#982 アキ・リッサネン・トリオ
photo: Dave Stapleton
text by Takashi Tannaka 淡中隆史
photo by Harumi Maezawa 前澤春美
2017年10月8日 新宿ピットイン
Aki Rissanen (piano)
Eero Seppä (bass)
Teppo Mäkynen (drums)
1st set
Pulsar
For Jimmy Giuffre
New Life and other Beginnigs
Gyorgy Ligeti’s Piano Etude 5
Bird Vision
2nd set
Amorandom (as solo piano)
Hubble Bubble
Signettes
Blind Desert
10月8日新宿ピットインで大沢知之氏(Office Ohsawa)招聘によるフィンランドのピアニスト アキ・リッサネン(Aki Rissanen)トリオを聴く。清冽な音のたたずまいが心に残るライブだった。リッサネンは母国フィンランドとヨーロッパ圏での活動が中心で来日は2014年10月以来、
今回の日本ツアーはソロとトリオのパフォーマンスで横浜ジャズプロムナードを始めとする11カ所と大規模なものだ。
リッサネンは当日、会場でお目にかかった杉田宏樹氏に以前からうかがっていたフィンランドの俊英で「ユーロ・ピアニズム第3世代」などとも言われる。マルチン・ヴァシレフスキ(ポーランド)、ミシェル・レイス(ルクセンブルク)などに近い1980年代初期の生まれだ。クラシック音楽出身のピアニスト達がジャズに出会った初々しい接点と初期衝動が彼等のジャズミュージシャンとしての個性を決めていると思うが、その中でリッサネンは特にノルディックなひときわ深い陰影と美しさに満ちた音楽で際立った存在だ。
ピットインでのライブはアルバムでの受けるイメージと比べて圧倒的にデリケート、「微音系」とすら思われる印象で始まった。叙情的というより音楽が構造的でありながら決してメカニックではない。多くのヨーロッパのピアニストのように過度にメロディアスであったり、コードの情緒性に陶酔する事なくストイックに選び抜かれた最小のエレメンツで構成された音楽でありながらなぜか「暖かい」印象を残していた。
自作以外にも独自のビート感、和声感で再構築されたチャーリー・パーカーにインスパイアされたバップのナンバー、当日の発音ではわからなかったがセットリストで確認して驚いたG.リゲティ(!)の美しいピアノのためのエチュード、ジミー・ジュフリーへの楽曲など通常のアメリカや日本のジャズ・ピアニストにはありえないラインナップが2つのセットに有機的に配列されていて美しい残像を残すライブ、帰途につきながら大きな満足と強い印象をもった不思議な世界を反芻していた。