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Concerts/Live ShowsNo. 234

#972 ランドフェスVol.9 仙川

2016年9月16日(土)17日(日)
調布市仙川駅周辺
ディレクター:松岡大・安藤誠

Reported by Makoto Ando 安藤 誠
Photo by Masabumi Kimura 木村雅章

プログラム

9月16日(土)
ランドフェス daytime 12:00~13:20
入手杏奈(ダンス)×坂本弘道(チェロ)
奥野美和(ダンス)×佐藤公哉(ヴォイス/ハルモニウム/ヴァイオリン)
宮原由紀夫(ダンス)×マルコス・フェルナンデス(パーカッション)×周慶錦(ギター)

ランドフェス evening 18:00~19:20
星衛(チェロ/和笛)×松岡大(舞踏)×中山晃子(Alive Painting)
レオナ(タップダンス)×ハブヒロシ(遊鼓)
巻上公一(ヴォイス)×飯森沙百合(ダンス)

9月17日(日)
ランドフェス daytime 12:00~13:15
笠井瑞丈(ダンス)×狩俣道夫(フルート/ソプラノサックス/ヴォイス)
ホムンクルス(ハーディガーディ/古楽器)×松原東洋&長谷川宝子(舞踏)
中村蓉(ダンス)×武田理沙(ピアノ)

ランドフェス evening 18:00~19:20
林ライガ(ドラム)×小松睦(ダンス)
小暮香帆(ダンス)×竹内直(サックス)
赤い日ル女(ヴォイス)×カール・ストーン(ラップトップ)×細川麻実子(ダンス)

JT234 Land Fes 

JT234 Land Fes 

<身体の可動域×まちの可動域>

ランドフェスは、20〜30人からなる少人数のオーディエンスが、街を巡りながらダンサーとミュージシャンによるその時限りの即興セッションを体験する、ウォーキング形式のパフォーマンスイベント。今年で10年目を迎えた「JAZZ ART せんがわ」の同時開催企画として、2014年から4年続けて調布市仙川で実施している他、吉祥寺、西小山、高円寺、中延といった街でも、先鋭的なダンサー&ミュージシャンによるセッションを繰り広げてきた。街のなにげない場所を即興の舞台に変え、普段とは全く異なる状況下に置かれたダンサーとミュージシャンの丁々発止のやり取りをリアルタイムかつ至近距離で目撃できるのが、このイベントの醍醐味だ。今回は悪天候をものともせず繰り広げられた仙川でのランドフェスVol.9の模様を紹介する。

◆9月16日(土)daytime

JT234 Land Fes 

#1 入手杏奈(ダンス)×坂本弘道(チェロ) @山内ぶどう園
2日間にわたる連続ライブの口火を切ったのは、JAZZ ARTせんがわのプロデューサーも務める坂本弘道と、ソロ活動に加えスキマスイッチや凛として時雨などのPVにも出演するダンサー、入手杏奈のセッション。劇場から10分ほど歩き、オーディエンスがまず辿り着いたのは、広大な農園内にあるぶどう畑。近年では「リトル自由が丘」とも呼ばれる仙川エリアでのこのロケーションには、意表を突かれた人も多くいたようだ。収穫を終えたばかりのぶどう棚の下に泰然と佇み、抱えたチェロから抒情と激情の交錯を変幻自在に紡ぎ出す坂本の姿は、宮沢賢治の童話世界から抜け出してきたかのよう(とあるツイートに曰く「リアル・ゴーシュ」!)。性急な動きを慎重に回避しながら、一音一音に寄り添うように踊る入手の丁寧でなめらかなダンスが、少しずつ強まる雨脚に歩調を合わせていく。いきなりの、息を呑むほど美しい20分の音楽劇。ぶどう畑の午後1時、終演とともに現実世界へと戻った一行は、一路市街地へ。

 

JT234 Land Fes 

#2 奥野美和(ダンス)×佐藤公哉(ヴォイス/ハルモニウム/ヴァイオリン) @ブティックAzi&仙川ピポッド

先ごろ、主宰するカンパニー「N///K」の新作「Namelessness -名のないカラダ-」(日暮里d‐倉庫)の上演を終えたばかりの奥野美和。最近は同カンパニーでの創作活動に力を入れていることもあり、彼女の即興ソロを間近で体験できるのは貴重な機会といえる。その奥野とこの時間を分かち合うのは、男女ユニット三日満月での活動でも知られる佐藤公哉。まずは商店街のブティック店内からセッション開始。前述の公演でも、自らの引力で空間に歪みを生じさせるような圧倒的な存在感を随所で見せていた奥野だが、至近距離から眺めていると、改めて美しさを超越したその「凄み」に気圧されるのを実感する。ややあって街の中心部に移動後、佐藤はヴァイオリンからハルモニウムにチェンジ。ヴォイスを効果的に織り交ぜながら、中世ヨーロッパと太古の生命が出会いを果たしたような異形のサウンドスケープを現出させていた。

 

JT234 Land Fes 

#3 宮原由紀夫(ダンス)×マルコス・フェルナンデス(パーカッション)×周慶錦(ギター) @仙川東部ふれあいの家
3つ目の現場は、消防団の建物2階にある公民館の和室。自らのカンパニー素我螺部(Scarabe)を率いつつ、ソロ活動も精力的にこなすダンサー宮原由紀夫と、横浜インプロシーンを牽引するマルコス・フェルナンデス&周慶錦の組み合わせだ。地元の寄り合い所、といった風情の空間を、経験豊富な3人がどのような風景に変えてくれるのか、オーディエンスも興味津々で見つめる。周が弾く空間系エフェクターを多用した浮遊感漂うギターと、フェルナンデスが奏でるアンビエントなパーカッションがその場の空気を満たしたところで、唐突に宮原が物置の観音扉を蹴破って登場。歌舞伎役者を思わせるポーズに加え、走る、歌う、部屋から飛び出す……と、縦横無尽なアクションで観客を引き込む。爆走のあまりか終盤は多少息切れ気味だったものの、全体的に非常にテンションの高いライブが堪能できた。

 

◆9月16日(土)evening

JT234 Land Fes 

JT234 Land Fes 

#4 星衛(チェロ/和笛)×松岡大(舞踏)×中山晃子(Alive Painting) @せんがわ劇場リハーサル室
夜の部は、せんがわ劇場3階に設けられたリハーサル室からスタート。同時開催4年目にして初のJAZZ ARTせんがわ会場内でのライブとなった。この日予告されていたのは、即興派のチェリストであり東京都無形文化財神田囃子の伝承者としても活躍する星衛と、ランドフェスのディレクターにして山海塾舞踏手の松岡大のセッションだったが、急遽シークレット・ゲストとして、当日のJAZZ ARTにも出演していたAlive Paintingの中山晃子が参加。ランドフェスとしては異例の、アートとのコラボレーションを伴った形でのライブとなった。山海塾での舞台同様、白塗り姿で現れた松岡の身体に、中山が生成するバイオテックな色彩が間断なく投射され、星はチェロと和笛を駆使して現実と夢想の端境を漂うようなサウンドを響かせる。夥しい光彩と音の渦中でもなお際立つ、松岡の体幹の力強さと存在感を改めて確認できた時間だった。

 

JT234 Land Fes 

#5 レオナ(タップダンス)×ハブヒロシ(遊鼓) @モッテ
オーダーメイドの額縁店として地元では名高い「モッテ」は、これまで度々ランドフェス仙川の舞台となってきた店。今年この場所を盛りたてるのは、越境的トライバルダンスグループ・サンドラムや馬喰町バンドでも活躍し、自作の太鼓「遊鼓」を操るハブヒロシと、ジャズ・即興系のミュージシャンとの共演も多いタップダンサーのレオナの2人だ。「踊りながら叩けるように」と、自ら改良を加えた太鼓を抱えたハブは、その言葉通り終始駆け回りながらの大熱演。寝そべりながら叩くという荒業まで繰り出し、迎え撃ったレオナ曰く「タップ界に伝わる”性感タップ” と同じ構図になった」。本場NYやシカゴ、LAでタップ修業を重ねたというレオナだが、ハブのパーカッションに共振したその姿は、遠い古代のダンス—-天宇受売命はもしかしたらこんなふうに踊っていたのでは?といった楽しい妄想を喚起させてくれた。

 

JT234 Land Fes 

#6 巻上公一(ヴォイス)×飯森沙百合(ダンス) @山内ぶどう園
近づく台風の気配を感じながら、一行はこの日2度目の農園へ。巻上公一、そしてco.山田うんでも活躍するダンサー飯森沙百合が控えるぶどう畑は、昼間のオーガニックな雰囲気とは対照的に、降りしきる雨もあり、漆黒の闇に包まれ幽玄ささえ感じさせる異世界へと変貌。巻上が繰り出す種々の民族楽器とコルネット、ヴォイスが、そのムードを高めるかの如く響く。雨音を含めた環境音ですら自己の手のものとする巻上の支配力、「音」に対する比類のない解釈力を改めて実感。やがて飯森の舞いが呼応し、絡み合う。闇の中でもそれ自体で煌めく、彼女ならではの四肢の伸びやかさに目を奪われた。実はこのセッション、本来ダンサーが踊る位置にオーディエンスが陣取ってしまったのだが、そんなハプニングを逆手に取り、あえてライトの当たらない空間を効果的に使った対応力も見事だった。フィナーレを美しく飾る、魅惑のパフォーマンスでこの日は終了。

 

◆9月17日(日)daytime

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#7 笠井瑞丈(ダンス)×狩俣道夫(フルート/ソプラノサックス/ヴォイス) @加藤みや子ダンススタジオ
2日目。中村蓉の多幸感溢れるダンスに導かれ、駅北側のスタジオへ。ここで対峙するのは、舞踏家・笠井叡の系譜を受け継ぐ笠井瑞丈と、灰野敬二とのデュオや自らのユニット「愚弁」でも活動する狩俣道夫。黒い方形のオブジェが無造作に配置されたスタジオの中を、声明ともオノマトペともつかないヴォイスを発しながら狩俣が歩き回る。その間隙を縫うように、非線形の動きで対抗する笠井。狩俣のフルート、ソプラノ・サックスから切っ先鋭い音塊が連射され、緊張感がマックスに高まろうとしたその時、笠井の「それは何語なんでしょう?」の一言で場内が笑いとともに心地よく緩む。その後は笠井が場の主導権を握り、一転してコミカルな不条理劇へと突入。「自分のライブでは、滅多にこういう展開にならないんだけど」と語った狩俣も、オーディエンスとともにこの成り行きを十分に楽しんでいたようだった。

 

JT234 Land Fes 

#8 ホムンクルス(ハーディガーディ/古楽器)×松原東洋&長谷川宝子(舞踏) @藤屋
仙川のメインストリートをまっすぐ南に移動して、かつては武者小路実篤も贔屓にしたという、営業休止中の古い和菓子店へ。店内で一行を待ち受けるのは、渋さ知らズのメンバーであり、主宰する舞踏団トンデ空静でも独自の表現を追求する松原東洋&長谷川宝子。共演のホムンクルスは、中世・ルネサンス期のヨーロッパ音楽を奏でる「21世紀の楽師たち」。この日は、3台のハーディガーディを基本に、時折スウェーデンの民族楽器ニッケルハルパが絡むという珍しい編成だ。昼下がりの商店街、和の意匠を巧みに取り入れた特異な風体で踊る2人の姿に、行き交う多くの買い物客が足を止める(もちろん、目にしたものを観なかったことにして通り過ぎる人々も多数)。雅楽的な色彩をも感じさせるハーディガーディの合奏に、松原&長谷川の身体で描く物語が意外なほどマッチし、実りあるセッションとなった。

 

JT234 Land Fes 

#9 中村蓉(ダンス)×武田理沙(ピアノ) @森のテラス
個人的にこの日最も印象的だったのがこの組み合わせ。劇場からの先導でも大いにオーディエンスを魅了した中村蓉が、木々が息づく静かな一軒家を舞台に、実力を遺憾なく見せつけたセッションとなった。そのダンスは闊達にして華やか、緩急自在にして高い構成力を感じさせる独自の世界。パーカッシブな響きを強調して煽り立てる武田理沙のピアノも絶妙。フランク・ザッパのメドレーをピアノアレンジで弾ききるなど超絶技巧でも知られる武田だが、折々で聴かせる歌心に溢れたフレーズで、その場に一陣の涼風を運びこむ。中盤を過ぎ、中村はそぼ降る雨の中テラスへと飛び出し、それまでの軽妙な動きから一転、妖艶さすら感じさせる濃密なダンスを披露。松原東洋&長谷川宝子が終盤で突然登場するハプニングも程よいアクセントとなり、白眉のセッションは幕を閉じた。

 

◆9月16日(土)evening

JT234 Land Fes 

#10 小松睦(ダンス)×林ライガ(ドラム)<×竹内直(テナーサックス)> @せんがわ劇場リハーサル室
台風接近に伴い、当初予定の野外会場からせんがわ劇場内リハーサル室に急遽場所を移してのスタートとなったこの回の主役は、ダンスカンパニーOrganWorksに所属しソロでも活躍する小松睦と、最年少1999年生まれの林ライガ。シーンの話題を集める18歳のドラマー林は林栄一、森順治、のなか悟空、日野皓正といった歴戦の強者との共演歴を持ち、名だたるジャズメンの若き日もかくやといったムードを漂わせる俊才だ。初っ端から全開の林に対し、小松は力感のある表現で対峙。途中、ドラムセットに絡んでオーディエンスをハッとさせるなど、安定感がありながらも立体的で、意外性のある動きが楽しい。15分ほど過ぎたところで竹内直が登場。場内は一気に熱を帯びたジャムセッションの様相に。あえてジャズ的な律動に抗うように踊る小松が、逆説的にジャズの即興性をよく体現していたように思えた。

 

JT234 Land Fes 

#11 小暮香帆(ダンス)×竹内直(サックス、フルート) @バーAzi
今回、ランドフェス仙川のフライヤーでモデルも務めた気鋭のダンサー小暮香帆と、メインストリームからフリーまであらゆる領域を往来する竹内直。注目の顔合わせの一つだ。ただ、会場のバーは今回用意された中でも最も狭小な空間。正直なところ一抹の不安を抱いていたのだが、それは杞憂に終わった。実際に身体を動かせるのは1畳ほどと、可動域が極端に限られる中、迷いなく、切れのある動きで竹内のテナー&フルートに呼応する小暮。少女のような可憐な容姿と相反するかのような意思の強靭さで、一切の躊躇も迷いもなく躍り込む。「自分の踊りの良さ、質感を熟知しながら、踊りを楽しむことのできる天性を感じた」とは松岡大の弁。小暮の熱演に応え、竹内のテナーは循環呼吸奏法を多用しながら場に渦を作り、緩むことなく高揚感を供給。スペース的なハンディを全く感じさせない、白熱のセッションが展開された。

 

JT234 Land Fes 

#12 赤い日ル女(ヴォイス)×カール・ストーン(ラップトップ)×細川麻実子(ダンス) @仙川スタジオゆるり
コンピュータ音楽の先駆者として世界的に知られ、サンプリングの黎明期である1980年代からその分野をリードしてきたカール・ストーンが、このところ活動を共にしているヴォイスの赤い日ル女とともに登場。数々の受賞歴に輝く実力派ダンサーの細川麻実子を迎えての3人でのパフォーマンスは、2日間の掉尾を飾るにふさわしいセッションとなった。暗幕のみのシンプルな舞台設定で、細川が追求する表現の純度の高さ、細やかさがより際立って見える。2人の音楽家が築き上げる観念性の高い世界観と交感し、切り結びながら、確固たる肉体性を付与していくその躍動感が素晴らしい。ストーンによるリアルタイム・サンプリング処理を施された赤い日ル女の確信に満ちた歌声、聴くものを異郷へと誘う詩世界も見事の一言。JAZZ ARTせんがわの出演者からも赤い日ル女への称賛の声が多く聞かれたが、それも納得できる圧巻の20分だった。

 

JT234 Land Fes 

今回参加したオーディエンスの一人が、ランドフェスを評して<身体の可動域×まちの可動域>と表現していた。未知の場所から受ける刺激を活力として、パフォーマーが自らの身体に眠るポテンシャルを目覚めさせ、そのパワーで、街中に眠る「賑わい」の要素を掘り起こし、再活性化させる—-筆者なりにこの言葉を解釈するなら、そんなダイナミックな<身体>と<まち>の反復するコミュニケーションこそが、ランドフェスの本質であり特異性、ということになるのだろうか。表現者の意思が街の景色とクロスし、共振する。そんな瞬間を何度も目にすることができた、今年のランドフェス仙川だった。

安藤誠

あんどう・まこと 街を回遊しながらダンスと音楽の即興セッションを楽しむイベント『LAND FES』ディレクター。

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