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Concerts/Live ShowsNo. 329

#1381 テリ・リン・キャリントン:We Insist 2025! featuring クリスティ・ダシール

Text by Akira Saito 齊藤聡
Photo by Yuka Yamaji

2025年8月7日(木) 1st set at the Blue Note Tokyo

Terri Lyne Carrington (drums)
Christie Dashiell (vocal)
Matthew Stevens (guitar)
Rashaan Carter (bass)
Milena Casado (trumpet)
Christiana Hunte (dance, spoken word)

1. Driva’Man
2. Freedom Day (Part 1)
3. Freedom Day (Part 2)
4. All Africa
5. Boom Chick
6. Triptych: Resolve/Resist/Reimagine
7. Freedom Is…
8. Tears For Johannesburg

テリ・リン・キャリントンが歌手のクリスティ・ダシールと組んでリリースしたアルバム『We Insist 2025!』は、マックス・ローチが1960年にリリースした『We Insist!』へのトリビュート作品であり、いうまでもなくアフリカ系アメリカ人の苦難の歴史を背景としている。この日のライヴもほぼ両アルバムの曲順に沿った展開。しかし本人がMCで話したように現代の視線により「reimagine」された音楽であり、驚くほど鮮烈だ。

冒頭の<Driva’Man>からいきなり目が覚めるようなリムショットと変則的なアフロビート、テリ・リンらしさ全開。続く<Freedom Day>ではクリスティが「Slave no longer, slave no longer」と歌い、ミレーナ・カサドのトランペットがミュートでその祈りを凝縮しつつシャウトもして、現在大注目を集めていることも当然だと納得できる。

独特なリズムは<All Africa>にもあって、テリ・リンのプレイはジャンベやサバールなどアフリカの太鼓を想起させる。クリスティが次々に歌うアフリカ先住民の名前との相乗効果により、サウンドは「母なる大地」の記憶を召喚するものとなった。その勢いのまま、新アルバムにのみ含まれる<Boom Chick>に突入する。マックス・ローチが開拓したリズムのコンビネーションが、そのまま曲名になっている――――ステージ前、そのことを訊いた筆者に対し、テリ・リンは「ほら、こんなふうに。ブーム・チック、ブーム・チック……」と再現してくれた。すなわちこの音楽は、自分たちのルーツと同時に、マックス・ローチから現在に連なるドラムス表現の歴史も見つめるものだ。クリスティは「Thank you Max for staying black」といった謝意を繰り返し呟いた。

<Triptych>のタイトルはローチのアルバムと共通するが、中身は更新されている。ラシャーン・カーターのコントラバスにテリ・リンの素手によるドラミングが素朴な空気を創り出し、クリスティアナ・ハントのダンスも奏功して差し迫る感覚を高める展開などみごとだ。そのメッセージは曲のパート2からも受け取ることができる。繰り返しクリスティが呟く「systems change」ということばは、現在の政治経済や社会をがんじがらめにしているシステムの刷新を願ってのものでもあるだろう。ミレーナのトランペットは人の声のようであり、続く<Freedom Is…>におけるクリスティとクリスティアナのスポークンワードとともに、ことばとサウンドとの重層的な音風景を作り上げた。

偉大なマックス・ローチとアビー・リンカーンへの敬意、半世紀前から形を変えつつも残存する差別へのプロテスト、そしてそれらを現在進行形の音絵巻として構築した力量。ライヴからもそのすばらしさが十分に伝わってきた。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。linktr.ee/akirasaito

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