#1370 SUPER BRASS STARS feat. 4 TRP. Legends〜中川英二郎、エリック・ミヤシロ、ウェイン・バージェロン、アレン・ヴィズッティ、ホセ・シバハ
Text by Takahiro Suzuki 鈴木貴浩
SUPER BRASS STARS Special Live feat. 4TRP. Legends
2025年5月24日(土) 長野県松本市 キッセイ文化ホール
<SUPER BRASS STARS (SBS)> 中川英二郎(tb)、エリック・ミヤシロ(tp)
<4TRP. Legends> Eric Miyashiro エリック・ミヤシロ、Wayne Bergeron ウェイン・バージェロン、
Allen Vizzutti アレン・ヴィズッティ、José Sibaja ホセ・シバハ(tp)
<Rhythm Section> (共通) 中川就登*(p)、川村 竜(b)、川口千里(ds)
Laura Vincent Vizzutti ローラ・ヴィンセント・ヴィズッティ(p) (9のみ)
*宮本貴奈(p)は前日5/23東京恵比寿で行われた4TRP.LegendsのWorld Premiere公演に参加
<SUPER BRASS STARS>
1. Risorgimento (中川英二郎)
2. Run for Cover (Marcus Miller)
3. Tears in Heaven (Eric Clapton)
4. Lady T’s Steps (宮本貴奈 / 中川英二郎)
<4 TRP. Legends>
5. Catch The Rainbow (Eric Miyashiro)
6. High Clouds and A Good Chance of Wayne (Wayne Bergeron) Main feat. Wayne Bergeron
7. Dragonfly (Allen Vizzutti) Main feat. Allen Vizzutti
8. Flight of The Green Hornet (Rimsky-Korsakov / Billie May, Boston Brass ver.) Main feat. José Sibaja
9. Carnival of Venus (piano duo) Allen Vizzutti and his wife, Laura Vincent Vizzutti)
10.Skydance (Eric Miyashiro) Main feat. Eric Miyashiro
11.Legends Suite / 3 Movements (Allen Vizzutti) 4TRP. with Eijiro Nakagawa
EC.Birdland (Joe Zawinul)
●4 TRP. Legends 結成
2025年3月下旬、日本が世界に誇るトランペット・アーティスト エリック・ミヤシロからビッグニュースがもたらされた。エリックはBlue Note Tokyo All Star Jazz Orchestraのリーダー/音楽監督であると共に、中川英二郎が主宰するSUPER BRASS STARS(SBS)と侍Brass(金管八重奏団+打楽器)に参加、日本全国をはじめとする交響楽団や吹奏楽団との共演、スタジオワーク等精力的に活動をしている。また、彼の活動は演奏にとどまらず作編曲におよび素晴らしい作品を送り出し世界的に認められているアーティストである。
そんな多忙を極める彼からもたらされたのは、トランペット奏者4人からなる新ユニット「4TRP. Legends」の結成と、5月に日本で初公演を東京・大阪で行い、長野県松本市でもSBSコンサートにゲスト出演するというものであった。さらに驚かされたのは、そのメンバーである。ジャズ界はもちろんクラシック界でも伝説と呼ばれる名手アレン・ヴィズィッティ、アメリカ・ハリウッドの映画音楽は彼なくしては語れないファーストコールであり、ジャズ界でもグラミー受賞者ゴードン・グッドウィン率いるBig Phat Bandのリードトランペッターを務めるウェイン・バージェロン、親しみやすい独自アレンジで幅広いスタイルの演奏がアメリカを始め世界中で呼び声の高いボストン・ブラス(金管五重奏団)のホセ・シバハ。トランペットをやっている人達からするとかなりの確率で名前も演奏も知っているであろう、正にLegendsだ。この4人が集結するのだから見逃せない。
エリックは、この4TRP. Legendsの結成を“長年の夢であった”と語る。トランペットは、ジャズ・クラシック・ポップス・ラテン等ジャンルを超えた幅広いフィールドで主要なメロディや合いの手に乗せ感情を伝える楽器である。そのボーダーレスな魅力をもっと伝えたいし、更なる可能性を見出したいと語った。そして、その想いを一緒に実現するべく選んだメンバーは(トランペット界の第一人者で交流の幅が広い彼からすれば本当に迷ったであろうことは想像に難くないが)、彼が中学生の頃から憧れていたアレン、バディ・リッチ・ビッグ・バンドでエリックがリードトランペッターを務めていた頃からの盟友ウェイン、2023年ボストン・ブラス来日時共演した際に多くの部分で共感・同調を感じたホセであった。
一方、この松本公演で、新ユニット4TRP. Legendsをゲストに招聘したのは、トロンボーン奏者中川英二郎が主宰するSUPER BRASS STARS(SBS)。SBSは、中川英二郎(tb)、エリック・ミヤシロ(tp)、本田雅人(sax)の3人からなるユニットである。ジャズ界の(小編成も大編成/ビッグバンドかかわらず)主要管楽器であるサックス、トランペット、トロンボーン各楽器の日本が世界に誇る第一人者達が結成したユニットである(今回の松本公演ではスケジュールの都合上、サックスの本田は参加できなかった)。
余談であるが、中川もまたトロンボーン名手4人からなるユニット“スライドモンスターズ“を主宰し活動している。SBSもスライドモンスターズも基本はリズム隊(p, b, g, ds)を持たないユニットである。純粋に管楽器だけでリズム感を含めた音楽表現を行い、管楽器の魅力を存分に味わってもらいたいという想いがあったという。この面で盟友エリックが結成した4TRP. Legendsの想いと重なり、松本公演招聘に至ったのだろうと感じた。
●揮聖 小澤征爾ゆかりの地
この日の会場となった長野県松本市キッセイ文化ホールは、「セイジ・オザワ松本フェスティバル」(旧称:サイトウ・キネン・フェスティバル松本)のオーケストラ演奏が行われる主会場である。ホールに入ると深海を思わせるような深いブルーの中にピアノ・ベース・ドラムスが広めに配置され、その間に4TRP. Legendsが入るであろうセッティングであった。もちろんPAも入っている。ここはPAを使わない演奏会が多いであろうからPA使用がマイナスに作用しないか若干心配したのだが、コンサートが始まった時点でそんな事はすぐに消し去られた。コンサートは、休憩なし 約80分の1ステージ制と告げられた。
●1st Section / SUPER BRASS STARS
最初のステージ・セクションは、SUPER BRASS STARS+リズム隊。
メンバーが登場しセッティングし終わると、独特の静寂と緊張が会場を包む。その中で、エリックのトランペットによるファンファーレが鳴り響き、中川のトロンボーンが重なり重厚さを加える。2本のブラスの力強い響きにリズム隊が堰を切ったように加わりオープニングを盛り上げる。
2曲目も同様のスピード感を保ちつつ、各メンバーの挨拶代わりのソロを加えながらの展開。会場のボルテージを上げていく。3曲目は一転し、エリック・クランプトンの愛息を失った悲しみを歌ったバラードを、リズム隊抜きで。ブラス2本の切なくも美しい響きが会場を満たし、聴衆の心を優しさで満たしていく。この会場を選んだ理由はここにあったのだ、と思い直した。4曲目は、前日の恵比寿でのWorld Premierに参加したピアニスト宮本貴奈(タイトルの“Lady Tは彼女を指す)が中川と共作したエネルギッシュな曲でSBSセクションを締めくくった。
●2nd Section / 4 TRP. Legends
続いてはお待ちかね、4TRP. Legends のステージ・セクション。
リーダーのエリックが、ホセ、アレン、ウェインを一人ずつコールして迎え入れる。それぞれのフィールドでリードプレイはもちろんソロもこなす錚々たるメンバー。トランペット吹きの私としては、正に垂涎もののトランペットセクションである。トランペッター複数がフロントに立っての演奏では、得てしてハイノート合戦になりがちであるが、ハイノートも使いこなすレジェンド達はどうなのか? (そうならないで欲しいと思いつつ)どんなサウンドを聴かせてくれるのか期待が高まる。
4TRP. Legendsのオープニングは、エリック作曲の<Catch The Rainbow>。ヤマハから第2世代のシグネチャー・トランペットとなる、エリック・モデル(YTR-8330EM)とウェイン・モデル(YTR-8335LA)が同時発表されたのを機にエリックが書き下ろし、エリックとウェインをフィーチャーしたビッグバンド曲である。このユニットのオープナーに相応しい(個人的にはこの曲であって欲しいと願っていたので、イントロが流れた瞬間に小さくガッツポーズを取ってしまったのはご愛敬)。このユニット用にリアレンジされた曲は、元々この曲が持つ期待感と爽快感が、レジェンド達の明るく華やかな音色から織りなされたサウンドによって、格段に引き上げられ我々を一気に魅了した。
ここからは、レジェンド各人の持ち曲をリアレンジし、本人をフィーチャーするスタイルで繰り広げられた。演奏は勿論“素晴らしい”の一言であるが、ここまでトランペットを極めた者達の演奏は音色も表現も画一的では決してなく、質・側面の異なる素晴らしさがあると感じた(個性的とでも表現すべきか?)。また、Legendsはハイトーンに走る事なく、常に自己の役割を担いながらユニットの調和と最善のサウンドを意識した演奏をしていた。
この中でも特に衝撃的で印象的だったのは、アレンの<ヴェニスの謝肉祭>であった。運指・発音(タンギング)・跳躍が超高難度のこの曲を、3オクターブを超える(一般的には1.5オクターブ程度)音域でメロディアスに歌いあげられた。そればかりか、演奏しながらトランペットを上下逆になるように横回しながら(当然下向き時の指使いは逆になるわけだが)演奏を続けるという離れ業を織り交ぜながら完璧に演奏しきってしまったのである!これには、この日一番の拍手と歓声が会場を満たしたのは言うまでもない。普通こういった超絶技巧を披露されると、聴く側はその時は“凄い!”と感心するが後には残らない=感動はしないものであるが、アレンのエンターテインメントを織り交ぜた情感豊かな演奏は正に“感動し心に残る”名演であった。
舞台袖でこの演奏を目の当たりにした3人のレジェンド達は“もうトランペットを辞めようか・・・”とつぶやいていたとかいないとか・・・。
4TRP. Legendsのステージ・セクションは、このユニットの為にアレンが書き下ろした3楽章からなる組曲がフィナーレを飾った。各楽章ごとに異なる方向性が示され、トランペット・フリューゲルホルンの魅力を十分に引き出してくれる素晴らしい曲構成であったし、素晴らしい演奏であった。
「4TRP. Legends」大阪公演より Photo by Maco Hayashi
この日の聴衆は、トランペット吹きの占める割合が7割を超えていたようだ。
そんなある意味マニアックともいえるコンサートでもあったが、レジェンド達から伝わってきたことを簡潔に書くとすればこんなことではないだろうか。
・ハイトーンを含めた楽器を操る技術を極めていく事で、トランペットが持つ“可能性”と“魅力”を示してくれた。
・そのトランペットの演奏に“情熱”と“想い”を込めて音楽を奏でることで、聴く人の心に語り掛け、心を動かすんだよ、と。
そしてもう一つ。この4TRP. Legendsは単に4音の和音だけではなかった。レジェンド達が持つ豊かな音色が(音響学的には“倍音成分”と言えるものであろうが)共鳴しあい、“無限の拡がり”を聴かせてくれた。
長年トランペットを演奏してきてセクションだけでもやっているが、こんなに音の拡がりを感じた経験は初めてだ。強いて例えるなら、ピアノの和音の残響が織りなす余韻が拡がって行くかの様だ。
そこが海なのか宇宙なのか分からないが、、、神々が集う場所(音の空間)はとてつもなく深く、そのほとりは無限に広がっている。そう感じる程この日のステージは感動的であり魅力的であった。
この4 TRP. Legendsは近い将来、日本を飛び出しアメリカはじめ世界中を駆け巡り、世界中の人にレジェンド達の魅力とトランペットの魅力と無限の可能性を伝えていくことだろう。そして、このユニットを主催したエリックが若い時に夢を描き、憧れのヒーローと同じ想いを持つ盟友との共演を果たしたように、次なる世代を導いていくことであろう。
Catch the Rainbow (Eric Miyashiro
Yamaha Virtual Big Band feat. Eric Miyashiro and Wayne Bergeron
Allen Vizzutti – Carnival of Venus
Boston Brass – Flight of the Green Hornet
鈴木貴浩 Takahiro Suzuki
山形県山形市在住。中学校の吹奏楽部でトランペットを手にして以来その虜になる。現在はSwing Friends Jazz Orchestra主宰、地元ビッグバンドNew Counts Orchestraに所属。Eric MiyashiroはじめBobby Shew、Yokan、守屋純子、伊勢秀一郎、同県人である高橋達也、羽毛田耕士他、多くのプロミュージシャンとの共演経験あり。アメリカ・ミネソタ州在住経験あり(2014〜2016年)。『JAZZ TOKYO』では「デトロイト・ジャズ・フェスティバル 2015」でのパット・メセニーのレポートを寄稿。また、アメリカ在住時から『Band Life』誌に記事を連載。『The Trumpet』誌などへも寄稿している。
【JazzTokyo 鈴木貴浩 寄稿記事】
パット・メセニー/デトロイト・ジャズ・フェスティバル 2015
エリック・ミヤシロ・ビッグ・バンド in 新潟市北区文化会館 (2021年)