)

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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