JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 17,045 回

Hear, there and everywhere 稲岡邦弥No. 296

Hear, there & everywhere #30「Mayumi Oka sings Jazz ~Orion<織音>2022~」

text & photos by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

2022年11月23日 Wed 15:00~
渋谷 JZ Brat Sound of Tokyo

岡 まゆみ(vo)
太田 剣(sax)
はたけやま裕(per)
柴田敏孝(p)
伊東佑季(b)


今年で5回目を迎える岡まゆみの恒例のリサイタル Orion<織音>、僕は縁あって今年で3回目。同伴はいつも岐阜から駆けつける原田雅之。彼はショスタコーヴィチの大ファンで自らもピアノでソナタなど奏でるのだが、一方ではいわゆる“ペラごろ”でヨーロッパまでオペラ鑑賞に出かける熱の入れよう。そんな彼をも魅了しているのが岡まゆみだ。

僕が彼女の存在を知ったのは数年前。エンジニア/プロデューサーでジャズ・ベーシストでもある塩田哲嗣氏から彼女のCD『初めてのJAZZ~Mayumi Oka sings Jazz』の音源を聴かされたのがきっかけだった。このCDは、劇団四季のミュージカル俳優でTVや映画で女優としても活躍してきた岡まゆみが初めてジャズに挑戦したアルバムで、塩田氏がNYの若手ミュージシャンを使って現地制作したものだった。レパートリーはオリジナル、ジャズ・スタンダード、J POPから演歌まで、今に続くバラエティに富んだ内容だった。“ジャズを歌う”と見得を切りながら過半が日本語の歌で、正直なところ僕の耳は伴奏を務めるNYの若手ミュージシャンのキレキレの演奏に惹きつけられがちだった。しかし、ジャズの門を叩いたばかりの彼女のジャズに対する真摯な態度と畏敬の念に好感を持ったのも確かだった。

さて、思わせぶりなイントロに導かれて登場した岡が歌う<Night & Day>から始まった今年の リサイタル、僕の聴いたマチネはインティメイトな雰囲気の中にも彼女の弛まぬチャレンジ精神が見え隠れする期待通りの内容だった。バンドは最後に聴いた2年前以来不動のカルテットで男女2名ずつから成る。岡が意識しているかどうかは分からないが、先日聴いた挾間美帆のデンマーク・ラジオ・ビッグバンドが19人のフル編成中、女性がトロンボーンにひとりという事実に驚いたばかりだったのだ。

CDから歌い続けている日本語の2曲、オリジナルの<朝が来るから>と坂本冬美の<夜桜お七>はとても楽しみにしていた。歌い込まれただけありさすがに完成度も高く、豊かな女の情念の表出は女優としての磨き抜かれた表現力の賜物だろう。アップテンポの4ビートの<朝が来るから>、タンゴと4ビートが交錯する<夜桜お七>の伴奏陣も出色の出来。ベースだけの伴奏で歌われた<酒とバラの日々>、パーカッションの加わった女性だけのトリオによる<朝日のあたる家>はまさに岡のチャレンジ精神が発揮された2曲だった。この日、<フィーヴァー>で初めて太田剣のバスクラを聴いたが、太田は曲によりテナー、ソプラノ、フルートと吹き分け決して手を緩めることはなかった。編曲は、ピアノの柴田俊隆が担当したと聞いたが。柴田は大黒摩季のツアーの合間をぬっての出演、ベースの伊東佑季はソロ・ベースのCDをリリース、多彩なリズムと音色でバンドを活性化したパーカッションのはたけやま裕は赤坂のクラブでのリーダー・ギグとそれぞれが独自の活躍(太田はスタジオで忙しい?)をする中での岡をサポートするひととき。岡のベテランらしい巧みなトークが醸し出すファミリー・ライクな雰囲気にコロナ禍に疲れた心を癒されたオーディエンスも多かったはずだ。そのハイライトは、お下がりのチャイナドレスを着た岡が客席の92歳の母親を紹介した瞬間だった。

©2022 三浦麻旅子
©2022 三浦麻旅子

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください