JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 2,630

音質マイスター萩原光男のサウンドチェックNo. 328

#13 『清水くるみカルテット/B & C, Live at A
〜トリビュート・トゥ・ショウジ・アケタガワ』

text: Mitsuo Hagiwara 萩原光男

Aketa’s Disk MHACD-2666 ¥2,800(税込)

清水くるみカルテット;
清水 くるみ (piano)
津上 研太 (alto sax)
石川 隆一 (bass)
山崎 隼 (drums)

1. Billie’s Bounce (Charlie Parker)
2. Couleur de Mars (火星)(Kurumi Shimizu)
3. City of Peace (George Adams)
4. Cravo e Canela (Milton Nascimento)
5. Black, Brown and Beautiful (Oliver Nelson)
6. Birdland (Joe Zawinul)

録音:M1,4&5 :2024年6月18日/M2,3&6:2024年11月4日 西荻窪・アケタの店
レコーディング・エンジニア:島田正明


1.概要
このアルバム、一聴して弾んで楽しい音で楽しめました。
曲目もバラエティに富み、BGM的にも音楽性が高くご機嫌なアルバムです。

オーディオの音を分かった人が録音してまとめたCD、と理解しましたが、それがリーズナブルな価格のコンシュマー・オーディオでこそ楽しめるところも、このアルバムの価値です。
ベースやドラムの低音が音の塊(かたまり)としてクリアで弾みます。それがすごく良い。
中高域は、もう少し響きとか残響をつけてまとめてほしいところですが、少し乾いた感じでまとめているところは、録音場所の影響もあります。このクラブは地下室なのです。地下室は外部の音が遮断されますから、特に中域・中高域は付帯音が少なく乾いた感じの音になります。
音の粒ダチがよく透明でクリアな音になります。
その効果で全体の楽器の存在感が強調されていて、このアルバムの音の特徴になっています。

音楽としては、清水くるみさんという女性がリーダーなので、そのことが全体の音と音楽のまとめにも表れていて、淑やかさ(しとやかさ)とか、慎ましさを感じます。
押し付けがましくない明るく品位がある、というところでしょうか。
このアルバムを聴かれる方も、明るく楽しく聴ければ、アルバム制作者の意図に叶うことになります。

2.おすすめの試聴方法
第一印象は上記の通りですが、このCDを楽しく聴くためには、おすすめのオーディオ・システムがあります。
筆者の試聴確認では、このソースを楽しく良い音で聴くには、ハイエンドでワイドレンジなシステムではなく、一般的なコンシュマー・オーディオが適しているようです。
今回、筆者が楽しく良い音で聴けたオーディオ・システムを紹介しましょう。
今回、楽しく良い音で聴けたのは、使い慣れて音の分かったラジカセ (正確にはラジオ+ CDプレーヤー)です。
このラジカセは私の標準試聴機です。私の在籍していた会社の長年のベストセラー製品で、音にも定評があります。

このコンポで聴くと、アルバム全体の曲が、特に楽器が生き生きと楽しくきけるのです。
制作者も音作りをよくわかっている人で、音の狙いも、ハイエンド・オーディオでの試聴よりも、一般の人がコンシュマー・オーディオで、楽しく聴いてもらう、というシチュエーションを想定して作られたCDか、と思います。

3.音作りのオーディオ的分析

このアルバムは、とても素晴らしい面があるものの、得意な面とネガティブな面もあります。
そのあたりを技術的に分析していきましょう。
 このCDは、一般的な装置で聴くと楽しめるものの、分析的にそれなりの装置で聴くと、いろんなことがわかります。
①録音など
このCDは、録音レベルが低めなのに気がついた方も多いと思います。
通常のCDに比べて少しボリュームを上げて聴かれた方が良いと思います。
理由は、ライブ録音なので、過大入力が入った場合の不具合対策として、サチレーションを避けるために、レベルを下げて録音しているようです。
低いレベルで録音したものの音傾向として、音が、ややアンダーというか湿っぽくなってカラッとした音になりにくい傾向があります。
②このCDの音をワイドレンジなオーディオ装置で聴いて分析する。
私のもう一つの音チェックのオーディオ・システムは、アンプが出力トランス付きマッキントシュで、スピーカーはJBL4320です。このスピーカーは38cmウーファの2ウェイのスタジオモニターシリーズと言われるものです。
このシステムで聴くと、低音は、地下室の低音らしく、かなり下の帯域まで伸びていて、音量を上げて聴くと、録音現場の音がよくわかります。
それほど広くない、30席ぐらいのジャズクラブというところでしょうか。ベースやドラムの音もディテールを聴くことができ、楽しめます。
しかし、伸びている低音をコントロールして締まりやキレのある音にするのは難しく、音楽への集中力がボケます。
いっそ低音が整理されているコンシュマー・オーディオのほうが音楽性が高くなるわけで、そこに制作者の狙いを感じます。

4.このグループの特徴・持ち味
①清水くるみカルテットとツェッペリンなど
ところで清水くるみさんは、ツェッペリンのナンバーも演奏するとのことで、YouTubeでツェッペリンIIIの <Immigrant Song>も確認しました。
私も、ツェッペリン世代としては大いにシンパシーを感じるところであり、このCDの試聴にも熱が入る、というものです。
そんな清水くるみさんのグループの作ったこのアルバム、清水くるみさんの音楽性など、次のようにまとめてみました。

まず、試聴にあたって渡された紹介文にも、ツェッペリンのナンバーを演奏することが書かれていて、どんな演奏なのか興味が湧いたわけですが、女性がリーダーなので、そのことが全体の音と音楽のまとめにも表れています。淑やかさ(しとやかさ)とか、慎ましさを感じます。
ツェッペリンもレパートリーにあると言っても、ガチガチのハードロック・テイストではなく、押し付けがましくない明るく品位がある音楽、という印象です。
②各曲の印象
そんな清水くるみさんのグループの音楽を明るく楽しく聴けました。
ノリの良い曲は4曲目ですが、ピアノがメンバーの演奏に溶け込んでいて、特別に清水くるみさんのリーダーシップで音楽ができていることもなく、全体の曲は好印象です。
つまり、メンバーのアーティストとしての技量が揃っているので音楽のバランスがとても良い、と感じました。
各楽器の演奏を5曲目で味わってみましょう。サックスの自由な演奏でのびのび楽しい。
ベースも脇にはいるがしっかり安定した音作りで聴いてて安心感があります。
この5曲目は楽器の活躍を味わうには良いと思います。
③清水くるみさんの音楽性
では、清水くるみさんの音楽性は、というと、2曲目は彼女の音楽性の深みを知るのに適切な曲です。
ほとんどがカバー曲で構成されている中で、この曲はCouler  de  Mars (火星)と題されていて、コンテンポラリー・ジャズといったところですが、他と雰囲気が違い、深みを感じこのような詩的なモノローグも良い。冒頭のソロに続いてベースとのダイアログになるところが聴きごたえがあります。
この辺りも、コンシュマー・オーディオで聴く方が楽しめます。

5.まとめ
音・オーディオということで聴いてしまうと、技術的分析でのハイファイ的音評価となり、あら探しに終始してしまいます。
しかし、音楽を楽しむための音のあり方、そのための音作りという視座がしっかりしていれば、録音現場の状況に関わらず、音楽を楽しめる音作りは可能です。

今回、コンシュマー・オーディオでこそ楽しく聴けて、清水くるみさんのピアノなど、豊かな音楽を楽しめました。
アルバム作りのスタッフの仕事、Good jobです。
5曲目に、そんなものが凝縮されています。

萩原光男

萩原 光男 1971年、国立長野工業高等専門学校を経て、トリオ株式会社(現・JVCケンウッド株式会社)入社。アンプ開発から、スピーカ、カーオーディオ、ホームオーディオと、一貫してオーディオの音作りを担い、後に「音質マイスター」としてホームオーディオの音質を立て直す。2010年、定年退職。2018年、柔道整復師の資格を得て整骨院開設、JBL D130をメインにフルレンジシステムをBGMに施術を行う。著書に『ビンテージ JBLのすべて』。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください