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Concerts/Live Shows特集『JAZZ ART せんがわ』No. 246

#1029 詩×音楽(JAZZ ART せんがわ2018)

2018年9月15日(土) 調布市せんがわ劇場

Text and photos by Akira Saito 齊藤聡

Mizuki Misumi 三角みづ紀 (詩)
Tatsuro Kondo 近藤達郎 (p)

Koichi Makigami 巻上公一 (詩)
Werner Puntigam (tp, ほら貝)
Rabito Arimoto 有本羅人 (tp, bcl)

Kazuko Shiraishi 白石かずこ (詩)
Itaru Oki 沖至 (tp, 笛)
Kiyoto Fujiwara 藤原清登 (b)

1. 三角、近藤
2. 巻上、プンディガム、有本
3. 白石、沖、藤原、巻上

詩、三角みづ紀。音楽、近藤達郎。

はじまりはなかなか声を音として発さない、それだけに声が声としてやってくる。三角のことばの中で、「滴」が「私」と同化する。あるいは、何ら特別なことのない日常がことばにされる。

そのことばの響きが、近藤達郎のピアノの沈黙とともに、またふたつのマイクを使い分けることによって、さらに聴く者の中で増幅する。

彼女は靴を脱ぎ、片手の親指をなにかとのつながりであるかのようにもう片方の手で握りしめ、「地球」や「大きな船」と口にする。それはまるで、大きな世界での限りのない孤独を噛みしめながら、小さなものを愛おしむようにも聴こえた。

詩、巻上公一。音楽、ヴェルナー・プンディガムと有本羅人。

おもむろに息を吸って、「ぷー」。高周波の喉笛、そして、ことばからのインスピレーションのままに、次のことばを紡いでゆく。「ね/ねだ/ねだやし/ねんご」。プンディガムがほら貝で、有本がバスクラでその世界に彩りを付け加える。

やがて巻上は、声を出さんとして出さない状態に陥った。声が外への出口を求めて切実に、しかしユーモラスに、声以外で表現を行う。

声がまた復活した。音楽家たちは、トランペットのトリルとアルミのトロンボーンで応じた。そして祝祭が待っていた。

詩、白石かずこ。音楽、藤原清登、沖至、巻上公一。

まずは巻上そして柔軟そのものをかたちにしたような藤原の音。ここで白石が登場し、聴衆に「Well, thank you very much, everybody!」と話しかけた。彼女は昔からのスタイルのまま、巻物を紐解きながら、「幽霊」、「ラベンダーの原っぱ」、「やわらかい難破船」とことばを連ねてゆく。突然異次元の世界に放り出されたような、たいへんなことばの異化作用である。

日本におけるポエトリー・リーディングの開拓者であり、いまもなおその力を持ち続けていることを強く印象付ける圧巻のステージであった。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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