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Concerts/Live ShowsNo. 256

#1088 藤本一馬カルテット feat.林正樹、西嶋徹、福盛進也

text by Takasi Tannaka  淡中隆史
photo by Chika Kijima

2019年7月9日 モーションブルー 横浜

藤本一馬カルテット
藤本一馬(g)
林正樹(pf)
西嶋徹(b)
福盛進也(ds)

1stセット
1.Star of the river (藤本一馬)
2.Polynya(藤本一馬)
3.うつろひ(林正樹)
4.L.A.S -langsam aber sicher-(福盛進也)
5.Snow Mountain(藤本一馬)

2ndセット
1.褻の笛(西嶋徹)
2.Consequence (林正樹)
3.Surface (藤本一馬)
4.Flight of a Black Kite (福盛進也)
5.FLOW (藤本一馬)
アンコール Prayer(藤本一馬)

この上なく簡潔で、至福感に満ちた藤本一馬の アルバム『FLOW』(Spiral 2016) をこの3年のあいだに何度、聴きかえしたことだろう。ささやかなアフォリズムともいえるこの作品は、藤本一馬(g)、林正樹(p)、西嶋徹(b)のトリオからなっている。ほかにジョアナ・ケイロスJoana Queiros (cl)とシルビア・イリオンドSilvia Iriondo(voc)の二人の女性ミュージシャンが参加して「ブラジル、ミナス」と「アルゼンチン音響派」の香気をもたらしている。「近未来のフォークロリックな室内楽」とでも名付けたくなる不思議な越境性を感じる音楽なのだ。
一馬君から新しいカルテットを作るという話を聞いたのは最近のことだ。新たに参加する福盛進也は2018年『For 2 Akis』(ECM-2574) で日本人のジャズ・ミュージシャンとしては菊地雅章についで二人目のリーダー・アルバムをECMからリリース、爽やかな波紋を呼んだドラマー。新しいユニットの初めてのライブとして見逃すことのできない新鮮な顔合わせだ。
7月9日のライブはカルテットによる第二日目。2セット11曲の中の7曲が『FLOW』よりで、藤本一馬の6曲と林正樹の1曲。他に林のアルバム『doux』と林/西嶋のデュオアルバム『El retratador』から各々1曲、福盛進也のアルバム未収録の2曲のオリジナルという充実した構成だった。
藤本一馬は1998年にヴォーカルのナガシマトモコと結成したユニットorange pekoe(オレンジペコー)で知られる。ブラジル音楽やブラックミュージック、ジャズの影響を反映した日本語のポップミュージックだ。「J—POP」にはアメリカとイギリスの音楽の影響があまりに大きい。対してorange pekoeでは1998年の時点での新しいブラジル音楽までをとりいれて異例のヒットとなったところがユニークだ。まだ「ブラジル音楽」と「ボサノヴァ」との区別が難しかった時代にorange pekoeからブラジル音楽やワールドミュージック、ジャズを「教わった」若い世代が数多くいた。その評価と影響は現在も変わらない。
藤本一馬のソロでの活動はラルフ・タウナーやエグベルト・ジスモンチなど独特のベーシックを持つ先人たちへのリスペクトと愛から出発している。そもそも、その「先人」の見極め方が普通ではない。ミナスやアルゼンチン音響派など汎アメリカ的な新しいフォークミュージックとの連携も大きい。カルロス・アギーレ(p)、アンドレ・メマーリ(p)、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート、最近ではギジェルモ・リソット(g)たちとの共演、国内では伊藤志宏(p)、中島ノブユキ(p,comp) 、小沼ようすけ(g)などとデュオ作品や活動をへて彼の音楽はゆっくりと特別な世界へと醸成されてきた。 他方、林正樹、西嶋徹はジャズやポップ・ミュージックとの活動の他にピアソラ以降のアルゼンチン音楽にも向かい合ってきた。これら三人の独自な活動歴をみていると、その時代、その時代の様々なワールドミュージックの血脈がからみあって未来に向かって結合していく「さま」がみえてくるようだ。
新たに加入した福盛進也のドラムスは大きな空間、世界をもトリオの音楽に与えていた。縦線でのビート本体をあまり刻まずに、そっとおおらかに包みこんで触れていくたゆとうような独特のグルーヴがある。なんども聴き込んでいたはずの<Surface>や<Prayer>が彼の参加で全く違うスケール感で大きな空間に展開されることになった。日本人の微温系の音楽家たちが作り出すものとしては異例なほどに地域性を超えていて、音楽が架空の辺境に溶け込んでいく。そんな世界にまで到達してしまったようだ。 一馬君とスタジオでの「ECM話」は果てしなく続いていた。ラルフ・タウナーやオレゴンの話で過ごした日々がなつかしい。彼は当時からチャーリー・ヘイデン、ヤン・ガルバレク、エグベルト・ジスモンティの「マジコ」(Magico)やドン・チェリー、ナナ・ヴァスコンセロス、コリン・ウォルコットの「コドナ」(Codona)のような超個性派の天才型のミュージシャンたちによるユニットを夢見ていたようだ。いま、自分たちのグループでもそのような理想の実現をめざしてしていることは間違いないと思う。その最初の瞬間をかいま見ることができた。喜びに満ちたライブだった。

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淡中 隆史

淡中隆史Tannaka Takashi 慶応義塾大学 法学部政治学科卒業。1975年キングレコード株式会社〜(株)ポリスターを経てスペースシャワーミュージック〜2017まで主に邦楽、洋楽の制作を担当、1000枚あまりのリリースにかかわる。2000年以降はジャズ〜ワールドミュージックを中心に菊地雅章、アストル・ピアソラ、ヨーロッパのピアノジャズ・シリーズ、川嶋哲郎、蓮沼フィル、スガダイロー×夢枕獏などを制作。

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