#31. 「反逆のジャズ」シリーズ
僕ら(原田和男、故丸茂正樹、稲岡邦弥)が旧トリオレコード(後にケンウッド・レコード)をホームグラウンドに、70年代初期から約10年間にわ たって自主制作、あるいは海外から取得したアルバムのなかから15作を「Rebel Jazz=反逆のジャズ」のコンセプトの下に選び出し、シリーズとして11月5日にCD発売されることになった。
シリーズ化の企画を持ち出したのはユニバーサル・ミュージックの浅井有セールス・マーケティング部長で、彼の意を受けて選出・監修を担当したのは高円寺で 中古レコード店「ユニバーサウンズ」を営む尾川雄介氏である。従来、このような企画はレコード会社のA&R(Artists & Repertoire)が編成を担当し、著名なジャズ評論家を名目的な監修者に仕立て、一筆紹介文をお願いし権威付けをしてマーケットに出す、というのが 通例であった。しかし、今回は、販売の戦略・戦術を担当するセールス・マーケティング部が市場の需要を組み上げ、中古レコード店のオーナーというユーザー と直結するいわばインターフェイス的立場の人間がユーザーの動向をにらみながら自ら立てたコンセプトの下に編成・監修している点が従来のパターンとは決定 的に異なる。ユニバーサル・ミュージックにはふたりのサムライがいると聞いていた。工藤浩己と浅井有である。工藤は2003年8月、「The …music HARDCORE JAZZ」と称する60・70年代の原盤から厳選した12枚のハードコアなアルバムをシリーズ発売、メジャーらしからぬ?企画でファンの度肝を抜いた。サ ン・ラー没後10周年記念リリース2枚、デレク・ベイリー、ミルフォード・グレイヴスを含む詳細については今般本誌JazzTokyoのジャズ担当副編集 長に着任した音楽人・多田雅範がしっかりアーカイヴ化しているので参照されたい;http://homepage3.nifty.com/musicircus/main/hcj.htm)。 浅井の前歴は詳らかではないが、何年か前に、1973年挙行の一大イベント「インスピレーション&パワー フリージャズ大祭1」の周年記念に全出演バンド(つまり14バンド)のCD化の要望を人づてに寄せてきた。このイベントの記録は一部の出演バンドの演奏を 2枚組オムニバスとしてリリースされたものと、山下洋輔トリオと富樫雅彦+佐藤允彦デュオの2バンドのみがCD化されているに過ぎない。全記録が公表され れば日本のフリージャズ史上画期的な事件となる。結果は、他所で書いたことの繰り返しになるが、旧トリオレコードの原盤を管理運営している会社が倉敷料節 約のためにすべてのマスターを廃棄していたために実現することができなかった。今回のシリーズで監修を担当する尾川雄介は、最近、塚本謙氏との共著で『イ ンディペンデント・ブラック・ジャズ・オブ・アメリカ』(リットー・ミュージック)を上梓、充実した内容に喝采が上がっている;
http://www.rittor-music.co.jp/books/13317103.html
http://archive.jazztokyo.org/library/library079.html
彼には、塙耕記との共著で『和ジャズ・ディスク・ガイド』(2009年/リットー・ミュージック)という1950年代から80年代におよぶ日本のジャズ・アルバムを集大成した著作もあり、この時代の内外のジャズを中心としたアルバムに精通した音楽人ということができる。
浅井有と尾川雄介のふたりに会って驚いたことは、ふたりが当時旧トリオレコードからリリースされためぼしいジャズ・レコードを帯付きで保有していること (コレクターではない僕は、帯のない国内盤は帯付きに比べて格段価値が下がるという事実を知らなかった!帯は店頭でユーザーにアピールするためのもので、 買ったレコードの帯は捨てるかスリーブの中に畳み込んでいた。アートワークが帯で隠れることを嫌ったのだ)。これらのアルバムがリリースされた70年代と いうのは彼らが生まれて間もない頃である。もちろん旧トリオレコードは彼らのコレクションのごく一部に過ぎないから、全体のコレクションは膨大なものにな るはずである。僕自身、自分が生まれた頃に録音されたチャーリー・パーカーのアルバムを少しはコレクションしているのだが、それはあくまで聴くためで収集 することが目的ではない。
彼らが旧トリオレコードの原盤のなかから15枚を選んでシリーズ発売する意図は、今の若いリスナーに70年代のジャズ を聴いて欲しい、という明確な理由にある。今回選ばれた15枚は、後発メーカーだったトリオのインディペンデント性がよく反映された作品で、彼らの嗅覚で は“Rebel=反逆”の匂いの強いものであるという。それをとくに意識して制作していたわけではないが、ジャズという音楽の当然の使命として時代の息吹 を伝えることはモットーにしていたので、今、彼らが“反逆”の匂いを嗅ぎ付けるということは70年代という時代がすなわちそういう時代性を帯びていたとい うことだろう。
かつて僕らが70年代に制作したフリー系のアルバムを中心に30作まとめて「70年代日本のフリージャズを聴く」というタイトルでシリーズ発売されたことがあった(これも多田雅範が見事にアーカイヴ化してくれている);
http://homepage3.nifty.com/musicircus/main/70free_1.htm
何れにしても自分らの仕事があるテーマの下にシリーズ化されて改めて発売されることは、大げさに言えば出版社が作家の全集を組んで刊行するようなもので制作者冥利に尽きる、というべきだろう。しかも販売元は、今や音楽業界では一強となったユニバーサルである。
http://www.universal-music.co.jp/rebel-jazz
https://www.facebook.com/pages/反逆のジャズ/1547096842179661?fref=ts
僕はといえば、息子の年齢にあたる尾川雄介氏を相手に「脱世代対談」と称し、問われるままに当時の制作の経緯などを語ってリスナーに音楽が生まれてきた時代の背景を少しでも感得してもらうお手伝いをしている;
http://microsites.universal-music.co.jp/ecrm/rebeljazz/
なお、CDは帯を含めてリリース当時の姿をきっちり再現することになっているが、音質は24bitデジタル・リマスタリングを施し、ディスクはSHM=CD仕様で音質の向上が図られている。