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音質マイスター萩原光男のサウンドチェックNo. 324

“音質マイスター” 萩原光男の聴きどころチェック #9『チック・コリア・トリオ/トリロジー3』
『Chick Corea Trio / TRILOGY 3』

text by Mitsuo Hagiwara 萩原光男

Universal  UCCJ-3048 ¥3,300(税込)

Chick Corea チック・コリア (piano)
Christian McBride  クリスチャン・マクブライド(bass)
Brian Blade ブライアン・ブレイド (drums)

1. ハンプティ・ダンプティ HUMPTY DUMPTY composed by Chick Corea
(Live at The Flynn Center For The Performing Arts, Burlington, USA / 2019)
2. ウィンドウズWINDOWS composed by Chick Corea
(Live at Philharmonie De Paris, Paris, France / 2020)
3. アスク・ミー・ナウ
ASK ME NOW composed by Thelonious Monk
(Live at Philharmonie De Paris, Paris, France / 2020)
4. イージー・トゥ・ラヴ YOU’D BE SO EASY TO LOVE composed by Cole Porter
(Live at Halle Aux Grains, Toulouse, France / 2020)
5. トリンクル・ティンクル TRINKLE TINKLE composed by Thelonious Monk
(Live at Teatro Campoamor, Oviedo, Spain /2020)
6. スカルラッティ:ソナタ ニ短調 K.9, L.413 : アレグロ SCARLATTI: SONATA IN D MINOR K9, L413 ALLEGRO composed by Domenico Scarlatti
(Live at Philharmonie De Paris, Paris, France / 2020)
7. スパニッシュ・ソング SPANISH SONG composed by Chick Corea
(Live at Philharmonie De Paris, Paris, France / 2020)
8 テンパス・フュージット TEMPUS FUGIT composed by Bud Powell
(Live at Mishima City YouYou Hall, Shizuoka, Japan / 2019)

2019~2020年ライヴ録音


《概要》
このアルバムを聴いて「凄い音だ! 」というのが第一印象です。
迫力という形容詞はピアノにはあまり使いませんから、今回のアルバムではベースにインパクトを感じ、試聴記を書きました。
力強いベースの打音から始まって、部屋の空気を揺るがす弓のボーイング、38cmウーファの超低域再生限界を試すほどの超低音がクリアに録音されています。私がジャズで聴いてきたウッドベースの凄いと感じた”シビれる”音を網羅していると言っても過言ではなく、楽しめました。
このアルバムは5ヶ所の異なったホールで録音されており、それぞれのホールの音の違いも気にしながら聴いて欲しいと思います。日本のホールもあり、複雑な思いです。
勿論、チック・コリアのピアノも素晴らしい。このアルバム、大いに楽しめるのは、彼が、ロック、クラシック、フュージョンなど経験してきた集大成ともいえるアルバムだからです。音楽的にも高いレベルにあります。

1、『トリロジー3』というアルバム
①チックコリアの音楽
すでに語り尽くされたチック・コリアの大ヒット・アルバム『リターン・トゥ・フォーエヴァー』ですが、このアルバムについて私は、四ツ谷のジャズ喫茶”いーぐる”のオーナー後藤雅洋氏が『新ジャズの名演・名盤』(講談社現代新書)に書いた次のメッセージが好きです。
「コルトレーン、アーチー・シェップに代表される、重苦しいフリーク・トーンが渦巻く薄暗いジャズ喫茶に、このアルバムがかかったとたん、さながらSF映画のように、店の天上がパックリと割れて青空が顔を出したような錯覚にとらわれたものだった。」
1970年代初頭の日本のジャズシーンは、コルトレーンを筆頭とするフリージャズでなければジャズじゃないという空気でした。社会人になりたての私は、学生時代から聴き続けていたロックに没頭していましたが、オーディオ・メーカーに入社した手前、ジャズも聴かなければ、と意気込んでいたのですが、難解なコルトレーンに飛び込むことはできないでいました。
カツオ鳥 (カモメのように) が飛翔するジャケットの名盤『リターン・トゥ・フォーエヴァー』ですが、チック・コリアはこの鳥の様に閉塞する時代の空気を突き抜けて突然現れたような衝撃を世界に広げました。

このアルバム自体の音楽に、このようなエポックメイキングなものを感じることは無いにしても、コルトレーンを哲学的に腕組みして聴くようなジャズの聴き方がある一方、チック・コリアのジャズは、そこにとどまって思考するよりも多様多彩な音符を散りばめて聴く者の想念が追いつくのを振り切るように軽快に走り回る、という音楽の感覚は健在です。私は、ジャズについて多くを語れるほどのものではありませんか、少なくとも今回のアルバムではそう感じました。

② 『トリロジー3』の音楽
さて、そんなチック・コリアが作った今回の『トリロジー3』ですが、彼は、フュージョン、ロック、クラシック音楽と音楽の多様さの中を駆け抜けて逝きましたが、一つ言えるのは、例えばクラシック音楽に飛び込んで行ってもクラシック音楽の巨匠を志すのではなく、ロックにおいても同様で、それぞれのジャンルでジャズという軸は変えずに弁証法的に音楽の高みに登っていったのです。
そのような彼の音楽性ですが、しかし例えば今回のピアノトリオという協働作業においては、彼は音楽の情念の世界をクルーと共に作っている、そのことを大事なことだと考えて音楽をやっていたことがわかります。
『トリロジー3』にあるベースの表現力に、そのことを感じました。

前置きが長くなりました。以下、『トリロジー3』に於けるベース論、といきましょう。

③ ベースなど低音の味わい
今回のアルバムで最も凄みを感じ、圧倒されたのは7曲目の<スパニッシュ・ソング>です。
ベースの輪郭は明確でキレがありリスナーを強力なパンチで圧倒し、さらにその下の帯域のブルーウ〜ンという地を這うような低音も録音されていて引き込みます。
この曲は、フィルハーモニー・ド・パリ(2015年開館、約2500席) というホールで録音されたもので、アルバムの2、3、6、7曲目がそれに当たります。
これに比べると4曲目のフランスのアール・オ・グラン (元市場を1974年に改装した約2200席) や、スペインのカンポアモール劇場 (1892年開館約1500席) の録音は、パンチや音のキレはそこそこですが、会場の低音のアコースティックが感じられる豊かな残響を聴くことができ、それが厚みや包まれ感を形成し、これはこれで楽しめます。
特にスペインの会場は、スペインらしい音の輝きも感じられ、良い雰囲気です。

残念なのは8曲目の三島市民文化会館(1991年開館、約1200席)ものです。
ウッドベースは、低音の高い周波数部分で表現されベースの厚みや会場のホールトーンは少なめです。
ただし、どんな再生機でもクリアに聴こえますので、このアルバムはその辺りを狙った音作りのようです。

2.あとがき
聴き終えて、このアルバムの迫力という面ではハードロックにも通じるものがあります。とはいうもののロックのように粗野かというと、チック・コリアのピアノには品位があり、音楽全体は、力強いベースラインの上にピアノが乗っている構造で、品位に加えて豪華さを持って完成しています。
低音に関して蛇足ながら付け加えると、超低音で何ヶ所かゴーンという響く音が入っているなど、音作りのテクニカルな面で “遊び” さえ感じさせてしまいます。
コンサートホールのショールームのようなこのアルバムですが、やや他と異なる音のまとめ方は8曲目の日本での録音です。
こういった日本的な音まとめもやむなし、と感じるのは、上記のように遊びさえ感じさせてしまうような多彩で凄みのある低音の音作りは、日本人には、なかなかできないと思うからです。私自身も含めてですが。

多くの人に是非、聴いて欲しいアルバムです。

萩原光男

萩原 光男 1971年、国立長野工業高等専門学校を経て、トリオ株式会社(現・JVCケンウッド株式会社)入社。アンプ開発から、スピーカ、カーオーディオ、ホームオーディオと、一貫してオーディオの音作りを担い、後に「音質マイスター」としてホームオーディオの音質を立て直す。2010年、定年退職。2018年、柔道整復師の資格を得て整骨院開設、JBL D130をメインにフルレンジシステムをBGMに施術を行う。著書に『ビンテージ JBLのすべて』。

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