#2301『ウェス・モンゴメリー&ザ・ウィントン・ケリー・トリオ/未発表1965ハーフノート・レコーディングス』
『Wes Montgomery & The Wynton Kelly Trio / Maximum Swing: The Unissued 1965 Half Note Recordings』
text by Masahiro Takahashi 高橋正廣
『Wes Montgomery & The Wynton Kelly Trio /Maximum Swing:
The Unissued 1965 Half Note Recordings』
(CD 1)
1. Laura (D. Raksin, J. Mercer) 6:57
2. Cariba (W. Montgomery) 8:47
3. Blues (W. Montgomery) 3:19)
Paul Chambers, bass
Recorded live at the Half Note, September 24, 1965
4. Impressions (J. Coltrane) 6:04
5. Mi Cosa (W. Montgomery) 3:33
6. No Blues (M. Davis) 5:39
Ron Carter, bass
Recorded live at the Half Note, November 5, 1965
7. Birk’s Works (D. Gillespie) 5:56
8. Four On Six (W. Montgomery) 8:25
9. The Theme (M. Davis) 1:34
Larry Ridley, bass
Recorded live at the Half Note, November 12, 1965
(CD 2)
1. All The Things You Are (J. Kern, O. Hammerstein ll) 6:41
2. I Remember You (V. Schertzinger, J. Mercer) 7:11
3. No Blues (M. Davis) 2:44
Herman Wright, bass
Recorded live at the Half Note, November 19, 1965
4. Cheroke (R. Noble) 10:39
5. The Song Is You (J. Kern, O. Hammerstein ll) 16:18
6. Four On Six (W. Montgomery) 10:45
7. Star Eyes (D. Raye, G. De Paul) 15:31
8. Oh, You Crazy Moon (J. Van Heusen, J. Burke) 4:27
Arthur Harper, bass
Recorded live at the Half Note, Late 1965
Wes Montgomery (guitar)
Wynton Kelly (piano)
Jimmy Cobb (drums)
*Bass players are identified for each set
Recorded live at the Half Note, September & November, 1965
Half Note の夜は熱く
text by Masahiro Takahashi 高橋正廣
モダンジャズの黄金時代をいつからいつまでと定義することはナンセンスな作業に違いない。なぜならそれぞれの時代に生きたジャズ・ミュージシャン達が最も輝いていたシーンは当然みな異なっている訳で、リスナーにとって愛すべきミュージシャンがみな異なる以上、黄金時代の持つ意味はそれぞれ異なって来るからに他ならないからだ。
その一方で1930年代末から興ったビ・パップこそは正に革命的なムーヴメントであり、その根源的な精神は21世紀も中盤に差し掛かろうかという今日でさえも輝きを失っていないことは特筆すべき重大事だろう。あらゆるジャズ・ムーヴメントの底流にバップ・イディオムがありパッションとスリルの根源であることは疑いのないところだ。そしてそのパッションとスリルをミュージシャンとリスナーの交感という舞台装置の中で最もヴィヴィッドにかつ高い親和性で表現しているのがハードバップというメソッドなのだ。
そしてハードバップ期の重要なギタリストの一人にウェス・モンゴメリーがいる。1931年インディアナポリス生れのウェスはモンゴメリー兄弟の三男、次男のモンクはベース奏者、四男のバディはヴァイブ/ ピアノ奏者。ウェス自身は20歳の頃、ジャズギターの創始者とされるチャーリー・クリスチャンの奏法を独学で身に付ける。ピックを使用せず親指でピッキングを行うという独自のスタイルでその音色の温かさ、柔らかさが特徴とされる。そしてもう一つのウェスの用いるギターテクニックにオクターブ奏法があることはファンなら先刻ご承知。しかしウェスの最大の特徴はウェスに内在する天性のグルーヴ感がもたらすドライヴ感であり、たっぷりのシングル・ノートが繰り出すスイングであり、ブルース・フィーリングであることを忘れてはならない。事実、ウェス以降に登場したモダンギターの多くはウェスのシングル・ノートの影響を受けているのだから。
さて本作品について触れる前に、ウェスのレコーディング・ヒストリーに目を転じてみよう。レコーディング・デビューは1949年ライオネル・ハンプトン楽団在籍時のDecca盤が正式でウェス25歳の遅咲きデビュー。ウェスが3兄弟によるモンゴメリー・ブラザースとしてアルバムを残したのは1955年のColumbia盤が最初で、以後Resonanceレコードによる発掘盤を除けばPacific Jazzレコードに記録した4枚のアルバムがある。その後ウェスはRiversideレーベルに移籍して彼の絶頂期を捉えた決定的名盤「Full House」他の名作を残している。1964に入りウェスはVerveレーベルに移るとジョニー・ペイトやドン・セベスキー、オリヴァー・ネルソン、クラウス・オガーマンのオーケストラをバックにしたワンマン・スタイルのアルバムが多く見られるようになる。(「Movin’ Wes」「Bumpin’」「Willow Weep For Me」「Goin’ Out Of My Head」「Tequilla」「California Dreamin’」これらの諸作は後にウェスがCTIレーベル移籍後に記録した「A Day In The Life」以降の3部作の大ヒットにつながる先駆的作品群だ)
そんな中でハードバップのファーストコール・ピアニストのウィントン・ケリーのトリオをバックにして生まれたウェスの傑作がVerveきっての名盤「Smokin’ At The Half Note」ということになる。本盤はその一連のセッションであることから、レヴューをするにあたって久し振りに「Smokin’ ~」を聴き直してみた。これはハーフノートでのライヴ・セッションは1965年6月24日の録音でLPのA面にあたる2曲のみ。B面はそれから3ヶ月後にルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオで録音された3曲で構成されるので、正確に比較するとすればA面2曲ということになる。特に1曲目マイルス作の「No Blues」はウェスはギターテクニックの粋を余すところなく披露する一方、ケリーのピアノもたっぷりブルージーなソロ・スペースが与えられている。短いながらチェンバースのソロもフィーチャーされる。2曲目のタッド・ダメロン作のバラッド「If You Could See Me Now」ではケリーの端正でリリカルなソロにウェスのギターがフィルインして盛上がる展開でよく纏まった印象。流石に名プロデューサー、クリード・テイラーらしい配慮が感じられる完成度の高さだし、ライヴ録音ながらヴィヴィッドな音質の良さもVerve正規盤らしい。
さて本作品「Maximum Swing: The Unissued 1965 Half Note Recordings」は名盤「Smokin’ ~」のスタジオ・セッションの1965年9月22日から僅か2日後のハーフノート出演を捉えたP.チェンバース参加の3曲で始まる。そこから同年末までの幾つかのセッションを網羅した本作品はHalf Noteセッションの集大成版といってよいだろう。店内の喧騒をよそに、ウェスは自身の”グルーヴヤード”でW.ケリー、J.コブというハードバップ・マスター2人をコア・パートナーに、熱く燃焼してゆくウェス・モンゴメリーという稀代の表現者のドキュメントとして鑑賞したい。
Disc 1
01. <Laura>。言わずと知れた天下の名曲で映画「ローラ殺人事件」の主題曲。たっぷりとしたスローテンポで曲のエッセンスを紡いでゆくウェス。シンプルなソロラインにウェスならではのテクニックをさり気なく乗せてゆく。
02. <Cariba>。ウェスのオリジナル。アーシーなテーマからジャズギターならではのグルーヴ感に酔わさせる1曲。ヒギンズの素人っぽい叩き方が逆にウェスを煽っているのだろう、次第にウェスのギターが熱を帯びて来る。
03. <Blues>。続いてウェスの自作。MCのアナウンスに被って演奏が始まる。このセットのラストナンバーなのだろうか、3分余の短い演奏。ここでようやくケリーのピアノが聴こえて来る。チェンバースはリズムに徹していてこのセットではソロを取らない。
04. <Impressions>。J.コルトレーンの代表曲のひとつでここから3曲はR.カーターがベースに坐る。ウェスは1961年のモンタレイ・ジャズフェスでE.ドルフィー入りのコルトレーン五重奏団に客演しているのでこの曲を演奏したのかもしれない。MCがマイルスの「So What」と曲紹介をしているのもご愛敬だが、ウェスはイントロからギンギンに飛ばしていてエモーショナルなフレーズを連発する、疾走感のあるスリリングな演奏だ。
05. <Mi Cosa>。ウェスのオリジナル。エキゾチックな美旋律をウェスは独りで情感たっぷりに弾き切る”箸休め”的な1曲だが、ウェスのロマンチストの一面に魅せられる。
06. <No Blues>。マイルス作。タテ乗りのヒギンズのドラムの心地良さがウェスのブルース・スピリットを刺激したのだろう、その独自のテクニックと共にグルーヴィ―なウェスの魅力が溢れているナンバーだ。MCがこのセットのクロージング曲と告げている。
07. <Birk’s Works>。D.ガレスピー作。ここからベースがL.リドレイのセットに代る。ジャズナンバーとして魅力的な旋律のこの曲、ウェスのブルージーな表現が光っている。マイク・アレンジが変わったのだろう、各楽器の音がヴィヴィッドに捉えられている。
08. <Four On Six>。自作曲だけあってウェスの入れ込みようが違っているように聴こえる。ストレートアヘッドなジャズギターの見本と言っても良い、エモーショナルな演奏で絶好調のウェスの推進力が見事に発揮されている。ライヴならではの粗っぽさも逆に魅力的なのだ。
09. <The Theme>。このセットのクロージング・テーマはマイルスの曲でMCのアナウンスがメインなのでクラブの雰囲気に浸ってエンディングとなる。
Disc 2
01. <All The Things You Are>。ジェローム・カーンの名作で始まるこのセットのベースはハーマン・ライトが務めているが、基本、ウェスの”ワンマンショー”なのでベーシストの違いを探るような聴き方は馴染まない。よく聴けばケリーのバッキングも見事なのだが、2人のインタープレイによる化学反応を期待するよりはヒギンズの”ドタバタ”ドラムに注目する方が良いだろう1曲。
02. <I Remember You>。ラヴソングの名曲をウェスは淡々と綴ってゆく。ソロもクラブのライヴとしては抑え目でスタンダード弾きの矜持を感じさせる点が流石でオクターヴ奏法もたっぷりと披露している。
03. <No Blues>。このセットのクロージングはやはりマイルスの曲。
04. <Cheroke>。レイ・ノーブル作でビパップ時代にスタンダードとして定着した。ここからベースはウェスとの共演歴豊富なアーサー・ハーパーに代わる。ケリー、ヒギンズと固定したリズムの果たす役割が大きかったのだろう、ウェスはこのHalf Note出演時期を通じてその高いパフォーマンスが維持されている点がこのドキュメントで明らか。このラストセットでようやくケリーのソロパートとなって、彼独特の跳ねるような切れの良いハードバップ・ピアノが聴かれるのでケリー・ファンにはお持ちかねというところだ。
05. <The Song Is You>。ジェローム・カーン作。ケリーのピアノが大きくフィーチャーされ、彼のハードバッパーとしての魅力が爆発する。クラブのライヴならではの16分超という長尺の演奏はウェスの自由奔放とも言える程のギターソロと妙技が余すところなく収められていてウェス・ファンには聴き逃せない。何しろウェスの熱量の高まりが圧巻なのだ。ケリー、ハーパー、ヒギンズにもしっかり出番が用意されている。
06. <Four On Six>。CD1の8曲目の再演だが、ウェスを代表するオリジナル曲だけに各セットで演奏されていたに違いない。伸び伸びとしたウェスのギターワークがここでも魅力的なフレーズを紡いでゆく。こちらの演奏の方が4人が一体となった混沌とした魅力が詰っているように感じるのはケリー以下の好演も寄与しているのだろう。
07. <Star Eyes>。C.パーカーの名演で知られるスタンダード。ウェスはここでも15分超の長尺を聴かせる。ラジオ放送用に録音されたプライベート・テープのため、時間の制約を意識せずに演奏したのだろう。テクニックとスリリングなフレーズの粋を尽くしたウェスのプレイが圧倒的だ。続くケリー節もファンには泣かせる。事実ケリーはこの後次第に往年の輝きを失っていくのだから。
08. <Oh, You Crazy Moon>。ジミー.V.ヒューゼン作のスロー・バラッド。Half Noteの客の喧騒から始まったこの一連のライヴは再び客らの喧騒の中へと消えてゆくエンディングを迎える。
※CD2の4曲目以降のベーシストはライナーノートにはL.リドレイと表記されているが、筆者の調べた限りではA.ハーパーと思われるため、当レビューではハーパーとして紹介していることをお断りしておく。
ウェス・モンゴメリーというジャズギター界の巨人の圧倒的な存在感を示すライヴ・パフォーマンスは、これまでVerve盤を始め複数のレーベルに分散してしか残されていなかった訳で、今日このような完全な形で巨人ウェスの全貌を聴くことができるのは奇跡的だろう。このアルバムを機にグルーヴ・マスターとしてのウェスの凄さがファンに再認識され、彼のアルバム群に再び光が当たることを願わずにはいられない。