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Concerts/Live ShowsNo. 323

#1354 U9~高橋悠治×内橋和久

2025年2月24日 渋谷クラシックス

text &phot0: Taro Tateishi 立石太郎

 

U9:
高橋悠治 (ピアノ)
内橋和久 (ギター、ダクソフォン)

 

「眩暈がするような点描画の洪水」

「この2人、恐ろしいほど進化してる!!」
「眩暈がするような点描画の洪水が次々に脳裏に浮かびまくる!!」
開始早々にそう強く感じた。期待を遥かに超えた素晴らしい演奏だった!

共演としては3年ぶり、自分が以前観た時からは10年以上か?
高橋悠治、内橋和久の即興Duo「U9」。
そもそも去年末の演奏予定が高橋の風邪で延びたこともあり、会場のクラシックスは開演前に長蛇の列。

個人的に今回どうしてもやりたいことがあった。
ファースト・セットは 内橋のすぐ近く、そしてセカンド・セットは高橋のすぐ近くに位置し、お互いの音にそれぞれがどう反応するのかを眼前で確認したかったのだ。

さて、会場はほぼ満員だったが見事に自分の願い通りに着席。

ファースト・セット冒頭から内橋のエレキギターは浮遊感ある短い電子音を連発!高橋のピアノが即座に連打で応じる。内橋がロングトーンを奏でると、微妙に和音をずらしていく。
それにしても内橋のギターの音色、フレーズのバリエーションは底無しだ。ディレイやワウを駆使しながら素早く音の表情を変えてゆく。
それに対して、高橋のピアノは常に冷静。
高橋の力量、創造力を持ってすれば、あっという間に聞くものをうっとりさせる甘いメロディーを紡ぎ出したり、更には泣かせることも容易に出来るのに決してその方向には流れない。

一瞬、「もし今日の内橋の相手が佐藤允彦のピアノだったら、ここらでここぞとばかりに盛り上げ、感動させてくれるのに」と考えたりもしたが、安易な音、安全な音は一音たりとも奏でないという強い意志すら感じる高橋のピアノと内橋の音を浴びているうちに、脳裏に何枚も何枚も眩暈がするような色彩が浮かんできた。
「ああ、これはめくるめく点描画を楽しむべき演奏なんだ!」 腑に落ちた瞬間、俄然、面白くなった!それとともに冷静な音の連続と聞こえていた高橋のピアノが途方もなく美しいものとなった。非常に優れた奏者の音は、演出をせずとも聞くものの心を大きく揺さぶることが出来ることを久々に確認した。いったい眼前、脳裏に何枚の点描画があらわれたことか?

さて、内橋の演奏は折りに触れ、30年近く観ているが、今が一番面白い!
今回の高橋との「U9」もだいぶ間を置きつつも3回ほど観ている。
以前は内橋との演奏時にラップトップも操っていた高橋だが、今の内橋が高橋の予想を超えた音色とフレーズを限りなく繰り出してくるので、ピアノ一本に絞ることにしたのではと感じる。
そしてその演奏は、即興ピアニストとしての凄みを存分に感じさせるものだ。

ファースト・セット、内橋側から2人の演奏を観ていて、最初はこの2人の演奏は五分五分に見えたのだが、だんだんと内橋が高橋に刺激を与えている部分が多分にあるのではと感じてきた。
その思いはセカンド・セット、まさに高橋の背中に被さるような超真後ろに移動したときに確信に変わった。
高橋は 演奏中は内橋をほとんど見ない。
ただひたすらピアノの鍵盤に向かい、そしてひたすら耳と全身を澄まし、内橋の繰り出す音に返答していくのだ。

セカンド・セットでの内橋の演奏は、内橋の盟友ギタリスト、ハンス・ライヒュルの発明したキテレツかつ美術工芸品並みに美しい楽器ダクソフォンの比重が増え、様々な形のペーパーナイフのようなダクソフォンを素早く差し替え、弓で擦ったり、マレットで叩くことにより、100%人の声としか聞こえない音をはじめ、信じられないような音色万博博覧会を繰り広げるのだが、それに反応する高橋のピアノの響きは時に面妖であり、時に音の1粒1粒が宝石のように美しい!

内橋のダクソフォンが大活躍し、その音に反応する高橋が更に様々な音を弾き出し、ファースト・セットにも増して脳内点描画洪水となったセカンド・セットが個人的にはより素晴らしく感じた。
泣く子も黙る超巨匠の高橋だが、繰り返すが内橋との演奏に刺激を受け、面白くてたまらず、高橋自身の音、表現も内橋との共演によって拡大された部分が多分にあるのではないか。
もちろん内橋も高橋との共演で得るものは相当大きいだろう。
とにかくこの2人、次の共演が楽しみで楽しみでたまらない。

ひとつ、残念でならなかったのが、観客の年齢層がやけに高かったこと。
内橋のファンや、クラシック・ピアニストとしての高橋のファンも大勢いたのだと思うが、今日ここで鳴った音は、同時期来日していたフローティング・ポインツや、遂に宇多田ヒカルのリミックスを行うArcaなどと同一線上に鳴らされるべき音である。
10代20代の若者に体験してワクワクしてもらいたいという思いが猛烈に沸いた。

この「U9 」、今後はテクノ音響イベントなどに登場し、ぜひ若者たちを虜にしてほしい。
そんなことを想像しながら、頬がゆるみっぱなしで帰宅した。

高橋悠治 (たかはしゆうじ、1938年~)
ピアノ、作曲。
ヤニス・クセナキス等に学ぶ。
1963-66年フランス、ドイツで現代音楽のピアニストとして活動、1966-71年アメリカで演奏活動とコンピュータ音楽の研究。
1972年帰国、武満徹らと共に作曲家グループ「トランソニック」 を組織して季刊誌を編集。「水牛楽団」で世界の抵抗歌をアレンジ・演奏、月刊『水牛通信』発行。
CDシリーズ『高橋悠治リアルタイム』『エリック・サティ集』等膨大な作品をリリース。
著書として平凡社から『高橋悠治/コレクション1970年代』『音の静寂静寂の音』、福音館から富山妙子との共作CD付絵本『けろけろころろ』、みすず書房から『きっかけの音楽』『カフカノート』刊行。

内橋 和久(うちはし かずひさ、1959年~)
ギタリスト、ダクソフォン奏者、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。
レーベル「イノセントレコード」主宰
即興トリオ/アルタードステイツ主宰
即興を中心に、国内外の様々な音楽家と共演。
映像作品、演劇の音楽も手掛け続ける。
音楽家同士の交流の「場」として即興ワークショップ「フェスティヴァル・ビヨンド・イノセンス」(F.B.I.) を毎年開催するとともにNPOビヨンド・イノセンスを立ち上げ、大阪でオルタナティヴ・スペース、BRIDGEを運営していた。
UAやくるりのプロデュース、ツアーメンバーとしても活動。
現在はウィーン、東京を拠点に活躍中。


立石太郎 Taro Tateishi
ジョン・ゾーンを追っかけまくり、近藤等則に怒鳴られつつ今日に至る。たーさま 名義で仲間と以前立ち上げた雑誌「Overground」では前衛芸術中心に紹介。副島輝人氏に紹介された庄田次郎氏との再会をきっかけに久々に演奏も再開。
最も聞いたアルバムは、
キング・クリムゾン『ディシプリン』
じゃがたら『ニセ予言者ども』
最も好きなミュージシャンは、
ブライアン・イーノと林栄一。

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