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Live Evil 稲岡邦弥No. 234

Live Evil #28「日米友好コンサート / 米国空軍太平洋音楽隊・アジア」

text and photo:Kenny Inaoka 稲岡邦彌

Pacific Showcase with 豊田チカ

2017年9月12日 セシオン杉並ホール

第1部 米国空軍太平洋音楽隊・アジア
Love for Sale
Sunny Side of the Street
Cold Duck Time
Better Than Anything
In the Mood

第2部 with guest singer 豊田チカ
American Patrol
The Gift
Lover Come Back to Me
A Few Good Men
A Song for You
大きな古時計
Jumpin’ at the Woodside

アンコール
聖者の行進

 

10月27日と28日に開催される「阿佐ヶ谷ジャズ・ストリート」(当誌で「楽曲解説」を連載するボストン在住のヒロ・ホンシュクが「ハシャ・フォーラ」を率いて出演予定)のプレ・イベント。横浜に住んでいた頃、近くの米軍瀬谷通信部隊が「桜祭り」に出演させる軍楽隊の演奏をヨーキーの散歩がてら何度か聴きに行ったことがある。もちろんビッグバンド・ジャズを演奏するのだがフィジカルの優位さもありダイナミックで歯切れがよくマーチの名残りを感じさせたものだった。

MCによるとこの空軍太平洋音楽隊は専任の優秀な隊員で構成され、友好コンサートのために毎年何十回も各国を巡演しているのだという。なるほど、バディ・リッチの名演でお馴染みの<ラヴ・フォー・セール>、幕開けにふさわしい快調なテンポに乗ってドライヴ感たっぷりの演奏がオーディエンスの心を鷲掴みにする。ソロはセンターマイクを使うのだが、中には小走りで駆けつける隊員もいて思わず頬が緩む。女性隊員のヴォーカルをフィーチャーした<サニーサイド>を挟んでエディ・ハリスの<コールド・ダック・タイム>はギターをエレキに持ち替えて一転ファンキーなノリに。ワインで乾杯だ!再登場の女性隊員のスインギーなリバイバル・ヒット<エニシング>で身体を揺らし、グレン・ミラーの代表曲<イン・ザ・ムード>で一部は幕。若い世代からシニアまで楽しめるよく練られた選曲とアレンジに脱帽だ。

2部はマーチの名曲<アメリカン・パトロール>で快調にスタート。ソロを加えたジャズ・スタイルだが彼らにとっては鉄板のナンバーだろう。僕には馴染みのない<The Gift>を挟んで豊田チカがステージ映えのする体躯をステージに運ぶ。豊田は大橋巨泉とマーサ三宅夫妻の次女だが、長女の大橋美加共々僕は今まで生で出会う機会がなかった。地元のPTA活動などのマクラでオーディエンスとコミュニケーションを図ったあと<ラバカン>でスケールの大きな歌唱を披露する。<ア・フュー・グッド・メン>は、米海軍で発生した事件に取材した映画のテーマだそうだが、音楽隊のメンバー紹介に「軍曹」やら「曹長」「上等空兵」など位階が付くのを聞くと彼らが現役の軍人であることを改めて認識する。ちなみに僕の父は「曹長」止まりで、「曹長殿お変わりありませんか」など旧軍隊の兵隊から年賀状が届いていたのを思い出した。レオン・ラッセルの<ア・ソング・フォー・ユー>は、アニタ・オデイの再起作『Anita 1975』(Trio+Kenwood) でも歌ってもらった僕のフェイヴァリット。アニタはやや息切れ気味だったが、豊田はダイナミックな中にも隠し味を秘めた軍楽隊のバックを得てエモーションを込めドラマチックに歌い上げた。テクを誇示せずケレン味のないその歌唱にとても共感を覚えた。編曲は小川俊彦だそうだが、報われることの多くはアレンジャーの名前をさりげなく口に出す豊田の心遣いに彼女の人間味を垣間見た。小川は地味だが名伴奏者としてもヴォーカリストに愛されたピアニストだ。豊田と女性隊員のヴォーカルをフィーチャーした<大きな古時計>は当夜のハイライトで日米友好のシンボル的演奏だった。原曲はアメリカで数年前に平井堅の歌唱でリバイバル・ヒットした。アレンジは日本の若い女性だが名前は聞き漏らした。豊田が日本語で隊員は英語で1コーラスずつ歌い、3コーラス目は豊田が上、隊員が下の見事なハーモニーを聴かせた。締めはやはりカウント・ベイシーだ。バディ・リッチで幕を開け、ベイシーで閉じる、アメリカの豊穣なジャズ文化だ。白人隊員中心の軍楽隊だが、アフリカン・アメリカンのバリサックスもいる、女性隊員のトロンボーンとヴォーカルもいる。じつに配慮の行き届いたバンド構成だ。アンコールは<聖者の行進>で、幕開け同様、メンバーが客席の通路をマーチングしてオーディエンスと触れ合った。サッチモのダミ声を模倣したサックス奏者のサービス精神も満点といったところ。

終演後ホワイエからハサードまで隊員が並び、オーディエンスと握手をしたり、写真撮影に応じたり、最後の最後まで触れ合いに徹する彼らの姿を見て、東北大震災における米軍の「ともだち作戦」を思い出していた。

 
 

追)阿佐ヶ谷ジャズ・ストリート2017でも彼らの演奏を楽しむことができます;
10/27(金)18:00〜20:00
豊田チカ+椎名豊トリオ@新東京会館3Fホール(前売:2800円/当日:3000円)
10/28(土)12:00〜13:00
パシフィックショーケース@JR阿佐ヶ谷駅南口噴水前特設ステージ(入場無料)

10/28(土)13:30〜/14:45〜

大橋美加+松尾明トリオ@阿佐ヶ谷地域区民センター

♩ 阿佐ヶ谷ジャズ・ストリート2017
http://www.asagayajazzst.com/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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