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Concerts/Live ShowsNo. 271

#1150 『ガブリとゾロリ』マキガミサンタチCD発売記念ライヴ

text and photos by 剛田武 Takeshi Goda

10月16日(金)東京・南青山 live space ZIMAGINE

マキガミサンタチ:
巻上公一 (Vo,Theremin)
三田超人 (Gt,Sampler)
坂出雅海 (Bass,iPad)

15年ぶりの2ndアルバム『ガブリとゾロリ』(⇒Disc Review)をリリースしたばかりのヒカシューの別ユニット「マキガミサンタチ」=巻上公一・三田超人・坂出雅海のCDリリース記念ライヴが南青山骨董通りのライヴバーZIMAGINEで開催された。コロナ禍の影響で会場に足を運んだ観客は限られていたが、音声のみの配信があったので感染の心配なしに自宅で楽しんだファンも多いだろう。しかし「音声のみ」ではこのトリオの面白さの全貌を知ることはできない。CDや配信で目まぐるしく変幻する演奏を聴きながら、ステージ上で何が起きているのか想像して楽しむのも悪くないが、隠された謎を解くことが出来たら楽しみが倍増するに違いない。なにしろ即興音楽家&ヴォイス・パフォーマーとしてヒカシュー以外でも様々なソロ/セッション活動を行う巻上はもちろんのこと、坂出はヒカシューのドラマー佐藤正治とのユニット「黒やぎ白やぎ」、三田はやはりヒカシューの清水一登(key)にdoubt music社長・沼田順(g)を加えたトリオ「インプロばか。」と、それぞれ別ユニットでも活動する芸達者の曲者揃いである。

自粛期間中にアーカイヴを整理しながら巻上が発掘した過去のライヴ音源を聴いてみたら予想外に面白かったのでリリースすることになったのが『ガブリとゾロリ』。即興演奏だから当然楽曲タイトルは存在しない。そこで半分(横浜エアジンのライヴ)は巻上が敬愛する俳人・西東三鬼の俳句からタイトルに借用して、のこりの半分(代官山UNITのライヴ)は巻上が三鬼風のタイトルを考えたという。言葉遊びでありながら、芸術性と文学性を兼ね備えたイマジネーションは、アートワークのヴィジュアル・アートにもつながっている。今回は視覚的要素をCDジャケットから実写=3人の生身の演奏家に移して、聴覚・視覚・想像力がフル稼働するライヴ・パフォーマンスを見せてくれた。

ベース、テレミン、ギターの他に足元やテーブルの上に置かれた民俗楽器や音具やエフェクターの数々を見るだけで興味が掻き立てられる。特に存在感を誇るのは金色にそそり立つバリトンサックス。ヒカシューの2代目サックス奏者の故・野本和浩の遺品だという。梅津和時の元にあったのを、巻上が引き取ったが、新宿ピットインに預けておいたら転倒して破損。修理に出していたのが最近戻ってきたばかり。期せずして、そんな所縁のある楽器を巻上が初めて人前で吹く歴史的な場面に立ち会う幸運にも恵まれた。

メンバーが順番にきっかけとなるフレーズやリズムを提示して即興演奏が展開していく。特に何分間とは決めてはいないとのことだが、短いと1~2分、長くて5~6分で次の順番に移るスタイルは、まるでお笑い芸人のショートコントのようだ。丁々発止の“ザ・即興”だったら息苦しい緊迫感でやる側も観る側も疲労困憊してしまうだろうが、さすがに40年近く一緒に活動する三人のこと、時に笑顔が零れるリラックスした演奏は決して息切れしたり、モチベーションが枯渇したりすることはない。彼らの即興演奏の肝はリアクションの早さにある。ひとりが発した音を聴いて即座に楽器/演奏法/音色/旋律を選択し、三者三様の演奏でアンサンブルを作り出す。それは音や楽器だけの三重奏ではなく、50年前ならSpiritual Unityと呼ばれたであろう三つの精神の共同体である。キーの押さえ方もたどたどしい巻上が抱える(外見も含め)ゾウアザラシのようなバリトンサックスのブローが、三田と坂出のギターやベースやサンプラーと交わると、ヒューマンドラマのエンディングを思わせる哀愁の調べに聴こえる不思議がマキガミサンタチのマジックだろう。

インプロと言ってもジャズでもロックでもクラシックでもエスニックでもない。特定のスタイルに囚われない独自のスタイルは、“分かりにくい音楽こそ面白い”と宣言するフェスティヴァル『JAZZ ARTせんがわ』の精神を個人的なレベルで実践している証拠である。ひとつの言葉・概念・感覚では捉えきれないはみ出し者=アウトローが集まって一緒に音を出す。そのほうが絶対面白い。謎を創造し続ける3人の屈託のない笑顔に心が生き返ったひと夜だった。まもなくリリース予定のヒカシューの新作も待ち遠しい。(2020年10月27日記)

▼文化芸術活動継続支援事業・採択を受けて2020年10月29日に決行された『マキガミサンタチ無観客突然ライブ 』動画

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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