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Concerts/Live ShowsNo. 291

#1222 田崎悦子ピアノリサイタル/Joy of Music Series 第3回/Joy of Schubert

2022年6月5日(日)@東京文化会館小ホール

Reported by Kayo Fushiya 伏谷佳代

〈出演〉

田崎悦子 Etsuko Tazaki (ピアノ)

〈プログラム〉
フランツ・シューベルト Franz Schubert;

ピアノ・ソナタ第19番ハ短調D.958(遺作)
ピアノ・ソナタ第20番イ長調D.959(遺作)
ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調D.960(遺作)


Joy of Musicシリーズもいよいよ感極まれり。1曲で40分強もある遺作のソナタを、休憩を2回挟んで一夜で弾ききるヘヴィ級の重量である。シューベルトの生涯がわずか31年間であり、実質音楽家として過ごした時間はさらに短いという事実に想いを致すとき、このような「万人受けする」とは言い難い壮大な規模の楽曲が没後200年を経て極東で聴かれ、奏されているという現実。その峻厳さにまず打たれる(裏を返せば、今現在万人受けしているものが200年後にどれだけ残っているのか)。そして、作曲家が血を吐くようにして絞り出した音魂の数々を現代に蘇らせた田崎悦子の演奏は、持ち前のドラマティックな表現力を一旦底に沈め、静謐なテンションの持続のなかで裏打ちのように浮かび上がらせてゆく。これでもかと変転する調性は、ともすれば先行きを考えない若き作曲家の冒険心のようにも受け取れるが、その気まぐれさを損なうことなく、触媒に徹して音色にすべてを集約させてゆく透明な感性。全体から部分が透視されるがごとく、個々の瞬間が粟立つ。細部まで血肉化されたテクニックが生み出す、匂いたつ響きの層。ベーゼンドルファーの美点が存分に引き出され、リヴァーブ豊かに降り注ぐ。3曲とも、とりわけ緩徐楽章で田崎の趣味のよいリリシズムが浮き彫りに。湿度変化までを感じさせる田崎の音色は、雄大かつ深遠な音風景を描く。D.959アンダンティーノでの乾いた明るさが混濁したうねりと変化するさま、D.960アレグロでの慰撫と輝きが同居する音色の存在感―指先からこぼれ出る表情の多彩さに改めて驚く。そこにはシューベルトの音楽がもつ稚気が降臨している。あるのはただ、人間による後付けの解釈などものともしない「永遠の実在」へのリスペクトだ。(*文中敬称略)


関連リンク;
https://www.etsko.jp/

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。欧州に長期居住し(ポルトガル・ドイツ・イタリア)各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評(月刊誌/Web媒体)、演奏会プログラムやライナーノーツの執筆・翻訳など多数。

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