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Concerts/Live ShowsNo. 330

#1386 METROPOLITAN JAZZ VOL.07~isles meets special guest Donny McCaslin

text & photos by Toshio Tsunemi 常見登志夫

METROPOLITAN JAZZ VOL.07~isles meets special guest Donny McCaslin
東京・有楽町 “I’M A SHOW(アイマショウ)” 9月11日(木)

isles:
池本茂貴(tb), David Negrete(as), 馬場智章(ts,ss), 陸 悠(ts,fl), 宮木謙介(bs,fl), 和田充弘(tb), 広瀬未来(tp), 佐瀬悠輔(tp), 海堀 弘太(p), 小川晋平(b), Taka Nawashiro(g), 小田桐和寛(ds), 岩月香央梨(per)
speicial guest:
Donny McCaslin(ts)

■Setlist
1st:①COMET ②My Favorite Things ③finem aestatis ④Oath
2nd:①Rhythm Blocks ②Glitch ③HIDAMARI ④Rhythm Madness
Encore:Switch


コンテンポラリー・ジャズ・シーンの最先端を突っ走る、池本茂貴(tb)率いるisles(アイルス)と、ダニー・マッキャスリン(ts)の共演ステージ。islesのホール公演は初めてだという。この日、集中豪雨が東京を襲い、多くの交通機関が乱れた影響で、受付ではキャンセルが相次いでいたようだ。途中での入場者も多かった。25歳以下の若い世代向けのチケットも販売されており、圧倒的に若い観客が多い。楽器を担いだ人も目立った。前日に池本や陸、ダニーによるクリニックがあったので、そのおかげかもしれない。

プログラムは、1部が池本茂貴islesのみ、2部がダニーを迎えたステージである。池本とダニーの出会いは10年前。池本がまだ10代で慶応大学ライト・ミュージック・ソサエティのツアーでNYを訪れたころからだという。

オープニングは馬場智章のソプラノサックスと、佐瀬悠輔のトランペットを大きくフィーチャーした〈COMET〉。疾走感、グルーブ感がいっぱいの、聴いていてたちまち引き込まれるナンバーである。後半、小田桐(ds)が曲のスピード感をいっそう煽るようなソロをとる。コンパクトなサイズの曲ながら、各ソリストを大きくフィーチャーする。練りに練った精緻なアンサンブルと、ソロイストに一切を任せたサウンドは、聴き手に圧倒的な心地良さを残す。観客が一音一音聴き逃すまいと前のめりになって聴いている。〈COMET〉は池本の2枚のアルバムにも入っているし、昨年の守屋純子オーケストラとの選抜メンバーによるビッグバンドでも聴いたが、islesのステージで聴くと、やはり大きな感動がある。

池本のMCによると最近、ステージ進行を、最強メンバーを集めたislesらしく、それぞれのソロを大きくフィーチャーする方向に替えたそうだ。2曲目の〈マイ・フェイバリット・シングス〉では、デビッド・ネグレテ(as)を大きくフィーチャーした(丸の内・コットンクラブでのライブ盤にも収録されている)。基本、オリジナルが多いislesだが、この曲の大胆なアレンジはメロディの美しさとスリリングな展開の調和がいい。ベースのイントロにドラムスとパーカッション、ピアノが少しずつ乗る。静かなアルト・サックスのテーマはささやくようで力強い。全編、ネグレテのソロが展開されるが、ホーンのアンサンブル、それを突き上げるパーカッションと、一編の映像を見るようだ。一転してギターがカラフルなソロを奏でる。

islesではまだ一度しかステージ(丸の内・コットンクラブのみ)で演っていないという〈フィーネム・エスターシス〉は、広瀬(tp)と、急遽出演が決定した岩月(per)を大きくフィーチャーする。

池本islesのファーストアルバムのタイトル曲にもなっている〈オース(誓い)〉は、夢の空間を思わせる、優しく透明感のある美しいテーマ。フルートのアンサンブルに乗るトロンボーンがしびれるほどきれいだ。ベース・ソロもメロディを優しく奏でる。アンサンブルは次第に熱を帯びていき、スリリングな展開を見せると一転、終盤のエレピがいやすような粋なエンディングである。

ダニーが加わった2部は、池本のオリジナル〈リズム・ブロックス〉で始まった。次々と新しい世界を展開する、大きなグルーブを持ったislesの重厚なアンサンブルもすごいが、マッキャスリンが縦横無尽に歌い上げると一気にカラーが変化する。海堀のキーボードも素晴らしい。池本が、NYでダニーと初めて会ってから10年。自分のislesで、同じステージに立てていることの幸せを、奇跡のようにかみしめている、と何度も述べる。

次の〈グリッチ〉はダニーのオリジナル。ダニー自身と自分のバンドにとっての“遊び場”のつもりで書いた(サックスの陸が通訳してくれた)。「メロディはラベルの〈ボレロ〉をイメージした。それにシンセのmoogでツイストを入れ、リズム・セクションを遊んで、メンバーも相互に遊ぶ。その遊びの先に新しい体験を求めて作曲した」そうだ。アレンジは池本。ゆったりと体がうねるような独特のリズムに、繰り返される同じメロディで自由に遊ぶ、ちょっと面白いナンバーである。客席も終始、体をリズムに乗せている。池本が「かっこいい」と口にしていたが、客席の多くも同じ感想だったと思う。

〈Hidamari〉は池本のオリジナル。池本は昨年、別のステージで「この曲には友人・知人への感謝や祝福の想いを意識的に込めた」と述べていたが、ダニーはその想いを受け止め、優しく温かな音色で応えた。Nawashiroのギターが泣ける。

〈リズム・マッドネス〉は今回のステージのために池本が書き下ろした。〈リズム・ブロックス〉の別バージョン(続編)のつもりで、あこがれていたダニーの音色やプレイを脳内で何度も再生しながらダニーの音色に合うように書き上げた、という。馬場と陸、ダニーのテナー3人をフィーチャーした(ロリンズ~コルトレーンの『テナー・マッドネス』にかけているはず)。池本が「(曲の)冒頭がヤバい」というように、イントロがとんでもなく速い。スパニッシュのリズムと速いテンポでリズミカルに進行する。3本のテナーは三様にハードドライビング。馬場は10年以上前、ドラマーの大坂昌彦が主宰した“Jazz Battle Royal”で20歳そこそこで抜擢されたステージが鮮やかによみがえる。いつ聴いても気持ちのいいブロウだ。エンディングの3人によるユニゾンのテーマにはぞくぞくした。会場からは叫ぶような歓声と拍手が沸き起こる。

アンコールは短いがうきうきと体が沸き立つような躍動感のある池本のオリジナル〈スイッチ〉。思い切りブロウするトロンボーン、ダニーも楽しそうだ。

islesは結成してまだ3年ほどしか経っていないが、すでにジャズ・シーンの最重要バンドのひとつになっている。次回のコンサートは2027年3月24日(火)に決定している。

 

常見登志夫 

常見登志夫 Toshio Tsunemi 東京生まれ。法政大学卒業後、時事通信社、スイングジャーナル編集部を経てフリー。音楽誌・CD等に寄稿、写真を提供している。当誌にフォト・エッセイ「私の撮った1枚」を寄稿。

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