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Reflection of Music 横井一江No. 322

Reflection of Music Vol. 101 纐纈之雅代


纐纈之雅代 @JAZZ ART せんがわ 2024 & メールス・フェスティヴァル 2024(*)
Masayo Koketsu @JAZZ ART Sengawa, November 8, 2024 & Moers Festival, Germany, May 19, 2024(*)

photo & text by Kazue Yokoi  横井一江


* Moers Festival 2024

一昨年だったと思う。纐纈雅代(当時*)がソロ・アルバムを出していることを知ったのは。2022年リリースの『FUKIYA』(Relative Pitch Records, 2021年録音) である。そこには纐纈のこれまでのサウンドへの探求が凝縮されていて、ソロでなければ表出し得ない音世界があった。

今あらためて『FUKIYA』を聴き返したが、冒頭のロングトーンから耳が覚醒させられた。積み重ねられるサウンドからは、アンブシュアやタンギングなどサックスによる表現をさまざまに研究してきたことが窺いしれる。そのフリー・インプロヴィゼーションは構造的というよりも直感的なのだが、サウンド自体はコントロールされており、微細な音や間合い、倍音の響きも含めてひとつの作品として形成されていた。彼女のサックス、時には鵺の鳴き声のように聞こえるそれからは、激しさやロンリネス、内面から湧き上がってくる情動もまた強く感じる。そして、彼女が独自に編み上げた奏法や密度の高い演奏から、このアルバムについて語る時に阿部薫を引き合いに出す人もきっといるだろうなと思った。音像からそう感じたとしても不思議はないからである。

昨2024年はどういう巡り合わせかわからないが、彼女のステージ、それも異なる共演者によるものを幾つも観た。特に追いかけているわけではなかったので偶然の賜物というか、足を運んだフェスティヴァル他に出演していただけなのだが。メールス・フェスティヴァルでは本ステージではペーター・ブロッツマン追悼企画 ”BRÖZZFRAU”、サブステージでの国籍の異なる4人の女性ミュージシャンによる”…Nix Berauschendes“ [纐纈雅代、セシル・ラティルゴ Cecile Lartigau (ondes martenot)、カリーナ・コジェフニコワ Karina Koshevnikova (voc, p)、ブルーナ・カブラル Bruna Cabral (dr)] 、またセッションにも参加していた。海外のジャーナリストや関係者が口にしていたのは「彼女は自分のヴォイスを持っている」ということ。幾つかの媒体では写真も含めて取り上げられていた。とはいえ、昨年見たステージで最も印象的だったのは、11月に行われた第17回 JAZZ ART せんがわでの『宇宙の仙川』と題したステージだった (→リンク)。共演者はアンドレア・チェンタッツォ Andrea Centazzo (perc, etc) と藤原清登 (double bass, etc) 。この顔合わせでの即興演奏は初めてだったが、三者が合間見えることで創出されたのは「宇宙の仙川」を表象するような音空間、纐纈は時に鋭く切り込み、時に音響的なアプローチをするなどソロ演奏で見出した手法も生かされていたのではと推察した。

話は遡るが、彼女の存在を知ったのは『鈴木勲/ソリチュード フィーチャリング纐纈雅代』(SONY, 2008) というアルバムにおいてだった。女性サックス奏者が次々と音楽シーンに登場しはじめた頃だったように記憶しているが、その中でも異色な存在だったのを覚えている。鈴木勲 OMA SOUND で数年活動した後、斉藤良のバンド 秘宝感[スガダイロー (piano)  纐纈雅代 (sax)  斉藤良 (drums)  福原千鶴 (鼓)   佐藤えりか (bass)  熱海宝子 (秘)]、板橋文夫オーケストラ、渋さ知らズ、近年ではヒカシューに参加する他、実に多彩なミュージシャンと共演を重ねている。しかし、彼女自身のユニットは私の知る限り2010年代に活動していた “Band of Eden“[纐纈  (sax, vocal, mbira, chorus, kaossilator)  内橋和久 (guitar, daxophone)  伊藤啓太 (bass)  外山明 (drums)] だけである。とはいえ、見方を変えれば多くの即興演奏家のようにセッションを重ねていく行き方のほうが合っているのかなと思っていた。ところが、1月に自身のバンド「如意ン棒」[纐纈之雅代 (sax)  潮田雄一 (guitar)  落合康介 (bass, 馬頭琴)  宮坂遼太郎 (percussion)]によるCD『ぜんぶ、流れ星のせい』を Somethin’Cool からリリースする。初顔合わせでの録音だという。<セントルイス・ブルース>、<ロンリー・ウーマン>、オリジナル曲、そして集団即興演奏が収録されているが、録音の良さも相俟って完成度の高い作品となった。纐纈之雅代は日本フリージャズ史を21世紀の今日的に引き継いでいくひとりといえる。このバンドも含めた彼女のさらなる国内外での活動を注視していきたい。



注: 昨2024年、纐纈雅代はアーティスト名を纐纈之雅代に変えた。

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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