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Concerts/Live ShowsNo. 308

#1276 早稲田大学モダン・ジャズ研究会60周年コンサート

text by Keiichi Konishi 小西啓一
photo by 松尾香龍

2023年11月12 (日)
早稲田大学モダンジャズ研究会 創立60周年記念コンサート
開場14:30/ 開演15:00
渋谷総合文化センター大和田さくらホール


今、ジャズ(モダン・ジャズ)を学ぼうという学生は、どうするのだろうか…。ほとんどは国立音大や洗足学園大などのジャズ科を持つ音楽大学に入学…ということなのだろう。さらに資金的にも意欲面でも満々な向きは、バークリー音大やジュリアード音大等々、本場の音楽大学に留学することになるのだろう。しかし、30年ほど前まではそんなジャズ科のある音楽大学などは、日本にほとんど存在しなかった。そんな我が国でモダン・ジャズという音楽が紹介され、大人気になった1960年代後半から80年代ぐらいまで、それなりの日本のシーンで貢献を果たしたある学生団体、それが早稲田大学モダンジャズ研究会、通称“ダンモ研”だった。なにせジャズをやりたいためだけに全国から早稲田大を目指した…などという連中も結構いた時代もあったというのだから…。タモリ、チンさん(鈴木良雄)や増尾好秋から若手随一のピアニスト永武幹子まで、数多くのミュージシャンやシンガー、そしてジャズ関係者を輩出したこの歴史あるクラブが、創立60周年コンサートをこの11月12日に渋谷のさくらホールで開催した。じつは60周年は2年前のことだったようだが、折りからのコロナ禍で今年にずれ込んだという次第だが、それだけにこの手のコンサートとしては、クラブの高齢OBとしていささか手前味噌にもなるが、かなり出色の内容だったと思う。

この早稲田ジャズ研、60余年の歴史を有するだけに、OB・OGだけで700名近い人数を擁しており、それだけでチケットはこのホールのキャパシティーほとんどどは捌けてしまうし、実際完売だったとも聞く。開演の30分ほど前には、ホールの入り口から階段まで100名を超す入場者が並び、最近のジャズ・コンサートではまずあまりお目に掛から無いような活気ある光景が現出され、そこここでOB連中の和やかな交歓の風景も見られた。会場の入り口で手渡された豪華なパンフレットは、LP ジャケット仕様で、“BN”を代表する名盤『クール・ストラッティン』を模した仲々に洒落たもの。巻頭の早稲田大学総長挨拶などに続き、恥ずかしながらぼくとジャズ評論家の岡崎正通くんとの「ワセダ・ジャズ研対談」が、4ページに亘って堂々掲載。おこがましいが仲々に嬉しくも結構面白い中身で、ずらずらと駄弁ったものをよくまとめ上げてくれたと,編集スタッフにはまことに感謝である。

さて肝心のコンサートの方だが、これの進行はぼくと同じラジオ・ディレクターの後輩で、日本のサルサ&ラテン・ジャズ界の権威の岡本郁生くんが担当、膨大なOB・OGの中から50名弱を選び出し、それを7つのグループに纏め、それぞれが先輩後輩の垣根を超えじつに見事な演奏を3時間半に亘って繰り広げ、少しも飽きさせない。このあたりの岡本君の手腕も光った。一部と二部の間にはかつての文学部の隅に在った音楽長屋、今はこぎれいな建物に変わった音楽部室を、タモリが現幹事長でラッパ吹きの滝本寧々嬢の案内で訪れるヴィデオも挿入され、かつての良き日を思い起こさせる進行構成などもグッド。滝本嬢のタモリを前にしても少しも臆せぬ案内役、これもご立派の一言です。

7つのグループはまずは何と言っても人気者、森田一義君ことタモリがリーダーの“ジャズ・タモリ・バンド”。これにはNY帰りの実力派=なら春子さんをはじめ、滝本嬢そしてタモリの同期の面々も参加し、御大も楽しそうに出鱈目スキャットを絶叫していた。また名曲〈夜空のムコウ〉を書いたシンガー・ソング・ライターの川村結花(彼女もジャズ研 OG)をリーダーとする「河村鉄工所バンド」、さらに佐藤達哉を筆頭にした4人のサックス猛者揃い踏みの「フォー・テナー・ミーティング」、信州ジャズでも知られる安曇野の歯科医にして長野ジャズ界の実力者、伊佐津和朗(vib)くんがリーダーの「小島歯科医院バンド」、さらにぼくの小・中・高そして大学の後輩で、なんと小学校時代と大学時代の音楽サークルでも後輩という稀有な仲のレジェンド・ベーシストにして只の酔人=グズラこと望月英明を慕う、永武幹子や俊才サックスの中山拓海などが参加した「92モンキーズ・バンド」などが次々と登場、それぞれ妙演を聴かせた。これらのトリはやはりJジャズの主要メンバーでもある、鈴木良雄と増尾好秋による〈ソニー・サイド・アップ・モア〉。この2人が貞夫さん(渡辺貞夫)のバンドに抜擢されたことにより、早稲田ジャズ研は一躍日本全国にその名を轟かせることになり、その後に鬼才タモリが九州の地から突如出現し、世間を大いに騒がせたのだった。

そうした7バンドの中でも異色なのは、フリー・ジャズと向き合う演奏を展開した「ユニット℉」。この手のコンサートでフリー・ジャズが登場することはめったに無いので、じつに興味深いものだったし、その演奏も充分に聴き応えあるものだった。バンドのリーダーは「渋さ知らず」等で活躍するトランぺッターの北陽一郎くんだが、バンドにはジャズ・チューバの吉野竜城くんも加わり、今の色合いをも強烈に醸し出していた。さらに驚くことにこのバンドには、社会派漫画『連合赤軍』や諸々のエロチック漫画の熟達としても知られる、山本直樹くんも参加しており、本当にびっくり。噂に聞く彼の演奏も初めて耳にできて、大変に幸運でもあり嬉しくもあった。

まあそれにしても60周年、OB・OGだけでも700名強、じつに多士済々な面子が集まっているものである。ステージに上がった新進プレーヤーとしては、やはりピアノの永武幹子さんと、もうひとり横浜のちぐさ賞を受賞した注目のテナー奏者の中根佑紀くん、この2名の才が際立っていたように思った。とくに中根くんはその評判を以前から聞いていたものだが、その澄み切った音色、快調なフレージングなど評判通りの素晴らしさで、共演したチンさん(鈴木良雄)も、そのテナー・プレーを高く評価していた。

いずれにせよ、早稲田ジャズ研60周年オメデトウ‼、そして何時までもこのクラブが続いて欲しいものでもある。

Finale

 

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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