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Concerts/Live ShowsNo. 324

#1358 大友良英 沼尾翔子 磯端伸一 鈴木彩文 at hako gallery

text: 西村紗知
photo: Kenny I.

2025-03-28(Fri)
Start : 20:00 PM
代々木上原・hako gallery

大友良英 Yoshihide Otomo – guitar
沼尾翔子 Shoko Numao – voice, guitar
磯端伸一 Shin’ichi Isohata – guitar
鈴木彩文 Ayami Suzuki – voice/electronics


ライブ会場のhako galleryに訪れるのは初めてだった。代々木上原駅から通り沿いに歩いたところにある会場の建物は、瀟洒な隠れ家の趣があり、夜だったこともありうっかり通り過ぎてしまいそうになるほど密やかな佇まいだ。2階に上がって着席したのち、20時をほんの少し過ぎてからセッションが始まった。

この日はデュオセッションのライブだった。セッションはそれぞれ20~25分ほど。沼尾と鈴木が、大友、磯端とそれぞれデュオセッションを行う。若手である彼女らの実直な発音の数々、とりわけ時に気ままな声の動きを、ベテラン2人がそれぞれの仕方で受け止めて、音響としてまとめ上げたり、展開を加えていったりする。もちろん飽くまで演奏者同士は忌憚なく音を発し合うのであるが、全体としては、それぞれのセッションにそのような役割分担があったように感じた。

まずは沼尾・磯端のデュオ。沼尾の自作曲の歌唱に、磯端がギターでコードを鳴らして応じるアンサンブルから始まる。これは単に歌と伴奏の関係にあるのではなかった。印象らしいものを述べるならば、それぞれが発する音の点描の、その滲みが堆積して独自の色合いが表れてくるような、そういう感じである。それから、磯端がギターの弦を弓で鳴らして持続音を鳴らし、そこに沼尾がアコースティックギターで訥々と彩を添えたり、沼尾がヴォカリーズで声を伸ばして、磯端の鳴らす持続音ににじり寄るような展開もあった。

次は大友・鈴木のデュオ。鈴木の声は、エレクトロニクスでつくる弱音の持続音と不可分に混ざり合い、神秘的なオーラを纏っている。大友のギターの1弦には銀色のクリップが挟んであり、これはD音に近いピッチで金属的な響きをもつ。繰り返し鳴らされるこの音の、きわめて物質らしいニュアンスが、鈴木の声に備わるおよそ物質とはかけ離れた幽香のような性格と、対比をなしていた。

休憩を挟んでから別の組み合わせで。磯端・鈴木のデュオでは、鈴木のポルタメントを含む声の動きに、磯端がぽつりぽつりと点描を鳴らしていく。動きそのものの対比を楽しく聴かせていくようなアンサンブルだ。大友・沼尾デュオで印象的だったのは、大友が手笛で鳥の鳴き声のような音を発したり、沼尾のロングトーンの声が震えるようだったりして、逸脱するような動きの音が多かったことだ。大友がU字型の金具を押し当てるようにしてギターを弾いて金属的なノイズを含む音を鳴らしたところ、沼尾が遊ぶようなスキャットを重ねていったりして、こちらも楽しいアンサンブルだった。

大友・磯端のデュオセッションもあった。ともに高柳昌行の門下生である2人。門下生時代の思い出話ののちに、おもむろに始めたのはブルースのセッションだった。リズムギターを大友が担当し、磯端はギターの弦を弓で弾くなどして、のびやかなフレーズを重ねていった。このセッションが終わったのち、大友が、こんなところでブルースなんて、としきりに居心地の悪そうな仕草をしていたことも含めて、印象に残る演奏だった。

最後は4人全員のセッションで締めくくられた。ドローンを重ね合うようなアンサンブルで、ふんわりとした響きが会場を包み込んでいった。

磯端x大友
磯端x 沼尾x大友x鈴木


西村紗知 にしむら さち
1990年鳥取県生まれ。批評家。音楽批評ウェブマガジン『メルキュール・デザール』同人。すばるクリティーク賞受賞作「椎名林檎における母性の問題」。受賞第一作「グレン・グールドに一番近い場所」。ちえうみPLUSにて「新しい典礼」を隔月連載中。
https://chieumiplus.com/tags/atarashiitenrei

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