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Hear, there and everywhere 稲岡邦弥No. 314

#52 「瀬川昌久さん生誕100年記念〜瀬川さんが教えてくれたジャズサウンド」
四谷ジャズ喫茶いーぐる 連続公演 #707

text & photo by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

2024年5月11日 15:00~ 四谷ジャズ喫茶いーぐる
連続講演 #707「瀬川昌久さん生誕100年記念〜瀬川さんが教えてくれたジャズサウンド」
講師:村井康司 加藤総夫
オペレーター:後藤雅洋

正直なところ、僕は、オーナーの後藤雅洋さんとはライヴやコンサートでよく顔を合わせるものの彼の店「いーぐる」には数回しか顔を出したことがなかった。「いーぐる」は今でも日中は会話は厳禁というかつての正統派ジャズ喫茶の伝統を死守している数少ない店のひとつである。
評論家を招いての新譜紹介やレクチャーも正統派ジャズ喫茶の伝統のひとつで「いーぐる」の今回の講演は707回を迎えるという。後藤さんは他にも執筆やラジオのDJなどさまざまなメディアを通じてジャズの普及に献身しており、その活躍ぶりはアメリカのJJA(ジャズ・ジャーナリスト協会)であれば  jazz advocater として表彰に値するのではないかと思われるほどである。
ところで、今回のテーマは生誕100年を迎えた瀬川昌久さん(2021年12月29日没)が教えてくれたジャズサウンドでゲストが加藤総夫さん。瀬川さんが教えてくれたジャズ・サウンドは、クロード・ソーンヒル〜ギル・エヴァンス、デューク・エリントンである。僕が最初に瀬川さんにお目にかかったのはギル・エヴァンスの1972年の来日コンサートだった。菊地雅章の共演の希望を当時所属していたあいミュージックの鯉沼利成社長が実現させたもので、その後、旧トリオレコードがプロデューサー契約を結んだ菊池が最初に制作したアルバムが『ライヴ・アット・パブリック・シアター 1980』だった。最後にお会いしたのは2013年の東京JAZZに出演したトニー・ベネットのコンサート。感動のあまり先生をハグしたところ折れるのではないかと思うくらい華奢な身体付きだったことをよく覚えている。トニーが87歳、瀬川先生は89歳だった。
加藤総夫さんは1993年に2冊の著書『ジャズ・ストレート・アヘッド』、『ジャズ最後の日』を上梓、その後まったく彼の文章を目にすることがなくほとんど伝説化していたのだが、そのまま渡仏し研究生活に没頭されていたことが最近わかった。わずかに確認できたのが2019年の渋谷毅エッセンシャル・エリントンの渋谷でのコンサート。配布されたブックレットに掲載された渋谷毅と加藤総夫の対談は素晴らしい読み物だった。
当日は村井の問いに加藤が答えるという形で瀬川さんの思い出、瀬川さんを通じて学んだこと、ソーンヒル、ギル、デュークの音楽が語られ、後藤さんがLPやCDを再生するという形で濃密な時間が流れていった。加藤さんは、高校時代はモダンジャズ研究会、東大在学時はジャズ・ジャンク・ワークショップというビッグバンドでピアノと作編曲を担当しておられた、ということで名誉教授という現場を離れた現在、ジャズ界で」また健筆を奮ってもらいたい。別掲のインタヴューによると菊地もそれを望んでいたようだから。まずは、加藤さんが瀬川さんのために企画した6/29のコンサートで加藤さんの編曲になるソーンヒルの<Snow Fall>を楽しみに待ちたいと思う。

♪ 加藤総夫インタヴュー
https://jazztokyo.org/interviews/post-100254/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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