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小野健彦の Live after LiveNo. 270

小野健彦のLive after Live #101~#108

photo & text by Takehiko Ono 小野健彦

#101 8月29日(土)
横浜馬車道・上町63
http://kanmachi63.blog.fc2.com/

渋谷毅 (p) + 市野元彦 (g)

春先に続いて2度目の Live after Live 封印のまま、長月へ突入かと思われた今宵、やはり思い直して、大好きな表現者達にお逢いするため、大好きなライブの現場へと向かった。

そう、8/1以来のライブの現場訪問は横浜馬車道・上町63。

私自身は、この酷暑にめげずの当然のマスク装着にて、いつもの様に空いた路線と時間帯を選んでの移動。 一方の店側も、ソーシャル・ディスタンスを考慮した凡そキャパ半分の客数9名に限定し、入店時のアルコール消毒徹底&マスク必着、加えてセット間の換気徹底と、万全の構え。そんなすっかりと定着した “新しい日常” の中、今宵のバンドスタンドには、ピアノの渋谷毅氏がギターの市野元彦氏を伴って現れた。このコンビとしてはこのハコでのデビュー戦。私は、渋谷さんとは、ちょうど半年前の同所での石渡明廣氏とのコンビ「月の鳥」でお逢いして以来のご対面。これだけの期間お逢いしなかったのは、勿論初めてのことである。渋谷さんの、所々に秘めた獰猛さが見え隠れしながらも訥々とした語り口で奏でられるピアノの音が静かに流れ出すと、途端、場の空気が震え始める。そう、いつも堪らないこの瞬間。この空気の揺らぎを体感する充実感を味わいたいがために度々そのライブの現場に足を運ぶのだということを改めて実感する。対する市野さんも、独特のタイム感で丁寧に音層を重ねて行く。まるで、今目の前にある空間で、2人の演者にしか見えない機織をしているかのような印象を受ける。ごく、密やかに、ごく、緩やかに一疋の織物が紡がれて行く。出来上がったタペストリーは、モノトーンの予想を裏切る、得も言われぬ多彩色の幾何学的な絵柄であった。手織り物は、特にその織りはじめが肝要と言うけれど、今宵の冒頭三曲、それらはすなわち、S.スワローの≪Peau Douce≫、C.ミンガスの≪Duke Ellington’s Sound Of Love≫、そうして、 L.コニッツの≪Subconcious- Lee≫であったが、それらの醸し出した妙味溢れる滔滔とした滑り出しを受けた構成が、今宵を秀逸なる完成型へと誘ったのは、当然の帰結と言えた。

#102 9月03日(木)
新子安   Cafe-dining & Bar しぇりる
http://www.barsheryl.com/

石川真奈美 (vo)  高田ひろ子 (p)

今夜のライブは約2か月振りの新子安 しぇりる。

こちらは、引き続き9月もコロナ感染予防対策のため、完全事前予約制の限定数来店+全ライブ有料配信等の体制を継続させることに。そんな万全の構えの中、今宵のステージには、ボーカリストの石川真奈美氏とピアニストの高田ひろ子氏が登場した。
ピアノフォルテのワイドレンジを自在に操りながらの豊かな表現力を持つ真奈美さんの唄声と、そのタッチのすぐ先で、当意即妙にまるで声の如き響きを紡ぎ出すひろ子さんのピアノとの化学反応を想像し、否が応でも事前の期待は大きく膨らんだ。
果たして、卓越したヴォイシングを駆使する者同士の幸せな巡り合いは、互いに対する何とも思慮深い真心を響き響かせ合いながら、こちら聴き人を軽やかな愉楽のひとときへと誘ってくれた。

#103 9月04日(金)
町田  Jazz Coffee & Whisky  Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/

澤田一範カルテット(澤田一範as 竹内亜里紗p 粟谷巧b 小沼奏絵ds)

ビ・バップの創始者 C.パーカー(バード)の生誕から丁度100年を迎えた8/29の約1週間後に、東洋の小さき島国の首都東京のそれも南の外れの街・町田に世代を超えたビ・バッパー達が舞い降りた夜。
今夜のライブは@町田ニカズ。
今宵のバンドスタンドには、燻銀のアルトサックス澤田一範氏のカルテットが上った。脇を固めるのは、ピアノの逸材竹内亜里紗氏を初めとして、今年の渡辺貞夫氏(ナベサダ)バンドにも抜擢中のベース粟谷巧氏、さらには最近その進境著しいドラムスの小沼(コヌマ)奏絵氏である。

バンマスの澤田氏は、我が国のバードサクセサーとしては、最右翼のひとりに位置するのは万人の認めるところであり、各種スモールコンボでの意欲的な活動に加えて、名門ビッグバンド「.ニューハード」の主要メンバーとして、さらには自ら主宰する withストリングス・プロジェクトもその永年の活動を経て大きな成果を産み出している。
私は澤田さんとは、約1年振りの再会であったが、相変わらずその胸のすくようなキレと艶のある節回しは痛快の一言に尽きた。
支える若手リズムセクション各位の瑞々しくも手堅い奮闘振りもおおおいに好感が持てるものであり、今宵は、とにもかくにもオーソドックスなビートジャズの醍醐味を味わい尽くすことが出来、何ともスカッとした心持ちになった充実のひとときであった。その澤田さんに関して今宵ご本人からお聞きした大ニュース。諸事紆余曲折あり、10/末を以て、生活 & 活動の拠点を故郷北海道に移されると言う。未体験の方は、ぜひ共ライブ日程をチェックされたしと切に願う。

#104 9月06日(日)
関内 Jazz Spot ADLIB
http://www.jazz-adlib.info/

石井康二 (b) 大口純一郎 (p)

左半身片麻痺 & 杖付きの私は傘がさせないため、出がけの通り雨を恨みながら、帰宅まで雨に降り込まれないことを念じて、晴れ上がった青空を仰ぎみながら自宅を飛び出した。

今夜のライブに出演のピアニストとはかねてより互いの神出鬼没振りをつとに認め合う間柄であったが、今日は、その中でもかなり意外なものであったと言えよう。(顔を見合わせ「まさか」、「まさか」の連発)ということで、今夜のライブは@関内アドリブ。私にとってはかなり久しぶり、2回目の訪問となる。店は歴史ある吉田町にあり、周辺には往時の港町横浜を偲ばせるどことなく異国情緒漂うビルも散見される。小腹の空いていた私は、その中の老舗蕎麦屋「角清」さんで少々の御神酒と蕎麦を手繰ってからの出陣となった。

今宵はピアノとベースのDUOプログラム。

ベースは、湘南、横浜などを中心に活動されている石井康二(ヤスジ)氏。対するピアノは、ご存知の大口純一郎氏である。大口氏と言えば、ひところは、毎月お逢いしない月は無い程の状態であっだが、氏の右手首負傷による活動抑制や、コロナ影響等により少しくご無沙汰が続いた後、前回7月下旬に開催された氏の「パーカッシブ3」レコ発ライブ@新宿ピットインでお逢いして以来の再会となった。私にとって2度目の石井さんは、今日が初アドリブ・初大口さんとのことであったが、決して派手さはないものの大口さんの息遣いに耳をすましながらの丁寧で安定感のあるベースワークに徹した。対する大口さんは、1stセット前半は、初共演故かところどころで探り合いの感も受けたが、それも徐々に解きほぐされ、次第に淡々と熱を帯びながらゆったりと弾き込んで行く様がなんとも印象的だった。スタンダードもあった。ボッサもあった。海外著名ミャージシャンのオリジナルもあった、そうして悶絶レベルの超スローなラテンもあった。それらを通して、ハコのサイズ感とピアノのコンディションの快適さとも相まって、このファーストコンタクトのコンビネーションもステージ終盤には快調な纏まりをみせるに至った。しかし総じて圧巻だったのは、時空のツボを瞬時に捉え、それをさらりと見事に表現する大口節が横溢していたところだろう。久しぶりに大口さんの旨味をじっくりと味わうことの出来た、そんな贅沢なハマの夜だった。空模様も我に見方してくれた。一滴の雨にも濡れずに無事帰宅、もご機嫌だった。

#105 9月07日(月)
横浜野毛 Jazz Spot ドルフィー
https://dolphy-jazzspot.com/

早坂紗知 (as) 永田利樹 (b) 田中信正 (p) 外山明 (ds)

まさに、「かくも長き不在」であった。プライベートでも親しくお付き合いをさせて頂いているこちらのご夫妻との対面は、本年2月に吉祥寺サムタイムでお逢いして以来、実に7ヶ月振りであった。

そう、今宵のライブはサックスの早坂紗知氏とこの前日めでたく61歳の誕生日を迎えられたベースの永田利樹氏を軸にしたカルテット。河岸は、各種コロナ感染予防対策も万全の横浜野毛ドルフィー。今夜のご夫妻のお供は、バンド TReS へのゲスト参加等で互いの音楽性を熟知しているピアニスト田中信正氏に加えて、様々なタイプ・規模の編成のバンドでその技が冴え今や引く手数多のドラムス外山明氏である。今日の私の最大の期待は、その外山さんのプレイがバンド全体をどうプッシュするかにあった。果たして、変幻自在のしなやかなドラミングは、当然ありきたりのリズムキープには留まらず、そのずらしが絶妙なタイム感を持ったグルーヴを産み出す独特のビートで巧妙にその音場の色合いを決定する呼び水となっていった。応えるサックス・ベース・ピアノも、嬉々として伸び弾けた。多彩色のリズムとメロディが渾然一体となってこちら聴き人に向け迫って来る。そんなスリル満載のひとときだった。このご夫妻の横浜方面でのライブは久しぶり。今後また、徐々に増やして行く予定だというお話を聞いて、私はなんとも嬉しい心持ちに。さらに終演後には、STAY HOME中に自作されたという、外山さんの「バラフォン」独奏まで飛び出すサプライズに、演者もお客様も皆が満足げな笑顔に包まれた。

#106  9月12日(土)
町田  Jazz Coffee & Whisky  Nica’s
http://nicas.html.xdomain.jp/

元山二郎クインテット(元山二郎b 吉田桂一p 中矢彬弘ds 松島啓之tp 安保徹ts)

今宵、私のライブの現場は、約1週間振りの@町田ニカズ。

ジャズの入門書風に言えば、1940年代は、ビ・バップの時代、続く1950-60年代は、ハード・バップの時代と言うことになるのだろうが、こちら我らがニカズという名のタイムマシーンでは、その約10-20年間の時の流れをわずか一週間で味わうことが出来るのだからなんともイカシテいる。先週金曜日に、バードライクのアルト澤田一範4 の快演に触れたのも束の間、今宵は、熱いスイングの一本道に出会うことに。

今夜のバンドスタンドには、元岡マスター曰く「ニカズ長年の四番打者」であるベースの元山二郎氏のクインテットが登場した。元山氏の他、ピアノ吉田桂一氏、ドラムス中矢彬弘氏という盤石のリズムセクションの前にトランペット松島啓之氏とテナーサックス安保徹氏が居並ぶという布陣。皆が旧知のほぼコアなメンバーで構成されているだけに、そのバンドサウンドのまとまりがなんとも言えず緊密である。其々に芸達者のリズムセクションが繰り出す波は大きなうねりを産み、その上を二管の厚いハーモニーがこの上なくメロディアスに乗り進み、一瞬たりともダレることなく、バンド全体がひとつの塊となって突き進んで行く。あっという間の2ステージが終わったその後に、我々聴き人の前には、外連味の無い熱いスイングの真っ直ぐな一本道が開けていた。

今宵は2ndセットで、積極的な学びの姿勢を持ち来店していたヤングシスターズ:ドラムスの小沼奏絵さん(先週の澤田4のドラム!)とトロンボーンの治田七海さんもシットインし、その非凡な才能を遺憾無く発揮しながら、ジャズと言う音楽が持つ懐の深さを熟練の先達と共に存分に見せつけてくれた。演奏中の演者達の嬉しげな表情がなんとも印象的なご機嫌なひとときを過ごさせて頂いた。

#107 9月13日(日)
自由が丘 アクト環境計画
プライベートリサイタル ‘entracte113’
高橋アキ (p)

本日日曜日のライブはクラシック。
それも現場は、コンサートホールでもライブハウスでもなく、住宅地の一角にある建築事務所の内部に設けられたインティメイトなライプスペースである。

ということで、

今日のライブは、ピアニスト高橋アキ氏のプライベートリサイタル ‘entracte113’@自由が丘アクト環境計画。
当初、3/1開催の予定が、コロナ禍による中止・延期の振替となったこの公演は、私にとってまさに待望のものであった。
それはとりも直さず、思ってもみなかったような得難いご縁を手繰り寄せた機会であったことにある。それはすなわち、主催者であるアクト環境計画代表・小林洋子氏が、なんと亡父小野正弘と、建築家槇文彦氏の事務所時代の同僚であり、加えて今日のコンサートには、父のことを良くご存知の槇事務所OBもお見えで、代官山のランドマーク・ヒルサイドテラスの初期部分をチーフとして担当するなど、約50年前の独立前夜の我がオヤジのコトなどを詳しく伺うことが出来たなんとも貴重なひとときとなったからである。

さて、肝心のライブである。

当夜の主役の高橋アキさんとは、本年1月の横浜エアジンでのライブ以来の再会。エアジンでご縁を頂いて以降、何度かメール等でのやり取りはさせて頂いてはいたものの、直接お逢いするとなると、やはりその感慨はひとしおである。
今夜は、事前のアナウンスで、プログラムは、 「サティとタンゴ集」とされていた。
ケージ・クセナキス・メシアン・武満らの現代音楽やビートルズと並び自家楽籠中のスペシャリティに期待も大きく膨らむ。
アキさんにとって今夜は、コロナ影響、自身の右手小指負傷などもあって、実に7ヶ月振りのライブの現場。それ故に、始まりは、慎重に探りながら、といった印象も垣間見られたが、そのタッチも次第に静かな熱を帯び始め、果たして「かくも長き不在」を全く感じさせない88鍵と10指との幸せな出会いに確たる意味があることを強く感じさせてくれる圧巻のパフォーマンスをみせてくれた。しかし、総じてそれは、あくまで思慮深く、極く穏やかに、密やかに。
前半のオールサティプログラムで場も程よく暖まった後半のタンゴパートでは、銘盤「ためらいのタンゴ」収録曲がその構成の中心となった。アキさんの手にかかると、哀愁を帯びたタンゴの調べは、俄然この国特有の湿度を纏い、そのデカダンスの風合いは絶妙に変容させられ明るい光りの兆しさへ差し込んで来る瞬間もあるのだから何とも不思議なものである。おっと、前半のサティパートのことを書くスペースが少なくなってきた。
今夜演奏されたのは、いずれも著名曲の数々であったが、丁度このサティタイムには、会場右手の大開口部の窓から見える夜の帳に沈んだ樹々が折からの強い風雨に大きく揺らいでいたこともあってか、アキさんのその肩の力の程よく抜けたタッチによって紡がれた、サティのあのひとをくったような軽みと洒脱さ それと背中合わせの不安定不均衡不穏の感触が印象的な響きと共に増幅された気が強くする。

以上、個人的な感傷とも相まって、随分とまとまりのない文章になってしまったが、とにかくこれ以上ない得難いご縁を満喫出来た休息日の宵だった。

≪※演奏中写真は、主催者のご厚意により、拝借しました。≫

#108 9月16日(水)
茅ヶ崎 Jazz & Booze ストリービル
http://www.jazz-storyville.com/

石井彰 (p) 東海林由孝 (g)

前稿・日曜日のクラシックに続いて、今日は再びジャズの現場へ。

今宵のライブは、@茅ヶ崎ストリービル。この9月でやっと開業2年を迎える、この道では新参店ながら、既に湘南地区屈指のライブの現場になっているハコである。

今夜は、ピアノとギターという、なんとも小粋な編成。そのピアノの椅子には石井彰氏が座り、一方でギターを抱くのは湘南・横浜地区を中心に地道な活動を続けている東海林由孝氏という、なんとも通好みの顔合わせが実現した。

このおふたりの共演と聞けば、期待するのは、派手さや、賑やかさ、奇抜さではない。ずばり、芳しさである。そこでは、キー(鍵)は、テンポになるとみた。果たして、百戦錬磨のおふたりは、ありきたりの心地良い掛け合いに持ち込むことはせずに、終始対等かつ適度な距離感を保ちながら極力じっくりと構えて、自らのフィールドに相手を巧みに引きつけ誘い込み、存分に唄ったことを確認した後で解き放して行く。そんな絶妙な弛緩のテンポ取りによって、やがてこちら聴き人はカタルシスを味わうことに。なるほど、当地では7月の共演以来2度目。前回の共演直後に演者みずから再演を熱望したという、その相性は抜群。たっぷりとして、ふくよか、そうしてちょっぴり重厚な口当たりの、まさに芳しき極上のワインの如き音場だった。2度ある事は是非3度あって欲しいものである。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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