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Concerts/Live ShowsNo. 313

# 1299 平手裕紀トリオ

2024年3月2日 成城学園前駅 The Moment Jazz Club

text by Kazune Hayata 早田和音
stage photos by Saisei Masaki 正木彩生


平手裕紀トリオ 

平手裕紀(p, tp) 宮地遼(elb) 小田桐和寛(ds)

1st
Breeze
Visions
Into the Labyrinth
Lalo and Louie

2nd
Fingerprints (Chick Corea)
A Vida Feliz
So Far Away (Ryo Miyachi)
Jade

Encore: Neverland

*作曲者の表記のない曲は平手作曲


名古屋音楽大学在学中から演奏活動を開始し、1stアルバム『First Step』を発表。同学ジャズ科ピアノ専攻を首席卒業した後は、自身のリーダー活動と並行しながら、ケイコ・リー(vo)や五十嵐一生(tp)、大坂昌彦(ds)、ジェイ・トーマス(tp)、小濱安浩(ts)、中林俊也(as)、竹内勝哉(g)ら数多くのアーティストと共演。精力的な活動を展開する気鋭のピアニスト、平手裕紀がトリオ編成による新機軸を打ち出した。共演するのは、宮地 遼(b, elb)と小田桐和寛(ds)のふたりだ。ニューヨークでの活動を経て2018年から国内でのキャリアをスタート。これまでに『November』、『now it is』という2枚のアルバムを発表するほか、自身のバンドやbzn trioなどで活躍する宮地 遼。そして、自身のリーダー・バンドを主宰しながら、馬場智章(ts)、佐藤潤一(b)、広瀬未来(tp)、渡辺翔太(p, kb, org)、池本茂貴(tb)ら数多のアーティストから共演オファーを受ける超実力派ドラマーの小田桐和寛。その3人が揃うスペシャル・トリオのライヴが開催されるのは、成城学園駅の目の前にあるThe Moment。HPシェル構造によって生み出される繊細で豊かな音響と、ハンブルグ・スタインウェイを具えた、日本屈指のアコースティックを誇るジャズクラブだ。最高の条件が揃ったライヴとあって、ホールは立ち見も出るほどの盛況となっている。

ライヴの幕開けを告げたのは平手のピアノだった。ピアノに就くや間髪を入れずに奏で始めた、キラキラと輝くようなタッチのアルペジオ。その軽やかなハーモニーとリズムがホールを満たした頃に、ふくよかで広がりのある宮地のベースがピアノのフレイズに彩りを加え、小田桐の切れの良いビートが演奏のスピード感をアップさせていく。1曲目は、平手が春の清々しい風をイメージして書いたという「Breeze」。タイトル通りの爽やかな演奏にホールから大きな拍手が湧きあがる。快調な滑り出しを見せたライヴはその後、力感ゆたかな「Visions」、優しげなテーマを持つ「Into the Labyrinth」、超高速ビートに乗せた「Lalo and Louie」という、さまざまな味わいを持つ楽曲を次々に披露。その中でオーディエンスの度肝を抜いたのが、2曲目に披露された「Visions」だった。高速5/4拍子を基盤にしつつ、随所に拍子の変化やトリッキーなブレイク、メカニカルなユニゾン・フレイズが盛り込まれたテーマ。その変化に富んだ曲を、時にファンキーに、時に流麗にと、多様に発展させていく3人。ローラーコースターを思わせるかのようなエキサイティングな展開が盛り込まれた「Visions」は1stセットのハイライトとなっていた。

1stセットから驚きに満ちた演奏を繰り出した平手トリオ。その2ndセットはさらなるサプライズが飛び出してくる。3人が超高速6/4の中で組んず解れつのダイナミックなインタープレイを繰り広げる1曲目「Fingerprints」の中で、ピアノを弾いていた平手は突然トランペットを手にしてブロウを開始。宮地&小田桐が繰り出すリズムの洪水を突っ切って飛び出してくる音圧の高いプレイに驚いたオーディエンスの拍手と歓声がホールに飛び交う。続く2曲目「A Vida Feliz」で、サウダージ感をたっぷり演出した後は、ノスタルジックな味わいの薫る宮地のオリジナル曲「So Far Away」を披露。優しげなメロディがオーディエンスを夢見心地へと誘う。平手のヴァラエティ豊かなオリジナルを中心に展開してきた2セットのライヴ。その最終曲に演奏されるのは、やはり平手のオリジナル「Jade」だ。カラフルで生命力に富んだテーマが、3人の疾走感あふれるインプロヴィゼーションへと連なっていくダイナミックな演奏は、ライヴのフィナーレを華やかに飾るとともに、平手の新トリオの大きな発展を確信させるものとなっていた。

早田和音

2000年から音楽ライターとしての執筆を開始。インタビュー、ライブリポート、ライナーノーツなどの執筆やラジオ出演、海外取材など、多方面で活動。米国ジャズ誌『ダウンビート』国際批評家投票メンバー。世界各国のメジャー・レーベルからインディペンデント・レーベルまで数多くのミュージシャンとの交流を重ね、海外メディアからの信頼も厚い。

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