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Concerts/Live ShowsLive Evil 稲岡邦弥No. 221

#20 Norwegian cool jazz trio +one

 

2016年8月24日 赤坂・B♭
text and photo by Kenny Inaoka 稲岡邦弥

Krisoffer Eikrem クリストファー・エイクラム (tp)
Kjetil Jerve シェティル・イェルヴェ(p)
Erlend Albertsen アーレンド・アルベルトセン (b)
+ Jimmy Halperin ジミー・ハルペリン(ts)
Takashii Itani 井谷享志 (ds)

1st Set
Bb Jam (K.Eikram)
My Melancholy Baby (E. Burnett/G. A. Norton)
April (L.Tristano)
Subconcisou-Lee (L.Konitz)
Cycle Logical (J.Halperin)
Body and Soul (J.Green/E.Heyman,R.Sour & F.Eyton)
Variation over All the Things You Are (L.Tristano)

 

台風が去来する中、不順な天候にもかかわらず客足は悪くない。入り口のサインボードに「No Charge Day」、つまり、ミュージック・チャージは不要、飲食分だけ負担の書き込みがあるが、理由はそれだけではないようだ。外人客も多く見受けられる。赤坂・B♭では月に1、2夜、ニューフェースを対象に「No Charge Day」を設けているという。新しいミュージシャンや新しい音楽に積極的に触れてもらう機会を増やしたいとのオーナーの心遣いである。

当夜はノルウェーからの3人にNYのテナーサックス奏者ジミー・ハルペリンが加わり、さらにゲストとしてドラムとパーカッションの井谷享志(イタニ・タカシ)が参加したが、コアはクリストファー(tp)とMCも担当するシェティル(p) のふたり。このふたりは15歳で出会ってからの長い付き合い、音楽学校も同窓同期、ふとしたきっかけでレニー・トリスターノにのめりこむ。NYで活躍するトリスターノの最後の弟子ジミー・ハルペリンに共演を申し込んだという次第。ベースのアーレンド・アルベルトセンは、シュティルとレーベル「dugnad rec」を共同主宰する仲間。ドラムの井谷享志は今まで聴く機会がなかったが、海外でも活躍しており、クール派の隠れた重鎮テッド・ブラウン来日の際には手合わせの経験ありという。

1stセットはコアのデュオから。トランペットのエイクラムの楽曲のようだが主従の分担はなく、気心の知れた友達のおしゃべりのようにふたりが淀みなく語り合う。拍手を伴ってジミーが登場、スローバラードで<マイ・メランコリー・ベイビー>のテーマからソロに。この曲はクール派のファイヴァリットで、ビル・エヴァンス、ウォーン・マーシュ(ts)、リー・コニッツ(as)、ジミー・ギャリソン(b)、ポール・モチアン(ds) の『Live at the Half Note』(Verve 1959) 演奏がリファレンスになっている。tp-p-bとソロが回されるが、ジミーの記念すべき日本第一声で息の長いメロディラインとソフィスティケイトされた音の佇まいはまさにクール派の面目躍如だ。続く<アイル・リメンバー・エイプリル>を下敷きにしたトリスターノの<エイプリル>は有名なヴァージョンで多くの奏者が挑戦している。YouTubeで確認できるアンソニー・ブラクストンのヴァージョンは限界に挑むような超高速。当夜もかなりのテンポで知らず知らずジミーの複雑なフィンガリングに目が行ってしまう。ドラムスの井谷享志が加わり2管のクインテットで4曲。井谷は曲によりブラシやマレット、ハンドドラムを使い分け曲の表情をよく掴んだセンジティヴなドラミングで好演だった。<サブコンシャス・リー>は、リー・コニッツの代表曲。ジミーのオリジナル<サイクル・ロジカル>は文字通り、短いテーマが形を変えながら繰り返される曲で、クール派ならではの考え抜かれた曲調。<ボディ・アンド・ソウル>もクール派に好まれるバラード。当夜はこれ以上テンポが落ちると壊れると思われる限界に挑むような超スロー。手に汗握るようなタイトロープもまた楽しき哉というところ。薄氷を踏むスリリングな展開のなかから生まれる妖しげな例えようもない艶かしさ...最後はテンポを上げて<オール・ザ・シングス・ユー・アー>のトリスターノ・ヴァージョン。これまた、レニー独特の複雑な節回しをこなすジミーの長い息遣いとフィンガリングに注目。

天候の懸念もあり1stセットでB♭を後にしたが、この時代に東京の赤坂でノルウェーの若い世代が牽引するクール派ジャズを堪能できるとは夢にも思わなかった。音楽的にはヴェテランのジミー・ハルペリンが場を支配したが、そのジミーを担ぎ出したのはノルウェーの若手ミュージシャンだ。ジミーの相手をするには相応のテクニックと知識が必要だが、彼らはジミーが思う存分プレゼンテーションできる場を作った。NYに出かけ、ジミーのみならず、先達ウォーン・マーシュともレコーディングの体験を積んだ。信ずる道を突き進む行動力は見上げたものだ。ノルウェーは人口500万強の小国である。しかし、音楽的には間違いなく大国だ。ECMのマンフレート・アイヒャーがあれだけ掘り尽くしてもまだまだ人材は尽きない。尽きないのは当然だ。徹底した個性教育で次から次へ新たな人材が生まれてくるからだ。

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稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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