#2299 『サラ(ドットエス)、大友良英、磯端伸一 / ヒューマンカインド』
『sara (.es), Otomo Yoshihide, Shin’ichi Isohata / HUMANKIND』
text by Kazue Yokoi 横井一江
Nomart Editions NOMART-126
sara (.es) (piano, percussion)
大友良英 Otomo Yoshihide (guitar)
磯端伸一 Shin’ichi Isohata (guitar)
HUMANKIND #1 Otomo Yoshihide& Shin’ichi Isohata
HUMANKIND #2 sara (.es)& Otomo Yoshihide
HUMANKIND #3 sara (.es), Otomo Yoshihide, Shin’ichi Isohata
Recorded live at Gallery Nomart in Osaka on 30 June 2023 during group exhibition HUMANKIND
ギャラリーノマルのグループ展 “HUMANKIND” 会場でのライブ・レコーディング
Art direction and production: 林聡 Satoshi Hayashi
Cover art: 今村源 Hajime Imamura “遅れるものの行方ーグリッド”(detail), 2023
Recording and masterring: 宇都宮泰 Yasushi Utsunomia
Liner notes: 西村紗知 Sachi Nishimura
Translation: クリストファー・スティヴンズ Christopher Stephens
Design: 冨安彩梨咲 Arisa Tomiyasu
最初のトラックは大友良英と磯端伸一のギター・デュオ。一音一音積み重ねるように二人は音を発する。空間に放たれた音、その響きは通常の録音とも日常的に接するライヴとも違う。まるで見知らぬ空間でひとり、その音響に包まれているような錯覚を受ける。微音からノイジーなサウンドまで、それぞれが探求してきた多彩な手法でギターを鳴らし、サウンドを構築していく。そこに二人の音楽的な志向や経験が見え隠れするようだ。とはいえ、その音からどのように音を発しているのか、想像のつく時もつかない時もある。それはそれでいいのだろう。微細な表現からノイジーな音まで有機的なサウンドが創り出す変化する音響空間に浸るのみ。続く大友とsara (.es) のデュオは、今回が初めての共演ということだが、相性の良さを感じた。sara (.es)が弾くアップライト・ピアノは音色がよく、特殊奏法や小物類も用いることで演奏のバリエーションが広がる。スピード感と変化に富んだサウンドによる二人の交歓を楽しんだ。最後の3人による短いトラックは、アンコールなのか、どこか明るくCDを締めくくるのに相応しい。
しかし、このような録音を他に聴いた記憶がない。解像度の高い音とはこういう音を言うのだろう。ただ解像度が高いだけでない。音のバランスもまた絶妙、録音からマスタリングまでの一貫した作業で音楽表現に合った音像を創り出している。空間的に音を捉えているので、どのような指向性のマイクを使っているのだろうとシロオトの私も気になってしまうくらいだ。Utsunomiya MIXと明示されているが、鬼才と言われる宇都宮泰の仕事ぶりに驚かされた。これまで私はライヴ録音をドキュメントとして聴くことが多かったが本作は違う。ライヴ録音ではあるが、単にライヴを記録したものではない。録音自体はマテリアルであり、そこから宇都宮の仕事を経て創られた「作品」だ。もちろん、ミュージシャンの演奏が主体にあるが、即興音楽のクォリティの高さを際立たせているのも、宇都宮の存在があってこそ。彼もまた音楽創造の一端を担っている。本作は、場を作ったギャラリーノマル、演奏したミュージシャン、宇都宮泰による録音・マスタリング、それらの協働によって創られた作品と言っていい。