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CD/DVD DisksNo. 288

#2168 『高木元輝|吉沢元治/Duo&Solo〜Live at 伝 1987・1989』

text by Takeo Suetomi 末冨健夫

Nadja21/King International KKJ-9019/21(3枚組)¥6,000(税込)36頁ブックレット解説付

CD1 & CD2
高木元輝 (tenor- & soprano-saxophone) ,
吉沢元治 (bass)
CD3
吉沢元治 (bass)

CD1「Duo」 1987.7.08
1 ストーン・ブルース 35.05
Stone Blues
(Mototeru Takagi)
高木元輝 (tenor-sax)
吉沢元治 (contrabass, effectors)

CD2「Duo」 1987.7.08
1 アリラン変奏曲 26.08
Arirang Variations
(Trad. arranged by Mototeru Takagi & Motoharu Yoshizawa)
2 バレリーナ~家路 19.03
Ballerina~Going Home
(Motoharu Yoshizawa-Antonín Dvořák)
3 バラ色の人生(ラ・ヴィ・アン・ローズ) 14.27
La Vie En Rose
(Édith Piaf-Pierre Louiguy)
高木元輝 (tenor-& soprano-sax)
吉沢元治 (contrabass, effectors)

CD3「Solo」 1989.8.23
1 Solo 1989.8.23 Part1 M1 19.31
2 Solo 1989.8.23 Part1 M2 19.03
3 Solo 1989.8.23 Part2 M1 21.00
4 Solo 1989.8.23 Part2 M2 14.36
(Motoharu Yoshizawa)
吉沢元治 (contrabass, effectors)

CD1:1987年7月08日
CD2:1987年7月08日
CD3:1989年8月23日
Concerts produced by Toshio Kuwabara 桑原敏郎
Recorded at Galerie de Café 伝, Tokyo
Recording & mastering engineer: Tsutomu Suto 須藤力
Album produced by Kenny Inaoka & Toshio Kuwabara


1987年5月27日の第1回目をスタートに世田谷区経堂にあった「Galerie de Café 伝」を舞台に、写真家の桑原敏郎の主催による高木元輝のソロを基本にしたライヴが第1期、2期に分けられて1999年7月まで行われた。

Nadja 21/キングインターナショナルによって先に高木のソロだけを集めた(一部、杉本拓gとのデュオも含まれる)『Love Dance』がCD5枚組のヴォリュームでリリースされ、我々高木ファンの度肝を抜いたのだった。これに続く 『Duo&Solo』は、高木元輝と吉沢元治による2枚と1989年8月23日に行われた吉沢のソロ1枚を加えた3枚組CDとしてリリースされた。

高木と吉沢は、60年代半ばから共演を重ねており、1968年に結成された吉沢元治トリオ(高木元輝、豊住芳三郎ds)こそが日本では初のフリージャズ・グループと言われている。その後も、高柳昌行や富樫雅彦を中心にしたグループで、高木や吉沢は共に演奏を重ねて行った。1969年のアルバム『深海』は、当時の二人のデュオを収録したアルバムとして特に重要だ。本作『Duo&Solo』は、『深海』以来の二人によるデュオの記録として貴重だ。「伝」での高木のライヴは基本的には高木のソロが基本としてスタートしたが、1回目のソロのライヴを客として聴いていた吉沢の「次、高木とやるよ。」の一言で2回目にして二人のデュオが久しぶりに実現したのだった。

『深海』から18年。二人の音楽はそれぞれ進化・深化して行き、それぞれ別の道を歩んでいた。さて、そんな二人はいかに同じ時間と空間を共有したか? 高木は、この時期70年前後のヨーロッパを震撼させたあの激烈な演奏から、元々高木の中にあった歌への回帰が顕著に見られた。吉沢は、どこかのサークルに属することなく無伴奏ソロを中心とした活動を行っており、世界中を眺めても突出した個性を見せていた。このアルバムでも聴けるように、ベースにアタッチメントを取付けエフェクターを通して変換・変調された音と生の音を変幻自在に混ぜ合わせながら、世界のどこを眺めても見当たらない個性的で独創的な音楽を創造し続けていた。このCDの3枚目の吉沢のソロは、この時期の無伴奏ソロがまとまって聴ける大変貴重な録音と言える。まさに名演!

そんな二人のデュオはどんな演奏になったのか。異なって少し離れて並行して建っている螺旋階段を二人が上っている最中、少し離れたり絡み合ったりをしながら時間と空間を共有している。長い演奏の途中に高木の曲<ストーン・ブルース>の他<アリラン>、<家路>、<バラ色の人生>といったメロディーが浮かんでは消えを繰り返す。高木のサックスの音色の美しさは特筆ものだ。吉沢が加わることで演奏の空間をぐっと広げ、演奏の密度を一気に濃密にしている。吉沢のベースの演奏は過激でもあるが、高木同様の「歌」を感じさせるものだ。実際吉沢は歌が好きだった。二人の共演はその後90年代に入って、豊住芳三郎を加えた吉沢トリオの復活ライヴや、崔善培tpを加えた吉沢、高木、豊住のカルテットが韓国で演奏をしたりと続いて行った。

さて、ここからは私と吉沢さん(ここからは、さん付けで)との関りを少し書いておこうと思います。

私が防府市内の新興住宅地の一角で喫茶店café Amoresを開店したのが1989年5月のこと。一年後から店内でライヴをやり始めました。当初は地元のジャズやクラシックのアマチュア・ミュージシャン達の演奏を提供していましたが、1992年に入ってからフリー・ジャズ、フリー・ミュージックのライヴも行うようになりました。最初は、学生の頃からの知り合いだった広瀬淳二さんを呼んではライヴをやっていましたが、ある日吉沢元治さんのマネージャーから電話が入りました。私は、広瀬さんの次は吉沢さんをなんとか防府に呼びたいと思っていたので、あちらからコンタクトを取って来られたことに驚いたものです。もっと驚いたのが、一緒に防府まで行くと言われたのが、なんとブッチ・モリス!

店内ライヴを始めた早々に吉沢元治&ブッチ・モリスのライヴを実現出来たのでした。この時の演奏の素晴らしさは、いまだに肌感覚のレベルで記憶に残っています。ブッチ・モリスの東京でのコンダクション公演と、私の船の仕事の事で上京する日がぴったり同じだったので、東京での2回目のコンダクションを見る事が出来ました。ブッチ・モリスさんと金大煥さんと、新宿の焼肉屋で昼間から焼肉を三人で食べたのはいい思い出です。モリス、吉沢&金トリオのライヴをやろうと金さんと二人で直談判するも、ブッチ・モリスさんは、コンダクションがメインになっていて、コルネットを吹いていないので、演奏するとなると練習しなきゃ。と、言っていました。と、言う訳で実現はしませんでした。

その後は、吉沢さんと金大煥さん、吉沢さんとバール・フィリップスさん、吉沢さんとエヴァン・パーカーさんらとのデュオや、吉沢さんのソロを。さらに吉沢さんの紹介でジン・ヒ・キムさん、ジョージ E.ルイスさんのライヴを防府で出来ました。

吉沢さんの紹介でデレク・ベイリーさんのライヴを防府でやろうとなりましたが、「ベイリーのギャラは高いから、俺がマネージャーとして付いて行くよ。演奏はしない。」と、吉沢さんから提案がありました。しかし、ベイリーの招聘先の人が「東京ではギャラが取れないから田舎でしっかり取ろう。」と言っていたのを吉沢さんが横で聞いて、吉沢さんらしく?一気に沸点に達したようで、「デレクのライヴは中止だ!」と電話して来られ、あえなく中止になってしまいました。こっちは、そんな事は百も承知で地方でライヴをやって来ているので、残念でした。

大阪で、白桃房の公演があり、吉沢さんと金さんが出演するというので大阪まで行きました。これにはもうひとつ理由があって、吉沢さんと小杉武久さんのライヴを防府でやろうと吉沢さんと計画し、そのために小杉さんに直談判するというものでした。しかし、小杉さんにはその気は無くライヴは流れてしまいましたが、その後の私と小杉さんとのお付き合いが始まり、昨年(2021年)、CD『小杉武久&高木元輝:薫的遊無有』に形となって残りました。

やっとここで、吉沢さんと高木さんが出て来ます。崔善培さんが、韓国に吉沢さんと高木さんと豊住芳三郎さんを呼んでカルテットで演奏しようと計画し、彼らを韓国に呼び寄せたのですが、私と私のカミさんも一緒に来て欲しいと言われるのでした。二つ返事でソウルまで行きました。ライヴの会場は大きなジャズクラブのJANUS。私一人でソウルに行ったときもJANUSには行きましたが、そのJANUSが移転して立派になっていて驚いたものです。とてもフリージャズが演奏できるような雰囲気ではありませんでしたが、そこは崔さんの顔なのでしょう。客席には姜泰煥さん、金大煥さん、朴在千さん他韓国オールスターといった面々が顔を揃えていましたが、反面客席はガヤガヤとあまり聴いている感じではありませんでした。

吉沢さんは、色々なライヴ録音をカセットテープで送って来られていました。「70年以前のはダメだけど、それ以降はどの録音を出しても文句は言わない。」と言っていましたが、それだけ自身の演奏に自信があったのでしょう。その中から選んでCD化できればと思っています。

♫ 詳細は;
https://www.kinginternational.co.jp/genre/kkj-9019-21/

末冨健夫

末冨健夫(すえとみたけお) 1959年生まれ。山口県防府市在住。1989年、市内で喫茶店「カフェ・アモレス」をオープン。翌年から店内及び市内外のホール等で、内外のインプロヴァイザーを中心にライヴを企画。94年ちゃぷちゃぷレコードを立ち上げ、CD『姜泰煥』を発売。95年に閉店し、以前の仕事(貨物船の船長)に戻る。2013年に廃業。現在「ちゃぷちゃぷミュージック」でライヴの企画、子供の合唱団の運営等を、「ちゃぷちゃぷレコード」でCD/LP等の制作をしている。リトアニア NoBusiness Recordsと提携、当時の記録を中心としたChapChap seriesをスタート、第1期10タイトルに続き、今秋から第2期がスタートする。

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