JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 13,626 回

CD/DVD DisksJazz Right NowNo. 313

#2314『サム・ニューサム&マックス・ジョンソン / Tubes』

Text by Akira Saito 齊藤聡

Unbroken Sounds U07

https://maxjohnson.bandcamp.com/album/tubes

Sam Newsome (soprano saxophone, horn preparations, toys)
Max Johnson (double bass)

1. Dust
2. Strangled Duck
3. Grizzly Bear
4. Four Portraits
5. Blue Monk
6. Tubes & Keys
7. Helicopter Exit

Recorded at Conveyor by Jason Borisoff on March 18, 2023
Mixed and Mastered by Max Johnson
Photo by Peter Gannushkin
Design by David Mirarchi
All music by Max Johnson (Max Johnson Music ASCAP and Sam Newsome (Some New Music BMI), except “Blue Monk” by Thelonious Monk

マックス・ジョンソンというベーシストは、共演者と作り上げようとするサウンドに最適なようプレイする人である。それがかれの美学であり矜持である。だから、主力として参加したアルバムはストレートアヘッドなジャズからアヴァンギャルドまで幅広い。本盤はどちらかといえば後者の性質をもつものだが、コントラバスという楽器の特性を活かしきり、落ち着いた場所からじっくりとサム・ニューサムとの対話を繰り広げるという点では、実験的なサウンドにはとどまらない。

スタンダード曲はこのようなときに試金石として使われることが多い。唯一オリジナルでない<Blue Monk>はセロニアス・モンクの有名な曲であり、無数のジャズミュージシャンたちによって演奏されてきたにもかかわらず、じつに新鮮だ。ニューサムはときに朗々と管を共鳴させ、そんなときにジョンソンが眼前の音を大きく包み込む。ジャズのアドリブ・フレーズという観点からも、楽器の音色という観点からも、ニューサムの音はみずみずしく、確信をもって吹いているように感じられる。

他のふたりのオリジナル曲となると、かれらはサウンドの周縁域に移動する。サックスもコントラバスも出すことのできる限界あたりの音を、みごとに制御して提示してみせる。そのときも独立的に極端なプレイをするのではなく、ずっとコミュニケーションを伴っている。したがって、その時点の音だけを取ってみれば特異なものであっても、不自然さのまったくない音風景がゆるやかに遷移する。

ソプラノサックスとコントラバスのデュオはさほど多くないが、本盤は他のミュージシャンたちも触発しうるほどの作品にちがいない。日本のシーンでも広く共有され聴かれてほしい。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください