#2285『featuring Lee Ritenour / Sugar Loaf Express』
『リー・リトナー/シュガー・ローフ・エクスプレス』
text by Tomoyuki Kubo 久保智之
ビクターエンターテイメント
NCS-77003
Lee Ritenour (g)
Eric Gale (g)
Patrice Rushen (key)
Abraham Laboriel (b)
Harvey Mason (ds)
Steve Forman (perc)
1. Sugar Loaf Express
2. Morning Glory
3. That’s The Way Of The World
4. Slippin’ In The Back Door
5. Tomorrow
6. Lady Soul
Producer : Toshi Endo
リー・リトナーが1977年〜1983年にリリースしてきたダイレクト・レコーディング・シリーズ5枚が、このたび最新リマスタリング/UHQCD化されて再リリースされた。そのうちの1枚。
リー・リトナーの「ダイレクト・カッティング」シリーズの第2弾。1977年の作品である。
本アルバムには、激しい高速ユニゾン曲などはなく、手に汗を握るようなスリリングな曲は収録されていない。前作『ジェントル・ソウツ』のような、アルバム全体に漂う緊張感はあまり感じられず、リラックスした雰囲気のアルバムとなっている。『ジェントル・ソウツ』は「一発録りでもミスをしない各メンバーの演奏の上手さ」を前面に出していたようなところもあったが、本作品はそれとは違い、どちらかというと演奏ミスの起きにくい曲を集めたような印象を受ける。「ライブ演奏によるミュージシャン同士のインタープレイ」に重点をおいた作品といったところなのだろうか。
本作品の一番の特徴は、エリック・ゲイル (g)の参加と言えるだろうが、このメンバーによるセッションでのエリック・ゲイルの参加というのがとても不思議だ。リー・リトナーの一連の「ダイレクト・カッティング」シリーズに関わっているリー・リトナーを始めとしたデイブ・グルーシンやハーヴィー・メイソンなどは、本作品の前にエリック・ゲイルと一緒に演奏をしたということは無いように思われる。本アルバム・リリース後も共演している印象は薄い。このアルバムの演奏メンバーがなぜこの組み合わせになったのかはとても不思議だが、リー・リトナーを始めとしたこの各メンバーとエリック・ゲイルの共演はこの後もあまり残されていないため、本作品はとても貴重な記録とも言えるだろう。
エリック・ゲイルは、フル・アコースティック・タイプのエレクトリック・ギターに少しフェイザーをかけたような、トレード・マークといえるようないつものサウンドで参加している。リー・リトナーはそのエリック・ゲイルらしいゆったりとしたギターサウンドを支えとするかのようにしながら、ディストーション・サウンドやボトルネック奏法、ボリューム奏法など、様々なスタイルのギターサウンドを聴かせてくれる。エリック・ゲイルの演奏にも唯一無二感があるが、その揺るぎのなさによってあらためてリー・リトナーの器用さなどのユニークな側面が感じられるようになっているようにも思える。二人のギターの対比はとても面白い。
本アルバムは、「ダイレクト・カッティング」とうたいながらも、アナログ・レコード片面分の曲が繋がっているようには聴こえない。また、A面ラストにあたる3曲めやB面ラストにあたる6曲めもフェードアウトで曲が終わるなど、「ダイレクト・カッティングっぽさ」も少ない。各曲も比較的ゆったりとした展開が多いこともあり、『ジェントル・ソウツ』を聴き終わったあとのような「スリリングなライブ演奏が終わった後の充実感・達成感」のようなものは味わいにくい。しかし、例えば〈Sugar Loaf Express〉では、エリック・ゲイルのギターソロのフレーズに呼応するパトリース・ラッシェンのピアノのバッキングなど、各ミュージシャンが呼応しながらまとまっていく様子があちらこちらに感じられる。「ダイレクト・カッティング」の生み出す緊張感は、各メンバーのインタープレイにもとても大きな影響を与えるようだ。そうしたメンバー同士のひとつひとつのやりとりも編集なしに克明に記録されている、とても貴重な作品だ。
今回の「リー・リトナー ビクター・イヤーズ」(ダイレクト・レコーディング・シリーズ)の各作品は次のとおり。